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40.思わぬ展開です

誤字報告ありがとうございます。変換ミスを見逃していることが多いので助かります。それから方言を標準語だと思い込んでいることもあるかもしれないです…

 エドワードはアルフレッドを一瞥し軽く息を吐くと、リリアンナの肩を抱き寄せる。


 何故こんな火に油を注ぐ真似をするのかとリリアンナが目を眇めるのと同時に、アルフレッドの怒声が部屋に響き渡った。


「お前っ、リリィに何をしてるんだ! その手を離せ、てか離れろっ!!」

「婚約者同士仲睦まじくすることの何が悪い? それに、恋人同士でもあるしな」

「誰が恋人同士だっ! 婚約者と恋人は同じではないだろうがっ!!」

「完全な政略結婚ならそうだろうが、僕達はちゃんと想い合っているから恋人で間違いないよ」


 二人の言い合いに、何だこの地獄はと頭を抱えた後、リリアンナは表情を消しそっと溜息を漏らす。


 エドワードは肩を抱き寄せただけでなく、しっかりとリリアンナを腕の中に閉じ込めており、必要以上にアルフレッドを煽っている。


 リリアンナを溺愛しているアルフレッドは更に激昂し語気を強め、今にもエドワードに飛び掛かりそうな勢いだ。


 リリアンナを巻き添えにしてしまうので、実行せず堪えてはいるが。


 いつまで続くのだろうかと途方に暮れていると、唐突にエドワードがリリアンナを抱き上げる。


 小さく悲鳴を上げながら咄嗟にエドワードの首にしがみつくと、一瞬満足げな笑みを浮かべたエドワードは、ソファーへと歩き出した。


「リリィとの時間を台無しにされたのは許せることではないが、お前にも話しておかなければならないことがあるから丁度いい。さっさと座れ」


 突然話を切り替え、エドワードがソファーに腰を落ち着けるが、何故かリリアンナを膝に抱き抱えたままだ。


 どういう状況だと頭痛を覚えながら、リリアンナは尚も騒ごうとするアルフレッドを嗜めた。


「エドッ! お前……」

「お兄様! 取り敢えず落ち着いてください。そして、早くソファーに座ってください。こちらではなく向かい側にですからね」

「ぐっ……!」

「それから、部屋に入る時は扉をドンドンと叩くのではなく、ノックをして返事を聞いてからにしてくださいね」

「うっ……!」


 リリアンナに可愛らしく睨み付けながらそう言われては、アルフレッドはその通りにするしかない。


 歯軋りしながらも言われた通り向かいのソファーに浅く腰掛けたアルフレッドを視認すると、リリアンナは徐にエドワードを至近距離から見据えた。


「それでエド? どうして私は貴方の膝の上にいるのかしら?」

「学園ではリリィに関わることができないから、完全にリリィ不足なんだ。これくらいはしないとリリィを補充できない」

「……っ!? 馬鹿なこと言ってないで降ろして! 話って真面目な話なんでしょう? このままの状態ですることではないわ!」


 真っ赤な顔でリリアンナがそう叫ぶと、エドワードが渋々ながら隣にそっと降ろす。


 エドワードは暫し納得できないと渋面を作っていたが、深く息を吐き出し居住まいを正すと表情をがらりと切り替えた。


「アルフレッド、ジェシカ・ボロネスとマーク・ドリアスは覚えているか?」

「ああ、俺が一年の時に問題起こして退学になった挙句、貴族籍を剥奪された奴らだろう? 二人とも俺の二つ上で、伯爵家の令嬢と令息だったな」

「そうだ。二人とも、今は犯罪者就労施設で犯罪者達の相手をしているがな」


 それがどういう意味か、正確に理解したアルフレッドが眉を顰める。


 それは、二人の境遇を考えてではなく、リリアンナの前でその話をしたことに対してだ。


 だがリリアンナは、王太子妃教育の一環として、罪に問われた者達が受ける罰を一通り知っている。


 この程度でいちいち恥ずかしがったり取り乱すことなどない。


 彼らが、マークが懸想していた侯爵令嬢の婚約を壊そうとして媚薬を用いた騒動を起こし、大事になったことを考えれば、寧ろ妥当だと思っているほどだ。


 マークはその令嬢と、ジェシカはその婚約者である侯爵令息と関係を結ぼうとして失敗したが、使われた媚薬が違法な手段で入手された禁止薬物だったことから、即刻退学処分となり罰を受けている。


