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118.拍子抜けです

 魔法が微塵も効いていないことに気付いていないのか、ウィルザードが気味の悪い笑みを浮かべる。


 そして改めてミレーヌをダンスに誘おうと手を差し出した。


「…婚約者を差し置いて他の方と踊る訳にはいかないと申し上げたはずですが」


 それを再度断ると、今度は訝しげな目で片眉を上げる。


 そしてミレーヌを睨め付けると、苛立ちを含んだ声で非難してきた。


「私の誘いを断るのですか? それは失礼が過ぎるのではありませんか?」

「礼を欠いているのはどちらでしょうか」


 それに負けじと真っ直ぐに見返し、逆に窘める。


 何を企んでいるのか探るには誘いに乗った方がいいのだろうが、公の場で婚約者であるクリフを蔑ろにするような真似をする訳にはいかない。


 さてどうしようかと考えを巡らせていると、クリフに腰を引き寄せられた。


「婚約者である私より先に踊るのは非常識だと思うが。それに国外での社交は初めてで慣れていない。彼女も疲れているから、ダンスに誘いたいのなら明日にしてもらえないだろうか」


 建国祭の夜会は二日間行われるので、明日も出席することになっている。


 だからミレーヌをダンスに誘うのは明日にしろと言い捨てると、クリフはウィルザードの反応を確認することなくミレーヌをエスコートし、ダンスの輪に加わった。


「あれ、どう思う?」

「何か仕掛けてきそうだな」


 踊りながらウィルザードの様子をさりげなく確認すると、こちらを睨み付けているのが見える。


 お互いにしか聞こえない程度の小声で話しながらこの後どう動くかを話し合うと、一曲踊り終えたところで、ウィルザードからは充分離れた壁際へと移動した。


 そして化粧室へ行く振りをして、ミレーヌはクリフと別行動を取る。


 するとウィルザードと他に数人、ミレーヌを追うように後ろから付いてきていた。


 それに気付かない振りをして化粧室に入り、暫しそのまま時間を潰す。


 そして不自然にならない程度の時間が経ったところで廊下に出ると、今度は休憩室の方へと歩き出した。


 すると後ろから腕を掴まれ、近くの部屋へと連れ込まれる。


 他に三人が部屋に入ると扉を閉め鍵を掛ける音が聞こえてきた。


「これは、どういうことでしょうか?」


 目の前には、ミレーヌの腕を掴んだままのウィルザードが下卑た笑みを浮かべている。


 他の三人の男達は、服装こそ使用人のような格好をしているが、そうでないのは明らかだ。


 何をするつもりやらと腕を振り払うと、ウィルザードを真正面から睨み付けた。


「ご主人様に対して何だその目は?」

「ご主人様? それは誰のことですか?」

「全く無礼な奴だな、私のことに決まっているだろう!」


 目を吊り上げ見下してくるウィルザードの偉そうな態度に、即座に叩きのめしたくなる。


 それを抑えながら呆れた目で見返すと、ミレーヌは敢えて挑発するように笑い声を上げた。


「何故私が貴方をご主人様として扱わなければならないのですか? 思い上がるのも程々にしてほしいのですが」

「何だと! お前、この状況が分からないのか!?」

「まさか、この程度の人数で私をどうにかできるとでも? あっさり返り討ちに遭うのが目に見えているのですが」

「この女っ、言わせておけば……!」


 陳腐な悪役の台詞を吐くと、ウィルザードが顔を真っ赤にして掴み掛かってくる。


 その腕を逆に掴むと、相手の勢いを利用し最小限の動きで床に投げ飛ばした。


 それと同時に、他の三人が怒声を上げながらこちらに飛び掛かってくるのを気配で察する。


 だが彼らがミレーヌに危害を加える前に、全員が床に叩きのめされていた。


「口の割に大したことないわね」


 あっさりと全員を片付けたミレーヌは、ウィルザードを見下ろし魔法で作り出した剣を突き付ける。


 無様に床に転がり呻いていたウィルザードがそれを視界に入れると、限界まで目を見開き狂ったように喚き始めた。


「お…、前っ! 武器は持ち込み禁止のはずだ! 何でそんなものを持っているんだ!!」

「魔法で作り出したものであることすら見抜けないの? よくそれで私を襲おうなんて思ったわね」

「魔法、だと……!?」


 信じられないとばかりにその剣を凝視するウィルザードの顔が、次第に恐怖に染められていく。


 それを見下ろしたまま、ミレーヌは更に剣先を彼の喉に近付けた。


「フォレスト王国の高位貴族で騎士を目指す者にとっては、魔法で剣を作り出すなんて当然のことよ。こうした武器を持ち込めない場所でも、不測の事態が起きれば剣で戦えるようにね」


 そう言いながら、他の三人の男達を完全に無力化する為に魔法を発動した。


 それとほぼ同時に、廊下から男達の苦痛による短い叫び声が聞こえてくる。


 それから慌ただしい気配が伝わってきたかと思うと、外から鍵が開けられる音が聞こえてきた。


「随分と呆気なかったな」


 ミレーヌと同じように魔法で作り出した剣を手にしたクリフが中に入ってくる。


 扉から見えた廊下では、騎士達がウィルザードの仲間と思われる気絶した男達を縛り上げているところだった。


「さて、色々と説明してもらおうか」


 ミレーヌと並んだクリフが、ウィルザードに剣を突き付け氷点下の眼差しで見下ろす。


 だがそれに答えることなく、ウィルザードは恐怖から呆気なく意識を手放した。


「自信満々だった割には情けない奴だな……」


 剣を突き付けたまま、クリフが心底呆れ返って溜息を吐く。


 肝心なことが何も聞けないまま気絶されたことは頭が痛いが、あまりにもあっさりと片付いてしまったことに拍子抜けにも程があると、クリフとミレーヌは思わず顔を見合わせてしまった。

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