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15.悪役令嬢だと言われました

 選択科目の授業が始まると、予想通りアンナは政治経済コースの授業が行われる教室に押し掛けてきた。


 だが教師陣も慣れたもので、最初からその教室の前で待ち構えており、アンナがやってくると教室には一歩も入らせることなく淑女コースの教室へ引き摺っていく。


 その間もアンナはリリアンナへの恨み言を叫び続けているが、それを聞かされる生徒達の方も慣れたもので、またやっているのかと冷めた視線を送る程度だ。


 アンナを叱りながら連れて行く教師達が話している内容が聞こえてくるが、それによると、アンナは政治経済コースを志望してはいなかったらしい。


 にも拘らず、自分は政治経済コースに選ばれていたはずだ、そうでなければおかしいなどと、よく大声で叫べるものだなと呆きれてしまう。


 いつものように彼女の頭の中で、自分の都合の良いように変換されているのだろうが、流石にそれはどうなのかと乾いた笑いが出そうだ。


 選択科目の授業が終わり、Aクラスの教室に戻ると、これもまた予想通りアンナが押し掛けてきた。


 リリアンナから少し離れた場所で、いかにも突き飛ばされましたといった転び方をすると、これまたいつものようにリリアンナに突き飛ばされたと主張するが、その後に続けられた言葉はいつもとは様相が違っていた。


「どうしていつもこんな酷いことするんですか!? 悪役令嬢そのもののリリアンナ様が可愛い私に嫉妬するのは分かりますが、こんなの酷すぎます!!」

「悪役令嬢……?」


 突然耳慣れない言葉が飛び出し、それは何だと目を眇め首を傾げる。


 確かにアンナには常に嫌がらせをする悪者扱いされているだろうし、リリアンナが令嬢であることも間違いないが、悪役令嬢などという言葉は聞いたことがない。


 リリアンナは悪役令嬢という単語だけに意識を向けているが、エドワード達はそれ以外の部分が引っ掛かったようで、特にミレーヌは不機嫌さを隠そうともしなかった。


「悪役令嬢というのが何なのか知らないけど、貴女のどこにリリィが嫉妬する要素があるというのかしら? リリィが貴女に劣っていることなんて、何一つないのだけど」

「リリアンナ様は悪役令嬢そのものの意地悪できついお顔をされていますから、誰からも愛される可愛い私に嫉妬されるのも分からなくはありません。でもだからって、いつもこんな酷いことしなくてもいいじゃないですか!」

「貴女、何を巫山戯たこと言ってるの!? よくもそんな馬鹿馬鹿しい冗談が言えるわね!」


 ミレーヌの言葉にどこか的外れな返答をしたアンナに、普段は冷静であるよう心掛けているミレーヌが激昂し、エドワードは逆に怒りで言葉を発せなくなっている。


 その場でこの遣り取りを野次馬していた者達も、アンナの言葉には突っ込みどころしかない。


 これだけ事実に反することばかり口にされれば、それも仕方がないことだろう。


 リリアンナは癖のない淡い金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ美しい少女だ。


 この国の貴族令嬢では一番の美女と称され、その容姿は天使、或いは妖精のようだと形容されており、数年もすればそれが女神に変わるだろうとも言われている。


 清楚で儚げなその姿は、アンナの言う意地悪できつい顔立ちとは、まるで正反対だ。


 アンナの方はというと、焦茶の髪に同色の目をしており、この国の貴族としては地味な色合いをしている。


 可愛らしくはあるが、整った顔立ちをしている者が多い貴族のなかにあっては平凡な顔立ちであり、このような奇妙な行動をしていなければ、誰からも注目されることはなかっただろう。


 もしあるとすれば、ニコラスの姉だということくらいだ。


 ここで漸く駆け付けた教師に引き摺られるようにアンナが連れて行かれたことで、これ以上この場が混沌とせずに済んだが、それでも何とも言えない微妙な空気が漂っている。


 そんな中、Cクラスの少女が、どこか遠慮がちに近寄って来た。


「リコレット子爵家のパメラと申します。オルフェウス様、お声掛けする無礼をお許しください」

「それは構わないのだけど、何か御用かしら?」

「先程、ザボンヌ子爵令嬢が話していた悪役令嬢なのですが、ここ数年、下位貴族や庶民の間で流行っている小説に出てくる登場人物のことかと思われます」

「小説の登場人物……?」

「はい、身分違いの恋を描いたもので、主人公の恋を邪魔する高位貴族の御令嬢のことをそう呼んでいます。主人公にあまりにも都合が良すぎるので、恐らく、高位貴族の皆様はお気に召されないとは思いますが……」


 リリアンナは一瞬ミレーヌと顔を合わせると、次にエドワードと視線を交わし、再度パメラに向き直った。


「もしよろしければ、詳しく教えて頂けませんか? 今日の放課後、お時間頂いても?」

「はい、構いません」

「確か貴女は、Cクラスの方でしたよね? それでは放課後、教室までお迎えに行きますね」

「いえ、オルフェウス様にご足労頂く訳にはいきません。私の方が教室に伺わせて頂きます」

「そう、ザボンヌ子爵令嬢に絡まれるところに遭遇する可能性が高いのだけど……」

「それは既に覚悟しています」

「でしたら、また放課後に」

「はい」


 自分の教室へと去って行くパメラの後ろ姿を目で追いながら、これでアンナの不可解な行動の理由が少しは分かるだろうかと微かに期待する。


 放課後は生徒会の活動があり、話に加われないエドワードは不服そうだが、こればかりは仕方がない。


 緊張に顔が強張っていたパメラは、リリアンナ達に話し掛けるのに、かなりの勇気が必要だっただろう。


 授業が始まる直前に慌てて教室に入ったリリアンナは、話をするのにお気に入りのカフェに誘い、ご馳走することにしようと決めたのだった。

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