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115.心底気持ち悪くて不愉快です

 リリアンナはゆっくりと頭を振ると、深呼吸をして気持ちを落ち着ける。


 今は起こり得た未来を考えるより、事実を明らかにすることの方が重要だ。


 まずは一つずつ疑問を解消していこうと、ガルドレア公爵達を真正面から見据えた。


「ザボンヌ子爵令嬢を唆して私を貶めるよう誘導しろと命じていたと言っていたけど、ロイドはどうやって彼女を誘導するつもりでいたのかしら?」

「ロイドは媚薬だけでなく、洗脳や幻覚を見せる薬を作ることも得意だったからな。その手の薬をアンナ・ザボンヌに飲ませて操るつもりだった」


 それまでブツブツとロイドへの恨み言を吐き続け不気味でしかなかったジェラルドが、打って変わって胸を張り横柄な態度でこちらを嘲笑う。


 それでリリアンナを貶めるには充分だと言われているようで侮りすぎだと不愉快になるが、それを言ったところで恐らく彼らには理解できない。


 それより話を進める方が先だと、リリアンナは疑問を解消することを優先した。


「ザボンヌ子爵令嬢に幻覚作用のある媚薬を飲ませたのは、貴方の指示かしら?」

「幻覚作用のある媚薬だと? ロイドの奴、完成させていたのか?」

「…ロイドがどのような薬を作ろうとしていたのか知っていたの? それとも、それも貴方の指示?」

「ゲルグがロイドにどんな媚薬を作らせようとしていたのか、全部聞いていたからな。完成したらこちらにも寄越せと言っていた」

「……ゲルグが何の為にそれらの媚薬を作らせようとしていたのか、それも知っていたの?」

「王宮に侵入して王妃達を慰み者にする為だろう? 実現するのを楽しみにしていたというのに、ロイドの奴、行方をくらますとはどういうことだ!」


 下卑た笑みをを浮かべたかと思えば、ジェラルドは顔を真っ赤にして熱り立つ。


 リリアンナ達にしてみれば、そんな下劣で悍ましい計画のどこが楽しいのかと蔑みたくなるが、王家を侮辱し王位簒奪を企むような愚か者にそんなものをぶつけたところで無意味だろう。


 後ろからはミハイルの静かな苛立ちが伝わってくるが、彼は声を荒げることなくただ真っ直ぐにガルドレア公爵達に視線を突き刺している。


 ゲルグの狙いが自分の母親だけではなく妹までもがその対象だったことを知っている彼が、それを楽しみにしていたと聞かされて心中穏やかでいられるはずがない。


 だがそれでもミハイルは自分の気持ちを抑え、この場の状況を見守ることを優先していた。


「ロイドはその幻覚作用のある媚薬をザボンヌ子爵令嬢に飲ませ、彼女の純潔を散らしたのだけれど、それも貴方の指示? それともロイドの独断?」

「純潔を散らした? あいつ、小娘一人操るのに態々そんなことしてたのか。女なら誰でもいい節操なしのあいつらしいな。王太子の愛する女の純潔を奪うとは、これはまた愉快なことだ!」


 そう言って本当に心から楽しそうに大声で笑うジェラルドに、腸が煮え繰り返りそうになる。


 貴族の令嬢は結婚まで純潔を守ることが当然だとされているのに、それを軽視していることが心底気持ち悪く腹立たしい。


 しかもアンナを愛していると決め付けているエドワードのことまで侮辱しているのだ。


 それは到底許せることではなかった。


「飲むと目の前にいる相手が意中の相手に見えてしまう幻覚作用のある媚薬、それをザボンヌ子爵令嬢が所持していたわ」

「はあ? ロイドの奴、何でそんなものをアンナ・ザボンヌに渡しているのだ? 一体何を考えているんだ?」


 本気で不思議そうに頭を捻るジェラルドに、やはり流石にそれは知らなかったかとリリアンナは目を細める。


 そしてエドワードをちらりと見上げると、ゆっくりと頷かれた。


「ロイドがアンナ・ザボンヌにその媚薬を飲ませ純潔を散らしたのは、彼女が学園に入学する為にザボンヌ子爵領から王都へと向かっている最中だ。私が彼女と初めて会ったのは学園に入学した後、つまりその時には既に純潔を散らしていたことになる」

「つまり、愛する女に出会った時には、既に他の男に純潔を散らされた後だったということか! やはりこれは愉快だな!!」

「……お前はこれまでの話に矛盾を感じないのか? ロイドがアンナ・ザボンヌと接触した時に、既に私と彼女が恋仲だと聞かされていたのだろう? だが実際に初めて会ったのは、その後のことだ。まだ出会ってもいないのに、どうやって恋仲になれるのだ?」


 愉悦に浸るジェラルドに冷めた目を向けると、エドワードは呆れる様子を隠すことなくそう言い放つ。


 それで漸く話の不自然さに気付いたジェラルドは、訝しげに瞬きを数度繰り返した。


「出会ってもいないのに既に恋仲? どういうことだ?」

「つまり、私と恋仲だというのは、アンナ・ザボンヌの妄想だということだ。それに先程も言ったが、私は彼女のことを愛してなどいないし、それどころか嫌悪している。そんな戯言をほざかれるだけでも不愉快だ」

「だがアンナ・ザボンヌはリリアンナ・オルフェウスより美少女なのだろう? ロイドがそう言っていた! それで王太子であるお前は彼女に惚れたのではないか!?」

「ロイドにはあれが美少女に思えたのか。私とは随分、美に関する基準が異なるのだな」


 話の矛盾に気付いても、アンナを愛していると決め付けるジェラルドに、エドワードの目が益々鋭さを増していく。


 だが混乱を極めた様子で大声で喚き散らすジェラルドには、それに気付く余裕などなかった。


「それからロイドは一年前に殺されているのが見つかった。どうやらゲルグ同様、お前も知らなかったようだが」

「……は?」


 エドワードにその事実を突き付けられたジェラルドが、呆然として黙り込む。


 ジョルジュとカミラも、呆然としてエドワードの顔を見つめていた。

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