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36.こちらの能力も厄介そうです

 王都へ戻ったその日、魔法省へ行っていた父フランツは、タウンハウスに戻るついでに預かったというエドワードからの手紙を持ち帰ってきた。


 その際のフランツが何やら気難しげな顔をしていたので気になって尋ねると、どうもアンナが特性持ちであることが確定した上、こちらも厄介な能力である可能性が高いとのことだ。


 まだ詳細な部分は分かっておらず、色々と調べている最中とのことだが、この件を担当することになったエドワードや魔法省の調査担当者達が、アンナからのストレスで平静を保てない所為で、進捗が思わしくないらしい。


 しかも、その方向性がおかしなことになりそうだということで、頭を悩ませているそうだ。


 フランツもそれ以上詳しいことは教えてもらえなかったらしく、面倒なことになるかもしれないという程度のことしか分かっていない。


 兎に角、手紙を読もうと一旦部屋に戻り中を確認すると、二日後に登城するよう書かれていた。


 場所は王族居住区ではなく一般区域にある会議室であることから推測するに、他にも同席する者がいるのかもしれない。


 手紙には場所と日時だけで、詳しいことは何も書かれていないのでその意図は分からないが、恐らくアンナの件と無関係ではないだろう。


 リリアンナ自身はアンナの調査には手出ししないよう王命が下されているが、関係者ではあるので経過や結果を知る権利がある。


 恐らく学園が再開するまでに、今後の方向性くらいは報告があるのではないだろうか。


 もしかしたら、それより先に何か知らされることがあるかもしれない。


 その件とは別に書かれた手紙の最後の一文を読んで、何となくそんな気がしていた。


 そして、それに関する答えが得られたのはその日の夜のことだ。


 普段であれば湯浴みをしている時間、この日敢えてその時間をずらしていたリリアンナは、自室から一番近い隠し部屋にある転移魔法陣が稼働する気配を感じ取った。


 その隠し部屋と繋がっている隠し通路の入り口の前に移動すると、程なくしてそれをノックする音とその相手の名が告げられる。


 魔力の気配から間違いなく彼であることを確信したリリアンナが壁に偽装された隠し扉を開けると、室内に入ってくると同時に、その人物から息苦しくなるほどきつく抱き締められた。


「ちょっと、エド! 苦し…、んんっ!?」


 苦しさから少し離れろと抗議しようと顔を上げると、エドワードから強く唇を塞がれる。


 キスは初めてではないどころか、数えきれないほどしているが、これまでは軽く触れ合わせるだけでこんな強引なキスは初めてだ。


 息苦しさから思わず空気を求めて僅かに唇を開くと、更に深く口付けられる。


 その初めての感触にリリアンナがパニックに陥りエドワードの胸を叩くと、漸く唇が離された。


「なっ、エド! 何して……!」


 顔が熱くなっているのを感じながら、言葉にならない言葉で抗議するが、エドワードはそれに応えることなくリリアンナの頭に頬を擦り寄せてきた。


「ごめん。リリィ、ちょっと癒して」


 先程よりは腕の力が緩められたが、エドワードはリリアンナを抱き締めたまま微動だにしない。


 リリアンナとしては恥ずかしくてたまらないが、真っ赤な顔を見られるのもそれはそれで恥ずかしいので、胸中は複雑ながら黙ってそれを受け入れる。


 それに、今のエドワードがストレスで限界になっているのは明らかで、流石にこの状態の彼を拒絶する気にはなれなかった。


 エドワードが利用した転移魔法陣は、二人の婚約が成立すると同時に設置された、王宮とオルフェウス侯爵家のタウンハウスとを繋ぐ転移魔法陣だ。


 王族居住区のエドワードの私室近くにある隠し部屋と、オルフェウス侯爵家のタウンハウスのリリアンナの私室近くにある隠し部屋にそれぞれ設置されている。


 その両方の転移魔法陣を起動させるのも、それが設置された隠し部屋の扉を開けるのも、エドワードとリリアンナの二人にしかできない仕組みになっており、当然利用するのもこの二人しかいない。


 リリアンナは王太子妃教育の為に登城する際はこの転移魔法陣を利用していたので、頻繁に登城するのを周囲に見られずに済んでいたのだ。


 これは、王族の婚約者が誰なのかを特定させない為に考え出されたものである。


 手紙でエドワードがこの転移魔法陣を利用して会いに来るのを知っていたリリアンナは、寝衣で会う訳にもいかないので、それで湯浴みの時間をずらして待っていたのだ。


 暫しリリアンナの髪に頬を擦り寄せていたエドワードが名残惜しそうに身体を離すと、二人はソファーへと移動した。


 侍女に頼んで準備させていたアイスティーを二人分グラスに注ぐと、魔法で少し冷やしてからエドワードの前に置く。


 ありがとうと礼を言ったエドワードがそれを飲み一息ついたところで、リリアンナはこの訪問の意図を尋ねた。


「それで、今日はどうしたの? 何か用があったから来たのでしょう?」

「まあ、用があるのは間違いないけど、一番は早くリリィに会いたかったからだよ」


 照れもせずに真顔でそう言われ、リリアンナの顔がまた赤くなる。


 どちらかと言えば甘い言葉や空気が苦手なリリアンナは、それが恥ずかしくて仕方ない。


 エドワードの方はそんなリリアンナが可愛くて仕方ないので、態とやっている部分もあるが、実はこれでもリリアンナの為に抑えていることを知れば、恐らくリリアンナは卒倒してしまうだろう。


 熱くなった頬を両手で押さえ、軽く睨むと、エドワードが苦笑しながら話し始める。


 それは予想通り二日後の登城に関することで、話を聞き終えたリリアンナはそっと溜息を漏らした。


「それは、仕方ないわね……」

「僕としては心苦しいけどね。今のところ、それ以外に良い策が思い浮かばない」


 エドワードが腹立たしげに眉を顰める。


 まだ決定事項ではないが、そうなる確率が高いことに、二人は揃って顔を曇らせた。


「取り敢えず、今日はそれだけかな。名残惜しいけど、リリィも戻ってきたばかりで疲れてるだろうから、これで帰ることにするよ」


 エドワードを見送りに転移魔法陣がある隠し部屋まで行くと、再び強く抱き締められた。


 そして、そっと離れようとすると、また不意打ちで軽く口付けられる。


 今度は直ぐに唇を離し意地の悪い笑みを浮かべたエドワードを真っ赤な顔で睨んだ後、リリアンナは彼を無言で転移魔法陣の上に押し込んだ。


「不意打ちはやめてっていつも言ってるでしょう! 暫くキスはお預けだからね!!」

「えっ!? ちょっとリリィ……」


 慌てるエドワードをよそに、リリアンナは素早く転移魔法陣を起動させる。


 転移魔法陣の内側にいる場合と比べると、外側から起動させるのはかなりの高等技術であるにも拘らず、リリアンナがそれをあっさりとやってのけると、エドワードの姿が一瞬で消えた。


 そして、エドワードがいなくなった部屋でリリアンナは真っ赤な顔を両手で隠すと、その場で蹲り、暫くそのまま動けなくなっていたのだった。

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