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120.これが現実です

 魔道具を起動すると、空中にアンナの姿が映し出される。


 それを見たガルドレア公爵達は、それまで怒鳴っていた口を噤むと怪訝そうに眉を顰めた。


「誰だ、その小娘は」

「彼女がアンナ・ザボンヌだ」

「……は?」


 エドワードが口にしたその名前が思いも寄らないことだったのか、それとも単に理解できなかっただけなのかは分からないが、ガルドレア公爵達は揃いも揃って口を開け呆けた顔をする。


 それを冷めた目で眺めていると、急に我に返り顔を怒りに染めた彼らは、堰を切ったようにエドワードの言葉を否定し始めた。


「嘘をつくな! そんなどこにでもいるような平凡な小娘がアンナ・ザボンヌの訳がないだろう!!」

「そうだ! アンナ・ザボンヌはリリアンナ・オルフェウス以上の美少女のはずだ!!」

「そうよ、これのどこが美少女なのよ!? どう見たって平凡な顔にしか見えないわ!」


 宙に映し出されたアンナの姿を睨み付けながら言いたい放題な彼らに、自分達は他人の顔をそこまでとやかく言える程の容姿をしているのかと皮肉を言いたくなる。


 一般的に見てガルドレア公爵達の顔立ちも、それほど整っている訳ではない。


 どちらかと言えば、貴族としては平凡な部類に入るだろう。


 にも拘らずアンナの容姿を扱き下ろす様子は、醜悪で聞くに堪えない。


 ただでさえ他人の容姿をあれこれ言うのは褒められたことではないのだ。


 自分達が同じように平凡な顔だと言われれば激怒するだろうに、よくもそこまで好き放題言えるものだと、心底呆れるしかなかった。


「お前達が何と言おうと、彼女がアンナ・ザボンヌであることに間違いはない。それに好みは人それぞれだ。ロイドには彼女が美少女に見えたのだろう。お前達の目にはそう見えなくても彼にはそう見えただけのことだ」


 表情の抜け落ちた顔でそう言い放つと、エドワードは静止画の状態にしていたそれの続きを再生する為、魔道具を操作する。


 すると、学園でのアンナの奇行が次々と宙に映し出されていく。


 そのあまりにもおかしな行動の数々に、ガルドレア公爵達だけでなく、ミハイルやイリーナ達もただただ呆然としていた。


「ガルドの取り調べをした部下達に話は聞いていましたが、これは想像以上ですな……」

「これでリリアンナ嬢を陥れているつもりなのか? 流石に無理が有り過ぎるだろう……」

「でも本人は本気でそう思っているというか、思い込んでいるようですけど……」

「魔法は使っていないのですよね? それでどうやって触れずに突き飛ばすと?」

「突っ込みどころが多過ぎて、逆に何を言えばいいのか分からないのですが……」


 それぞれが困惑した様子で、呆然としたまま宙に映し出されるアンナの奇行を眺める。


 ガルドレア公爵達はそのあまりな内容に、先程とは打って変わって、言葉を失い静かになっていた。


「何故、最下位の生徒の名前と点数が掲示されているのでしょうか……?」

「学園長の仕業ですね。彼女の妄想がどれだけ酷いのか、他の生徒達にも分かるようにする為に」

「因みに、学園長は王弟殿下です」

「成程、そうでしたか……」

「そこでしっかりリリアンナ嬢の成績を映す辺りも流石というか……」

「エドワード王太子殿下とリリアンナ様は、揃って全教科満点で首席なのですね。流石ですわ。それに皆様で上位を占めていらっしゃるのですね」

「しかし、アンナ・ザボンヌ子爵令嬢は全教科二十点、いや十五点未満ですか。それなのに、自分は二位だと大声で叫ぶとは……」

「ここまで妄想が酷いと哀れですね」


 映像には、掲示された試験結果とそれを見ているアンナの姿もしっかりと映されており、彼女が学年最下位で劣等生であることがはっきりと証明されていた。


 ガルドレア公爵達は、先程までの勢いはどこへやら、口をあんぐりと開け、映像を呆然としながら眺めている。


 彼らが思い描いていたアンナと実際のアンナがあまりにも掛け離れ過ぎていて、かなり衝撃が強かったようだ。


 ロイドを嗾ける前にアンナのことを調査していればこんなことにはならなかったはずだが、彼らはニコラスの姉と言うだけで優秀だと決め付けていたのだから、自業自得でしかないだろう。


 まるで抜け殻のようにアンナの奇行を眺める彼らの姿は、途轍もなく滑稽だった。


「何なのだ、これは……。こんなことで、どうやってリリアンナ・オルフェウスを陥れるというのだ。巫山戯るにも程があるだろう……!」


 ジェラルドが宙に映し出されたアンナの姿を見つめたまま、絞り出すように唸り声を上げる。


 それに釣られるように、ジョルジュやカミラも口々にアンナを罵り始めた。


「頭がおかしいにも程があるだろう!」

「誰よっ、こんなのが才女だなんて言ったのは!」

「こんなの、ただ頭のおかしい変な奴じゃない!」

「フォトレイ伯爵家の奴らは何を考えていたんだ! こいつのどこが美少女で才女だ! 思いっきり最初から計画が躓いているではないか!!」


 アンナを罵倒するガルドレア公爵達に、頭がおかしいのはお前達もだ、その言葉そっくりそのまま返してやると言いたくなる。


 だがそれ以上に、この件はフォトレイ伯爵家が裏で糸を引いていたのかと、そちらの方に強く注意を引かれた。


 それはリリアンナだけでなくエドワード達も同様で、ガルドレア公爵達に鋭い目を向ける。


 そしてアンナを罵倒する声が一旦落ち着いたタイミングで、アレックスが口を開いた。


「先程ウィルザード・フォトレイを捕らえたと報告が入った。ウィステリア侯爵令嬢に精神を操る魔法を行使したらしい。奴と比べてウィステリア侯爵令嬢の魔法力が高過ぎたことで、全く通用しなかったらしいが」


 その言葉に険しい顔でアレックスを振り返る。


 ミレーヌとクリフの魔力を感知したのは気のせいではなかったかと、目が鋭くなってしまう。


 ミレーヌが後れをとるとは思えないが、心配するなと言うのは無理な話だった。


「魔法が通用していないことに気付かなかったウィルザード・フォトレイを、ウィステリア侯爵令嬢とトリアード公爵令息で罠にかけたらしい。態と別行動して休憩室の方へ誘き寄せ、二人だけで手下諸共あっさりと叩きのめしたそうだ。勿論二人とも怪我はしていない」


 それにホッとして胸を撫で下ろす。


 それとは逆に、ガルドレア公爵達は再び騒ぎ始めた。


「どういうことだ、それは! 何故あいつが捕えられている!?」

「精神を操る魔法を行使したからだ。当然のことだろう」


 ウィルザードが捕えられた理由を理解できないガルドレア公爵達が、何度説明されてもそれを不服に思いアレックスを罵倒する。


 相変わらず自分に都合の悪いことは理解できないのだなと、怒鳴り立てるガルドレア公爵達を冷ややかに眺めた。

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