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2.不気味な行動の始まり

 その不気味としか言えない謎の行動が始まったのは、学園に入学した直後、正確には入学式当日のことだ。


 入学式が終わり、自分のクラスに割り当てられた教室で担任教師から簡単な挨拶と明日以降の説明を受けた後、リリアンナ・オルフェウス侯爵令嬢は、同じ新入生である幼馴染達と馬車の待機場所へと向かっていた。


 珍妙であるとしか言いようのない事件が起きたのはその時だ。


 王太子でありリリアンナの婚約者でもあるエドワード・フォン・フォレスト、卒業後は騎士団へ入団することがほぼ確定しているクリフ・トリアード公爵令息とミレーヌ・ウィステリア侯爵令嬢、エドワードの側近となることが期待されているルイス・コルト侯爵令息、そこにリリアンナを含めた五人は、出会った六歳の頃から親密な関係を築いてきた。


 五人全員が同じクラスになれたことを喜びながら王族や高位貴族家の馬車が待機するエリアへと足を踏み入れたところで、ミレーヌの緊迫した鋭い声が響き渡った。


「リリィ!」


 ミレーヌが庇うようにリリアンナの肩を抱くより先に、隣にいたエドワードに強く抱き寄せられる。


 それとほぼ同時に、ミレーヌの制服のスカートを掠めるように小柄な少女が地面に倒れ込んでいた。


 音からしてかなり派手に転んだようで、痛みからか暫く蹲ったまま微かに身体を震わせている。


 一瞬呆然とその様子を眺めた後、呆気に取られている場合ではないと少女に状態を確認しようとしたところ、その本人から理解不能としか言えない罵声を浴びせられた。


「酷いです、リリアンナ様っ! 私が気に入らないからって突き飛ばすなんてっ!!」

「……えっ?」


 何を言われたのか、いや、何がどうなったらそんな言葉が出てくるのか理解できず、思わず言葉を失ってしまう。


 それは幼馴染達も同様で、誰もが彼女の言葉を理解できず、暫し言葉を失い硬直していた。


 そんな状態から逸早く復帰したのは、常に取り乱すことなく冷静であるよう、王太子として厳しい教育を受けてきたエドワードだった。


「リリィ…、リリアンナは君に触れてなどいない。君を突き飛ばすことなどできるはずがないだろう。妙な言い掛かりはやめてくれ」

「そんなっ! エドワード様はリリアンナ様を庇われるのですか!? こんなに酷いことをされたというのに!!」

「魔法を使えば可能かもしれないが、魔法使用に対する警告音は鳴っていない。ここでの使用もその対象になっている以上、リリアンナは魔法を行使していないし、私もそれを感知してはいない。リリアンナが君を突き飛ばすことは不可能だ」

「被害者の私ではなく加害者のリリアンナ様の味方をするなんて酷すぎます…。エドワード様がこんなに不公平な方だなんて……」

「いい加減にしてくれ。これ以上は不敬とする。それに、私と君は初対面、名を呼ぶ許可など与えていない」

「そんなっ! どうしてそんなことを……」

「エドワード様、このままでは埒が明かないかと。この者は私が職員室に連行します」

「そうだな。ミレーヌ、頼んだ」

「はい、お任せください」


 尚も訳の分からないことを言い募ろうとする少女の言葉を遮り、ミレーヌが普段の幼馴染としての気安い態度ではなく、疲れを滲ませながらも臣下として毅然とした態度でエドワードに進言する。


 同じ騎士候補でも、異性であるクリフではなく同性であるミレーヌの方が適任であるし、少女の対処も教師達に任せた方がいいだろうと、エドワードは迷うことなくその言葉に頷いた。


 そしてミレーヌが大声で喚き続ける少女を容赦なく引き摺っていくのを見送りながら、その場に残された全員が深々と溜息を吐き出す。


 今のは一体何だったのだろうかと呆然としながらミレーヌが戻って来るのを待つ間、お互い言葉を交わす気力さえなく、困惑したまま顔を見合わせる程度のことしかできなかった。


 これだけでも充分精神が削られたと言うのに、これがまだまだ序の口であると知るのは、頭の痛いことに翌日のことだった。

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