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39.作戦開始です

 新学期が始まり、ミレーヌと共に馬車で登校したリリアンナは、ついに今日から例の作戦が始まるのかと思うと何処となく憂鬱だった。


 リリアンナ自身納得して受け入れたことではあるが、これからクラスメイト達には存在しない者として、空気同然に扱われることが決まっているのだ。


 お互いにそんな演技をしながら学園生活を送るのだから、恐らく毎日妙な気疲れをする羽目になるだろう。


 それはそれとして、アンナは魔法省から通うことになるが、登下校はどうするのかは聞いていない。


 魔法省の調査担当者が、学園での監視に付くとは聞いているが、どのような手段を取るのかは秘匿されることになっている。


 ただアンナの特性の能力に関しても秘匿されているのだから、彼らがアンナと一緒に登下校するとは思えない。


 ならばまさかと考えていると、王家の馬車が学園の門を潜るのが見えた。


 胸が騒つくのを感じながら馬車が停車する様子を眺めていると、クリフ、エドワードの順で降り、その後に見えた女子生徒の姿に、嫌な予感が当たったと頭が痛くなる。


 クリフの差し出した手を取り馬車から降りてきたのは、リリアンナの予想通りアンナだ。


 一見、彼らは仲睦まじく笑い合い、親密そうな関係に見える。


 遠目からだと、演技だと知っていてもそれが自然に見えるほどだ。


 当然の如く、周囲でその様子を目にした、事情を知らない生徒達が騒然としていた。


 リリアンナも、流石にこれはまずいのではないかと眉を顰める。


 幾ら監視が必要だとしても、こんなに堂々と王家の馬車で共に登校すれば、要らぬ憶測を呼びかねない。


 アンナの奇行が学園中に知れ渡っている以上、下手すればエドワードの評判や評価にも傷が付く。


 特性の能力を調査する為に好意的に接しなければならないというのは理解しているが、ここまでする必要があるのかと、頭の中でぐるぐると考えてしまう。


 尤もらしい言葉を並べてごちゃごちゃと考えているが、結局のところ、リリアンナは目の前の光景に複雑な心境を抱いていただけだった。


 王家の馬車で一緒に登校するのが何故自分ではなくアンナなのかとか、アンナの所為で学園ではエドワードに存在を無視されることになったのにとか、色々と恨み言が湧いてくる。


 頭の中で理解していることと感情は別なのだということを、無意識のうちに体感していた。


 リリアンナ自身は気付いていないが、この状況にはそれなりに衝撃を受けていたのである。


 だが、直後にそれを更に上回る衝撃を受けることになった。


 しかも今度は、リリアンナ自身も自覚している。


 話し声が聞こえるほど彼らが近くに来た時、聞こえてきたエドワードの声の甘さに、リリアンナは愕然とした。


 その声はリリアンナですら聞いたことがないほど甘く、ともすると胸焼けがしそうなくらいだ。


 甘い声や空気が途轍もなく恥ずかしくて苦手なリリアンナは、これまでも二人きりの時は、エドワードの声が充分過ぎるほど甘いと感じていたし、それが限界だった。


 だが、今アンナに向けている声は、それより更に甘い。


 流石にこれは無理だ、耐えきれないと、リリアンナはそんなことを考えながら呆然としていた。


 打ち合わせ通り、エドワードはリリアンナに何の反応も示さず、アンナと談笑しながら通り過ぎていく。


 アンナがクリフにエスコートされながら、すれ違いざまに勝ち誇った顔を向けてきたが、それを気にするどころではない。


 隣にいたミレーヌは、「うわぁ、エドとクリフの目が死んでる……」と呟いているが、その声も聞こえてなければ、エドワードのその様子にも気付いていなかった。


 周囲の者達は、リリアンナがショックを受けていることには気付いていたが、まさかそんな斜め上の理由でショックを受けているとは微塵も考えていなかったことだろう。


 そしてエドワードは、昼休みは王族専用施設でリリアンナと一緒に過ごせると、それだけを支えにしていた。


 だが彼を見る度にあの許容範囲外の甘い声を思い出していたリリアンナに、別の部屋を利用すると宣言され、膝から崩れ落ちるという災難に見舞われたのだ。


 そのツケが回ってきたのは、その日の夜のことである。


 学園が始まれば毎日転移魔法陣を使って会いに行くと宣言していた通り、オルフェウス侯爵家のタウンハウスにやって来たエドワードは、リリアンナの部屋に入るなり彼女を抱き締め逃げられなくすると、何度もキスを重ねた。


 軽く触れたかと思うと、角度を変え強く口付けたり、リリアンナに文句を言う隙を与えないほど、何度も執拗にその唇を塞ぐ。


 最後に深く口付け漸く唇を離すと、腰が抜けたリリアンナが、エドワードにくたりと寄り掛かった。


「キスは暫くお預けだって言ったのにっ……!」

「もう一週間は経ってるから問題ないよ」

「その間、顔を合わせてるかどうかで話は違ってくるでしょ……!」


 言葉での抵抗もエドワードにあっさりと流され、リリアンナは真っ赤な顔で睨むが、意地の悪そうな笑みを浮かべた彼に、手触りを楽しむように髪を撫でられそこにも口付けを落とされる。


 何とか自力で立てるくらいには回復したリリアンナはエドワードの胸を叩こうとするも、近付いてきた魔力の気配に慌ててその身を離した。


 直後に扉を叩く音が聞こえたかと思うと、こちらの返事を確認することなくそれが開かれる。


 部屋に飛び込んで来た相手が誰なのか、態々確認するまでもなかった。


「エドッ! お前何やってるんだ!? って、リリィの顔が赤いのはどういうことだ? リリィに一体何をした!」


 部屋に飛び込んでくると同時にリリアンナとエドワードの状況を確認したアルフレッドが、大声で一気に捲し立てる。


 その様子に何だか面倒なことになったと、リリアンナは遠い目をして現実逃避を図るのだった。

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