 表向き被害者が誰なのかは公表されていないし、被害者の二人も無事だったとされているが、真実を知る者達は、当然相応の罪を償わせることを選び、二人の生家も伯爵家から男爵家へ降爵となった。


 爵位剥奪にならなかっただけマシだと言われているほどだ。


 想い合っていた被害者の二人が意に沿わぬ相手に穢されることなく、今は結婚して幸せになっていることだけが唯一の救いだろう。


 しかし何故ここでマークとジェシカの名が出てきたのかとリリアンナが不審に思っていると、再度深く息を吐き出したエドワードから、驚愕に値する事実が告げられた。


「ジェシカ・ボロネスが、ララ・バロックと同じ特性の能力を持っていることが判明した」

「なっ…! いや、しかし、言われてみれば、その二人は言動が同じだな。ジェシカ・ボロネスは、マーク・ドリアスには従順だったが、それ以外の相手にはやたら攻撃的だった」


 目を見開き絶句しかけたものの、実際にジェシカとマークを知るアルフレッドは、納得した表情で頷く。


 アルフレッドによると、ジェシカは被害者である侯爵令息に対しても攻撃的で不遜な態度を取っており、媚薬を盛ってまで関係を結ぼうとしたことに疑問を持っていたらしい。


 だが、ララと同じ特性の能力を持っており、マークと魔力の相性が良いのであれば、その行為にも説明が付く。


 マークに依存し隷属していたからこそ、彼の望みを叶える為ならば、気に食わぬ相手に身を差し出すことすらも厭わなかったのだろう。


 そしてジェシカも、アンナやララ同様、家族と比べて極端に魔法力が低かった。


 そのことから王宮と魔法省は、近い身内に比べ魔法力が著しく劣る者は特性持ちである可能性が高いとして、既に調査を始めているそうだ。


「我が国の高位貴族には見当たらなかったが、下位貴族には数人当て嵌まる者がいる。それに、周辺各国にも、検証の為に調査協力依頼をしているところだ」


 だが問題は、どうやって特性かどうかを見極めるかということだ。


 現状、フォレスト王国で最も魔法感知能力に優れていると言われるリリアンナとエドワードでさえ、集中して注意深く見なければ、ララが特性の能力を使用した痕跡に気付けなかった。


 それも、特性ではなく魔法の痕跡だと思い込んでいたのだ。


 そのことから、特性の能力を持つ者が現れるのが稀だったのではなく、見落としていただけではないかとの結論に達した。


 だがしかし、その痕跡や発動の際の反応が限りなく薄い。


 少なくとも、リリアンナやエドワードに匹敵する魔法感知能力を有した者が関わるのが望ましいが、現時点でそれはルイス一人だけだ。


 この三人に準じるのは、国内ではギルバート、フランツ、エレノアにアルフレッド、そしてトビアスだけである。


 フォレスト王国と他国とでは魔法力に大きな差があることを考えれば、大陸中を見ても他にはいないだろう。


「特性かどうかを見極める調査には、アルフレッド、お前にも協力してもらう事になる。今回のように犯罪に繋がりやすい能力を持っているかもしれないとなれば、放置する訳にはいかないからな」

「分かった、それが妥当だろうしな。学園を卒業すれば、俺が一番身動きが取れる」


 エドワードとアルフレッドが、神妙な顔で対策を講じていく。


 それをリリアンナは、予想以上に大事になってきたと複雑な表情で見守っていた。


 アンナの奇行から端を発した騒動は、思わぬ事態へと発展していたのであった。

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