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24.異変

 夏休み明け初日、馬車を降りたリリアンナとミレーヌが校舎へと歩みを進めていると、王家の馬車が校門を潜るのが遠目に見えた。


 エドワード達が生徒会に入って以降、一緒に登下校することはなくなっているので、朝は教室に着くまで顔を合わせないことも多く、王家の馬車が学園に入ってくるところを見たのも数える程しかない。


 リリアンナ達は何となく立ち止まり、エドワード達が馬車を降りるのを眺めていると、思いも寄らぬ光景を目撃することとなった。


 まずクリフが降り、次にエドワードが降りるのはいつも通りだが、その後、クリフの手を取り馬車を降りてきたのは、要警戒人物であるアンナだ。


 それだけでも充分驚きだが、遠目から見た様子では、エドワードやクリフと和やかに談笑しているように見える。


 調査を進める中で、アンナを王宮の監視下に置く必要があると判断され、それにより学園の寮を退寮したことは聞いていたが、流石にこれは聞いていない。


 信じ難いその光景に、ただ呆然として絶句してしまう。


 そのままクリフがアンナをエスコートする形で、エドワードと三人こちらに歩いて来るが、直ぐ側まで来てもリリアンナ達に気付く様子はない。


 他愛ない世間話をしながら目の前を通り過ぎていった彼らは、まるでリリアンナなど存在していないかのように一切気に留めることはなく、アンナの教室がある校舎へと消えていった。


 恐らく、アンナを教室まで送り届けるつもりなのだろう。


 それはそれで衝撃を受けるが、それ以上に、エドワードの声にかつてないほど動揺していた。


 内容は単なる世間話だったとしても、その声はリリアンナですら聞いたことがないほど甘く響くものだった。


 それをアンナに向けていたのだ、婚約者のリリアンナにではなく。


 エスコートでアンナに触れているのはクリフで、エドワードは適切な距離を保っている。


 だが傍目には、二人が親密そうに見えるのに変わりはなく、それは何の慰めにもならない。


 リリアンナの頭の中は、先程のエドワードの甘い声で占められていた。


 だからこそリリアンナは気付いていない。


 エドワードの顔は笑みを形作ってはいるものの、その目は何の感情も映していないことに――。


 そのまま教室に向かい扉を開ければ、クラスメイト達は一瞬こちらに目を向けるが、直ぐに何でもなかったかのように逸らされた。


 それは、扉が開く音がしたけど誰もいなかったと言わんばかりで、誰もリリアンナに気を留めないどころか、認識すらしていないかのように思われる。


 一緒にいるミレーヌには反応を返すのに、リリアンナには誰も反応することはない。


 アンナの件で迷惑を掛けてはいるものの、友好的な関係を築けていたはずのクラスメイト達にも、エドワードとクリフ同様、リリアンナのことは存在自体していないかのように扱われている。


 この中で例外は、ミレーヌとルイスだけだ。


 そして二人以外のクラスメイト達は、以前のようにアンナが教室に押し掛けてきても、嫌悪感を露わにすることはなく、それどころか好意的な態度を示していた。


 エドワードと何人かの男子生徒は、アンナに対し、優しげな口調で言葉を掛けるまでしている。


 それにはリリアンナを非難するものは一切含まれていないが、それがより、リリアンナなど存在していないと強調しているように思えてしまう。


 教師達のアンナに対する態度は変わらないが、クラスメイト達のアンナと、そしてリリアンナに対する態度は夏休み前とはがらりと変わっていた。


 それはこの日に限ったことではなく、それ以降も続いている。


 次第にリリアンナの方も、ミレーヌとルイス以外には何の反応も示さないようになっていった。


 お互いがお互いを、存在しないものとして扱うようになっていたのであった。

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