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109.昔から外道でした

 エドワードとミハイル、そしてアレックスの間で交わされる会話に、リリアンナ達は口を挟むことなく耳を傾けている。


 リリアンナの魔法により動きを封じられた者達の怒りが伝わってくるが、それは完全に無視だ。


 どうやら目の前で話し合われているヴァネッサの処遇について色々と言いたいことがあるようだが、罪人として扱われることになった彼らにその権利はない。


 ただ罪を犯したという自覚のない彼らにそれを諭したところで無意味だろう。


 よって相手するだけ時間の無駄なので、エドワード達の話が終わるまで放置されていた。


「兎も角、ランメル国王陛下にお伝えしないことにはどうにもなりませんね。この話は一旦ここまでにしておきましょう」

「そうですね。陛下にお伝えした後に、改めてお話しすることにしましょう。そう言えば騎士団長、例の話はガルドレア公爵夫妻に伝えたのか?」

「元公爵夫妻ですよ、殿下。まだこれからです。伝える前にとんでもない事実が発覚しましたからね」

「それもそうか」


 アレックスの言葉にミハイルは思わず苦笑する。


 そして表情を切り替えると、リリアンナに視線を向けた。


「リリアンナ嬢、ガルドレア公爵達と話したいのですが」

「では、会話ができる状態にします」

「リリィ、後は俺がやる」

「あら、では魔法を解除しますので、後はお兄様にお任せしますね」


 リリアンナがガルドレア公爵達の動きを封じていた魔法を解除すると、即座にアルフレッドの魔法が発動する。


 ガルドレア公爵達は解放されたことを実感する間もなく、直ぐに首から下の動きを再度封じられた。


「…お前ら、私達にこんなことをして許されると思っているのか……!」

「罪人となった身で何をほざいている。最低でも爵位剥奪と断絶は覚悟しろと言ったはずだ。お前達にできることなど何もない。あるとすれば罪を償うことだけだ。一瞬で終わる処刑などにするつもりはないからな」

「誰が罪人だ! 罪人は私達にこのような仕打ちをしているお前達の方だろう!!」

「そうよっ! さっさと解放しなさいよ!!」

「そうだっ、私達がお前達を裁いてやるからありがたく思…、ぐわぁっ!!」


 話せるようになった途端、口々にこちらを罵り始めたガルドレア公爵達が苦鳴の声を上げる。


 その元凶をちらりと見ると、リリアンナは態とらしく溜息を吐いた。


「お兄様……」

「聞くに堪えなかったから、ついな」


 怪我しない程度の軽い雷魔法をガルドレア公爵達に行使したアルフレッドに、リリアンナ達は冷めた目を向ける。


 イリーナだけは「流石です、アルフレッド様!」とうっとりした目をしていたが、これは誰もが見なかったことにしていた。


「まあ、ガルドレア公爵達を連行する前に、これは伝えておこう」


 一つ咳払いをしたアレックスが、一枚の紙をガルドレア公爵に向け掲げる。


 そして彼らを感情の読めない目で見据えると、その内容を口にし始めた。


「王命により、ガルドレア公爵夫妻の離縁が成立した。これはガルドレア公爵夫人カテリーナの申し立てにより決定されたことで、ガルドレア公爵のサインを必要としない形式のものだ。同時に王家預かりとなっていたクレスティ侯爵家の爵位と領地、その他全ての権利をカテリーナ・クレスティに改めて授ける」

「カテリーナ・クレスティ侯爵、正式な場は改めて設けるが、ガルドレア公爵との離縁が成立すると同時に、貴女はクレスティ侯爵家当主となった。これでガルドレア公爵達の罪と貴女は無関係になる。本当の家族と共に、我が国を支えてくれると助かる」


 その言葉にカテリーナは立ち上がると、侯爵家当主としてミハイルに最敬礼をする。


 イリーナがカテリーナの周囲に展開していた防御結界魔法は念の為の予防で、彼女に危険がないと判断した時点で直ぐに解除されていたので彼女の移動を阻害することはない。


 カテリーナのその様子を見たミハイルは、彼女が口を開く前にそれを遮った。


「先程も言ったが、正式な場は改めて設けることになるから、その続きは陛下に。それから騎士団長、もう一つ伝えることがあるだろう?」

「ええ、これも大事なことですしな。カテリーナ・クレスティがクレスティ侯爵家当主となったのと同時に、アルバート・セルレイは名をアルバート・クレスティと改めることになった。クレスティ侯爵家の後継として、これからもミハイル王太子殿下を支えてくれ」

「ありがたき幸せに存じます」


 ミハイルの従者である少年が、深く頭を下げる。


 彼はカテリーナと彼女の婚約者だった男性との間に生まれたたった一人の子だ。


 カテリーナの婚約者はガルドレア公爵ではなく、同い年であるセルレイ伯爵家の次男だったフェルナンドであり、これは王命による婚約だった。


 だがカテリーナはガルドレア公爵と結婚せざるを得ない状況に追い込まれたのだ。


 その背景には様々な問題など複雑な事情があったのだが、それを聞いた時にはガルドレア公爵に対し改めて怒りが込み上げてきた。


 現在イリーナが在籍している王立ランメル学園に通っていた頃、当時一年生で十六歳だったカテリーナは王宮で開催されていた夜会で何者かに媚薬を盛られ、直ぐ側にいたガルドレア現公爵ジェラルドに無理矢理純潔を散らされたのだ。


 婚約者がいるからやめてくれと泣いて抵抗したにも拘らず、助けてやると下卑た笑みを浮かべながら組み敷かれ、魔法を行使できるような状態ではなかったことから為す術なく乱暴されてしまった。


 王家主催の夜会ではこうした事態に備え、解毒魔法を行使できる衛兵を各所に配置しており、媚薬の被害に遭った者を見掛けた場合は衛兵を呼び、その上で被害者の家族や婚約者を呼ぶように言われていた。


 これは解毒魔法で媚薬を無効化できなかった場合に、婚約者にその相手をさせる為だ。


 この場合は当然、余程の重大な事態が起きない限り、婚約を解消することも破棄することもできなくなる。


 その上での最終手段だ。


 カテリーナとフェルナンドの王命による婚約は貴族社会に広く知られており、つまりこの時ジェラルドが取るべき行動は、衛兵とカテリーナの両親、そしてフェルナンドを呼ぶことだった。


 だがジェラルドはそれらの行動を一切することなく、フェルナンドの名を呼び助けを求めるカテリーナを嘲笑い辱めたのだ。


 その後カテリーナはジョルジュを身籠っていることが判明し、クレスティ侯爵家の次期当主だったにも拘らず、ガルドレア公爵家に嫁ぐことを余儀なくされたのである。


 言うまでもなくジェラルドの取った行動は責められ、カテリーナのクレスティ侯爵家とフェルナンドのセルレイ伯爵家だけでなく二人の婚約を命じた王家の激しい怒りを買った。


 だがジェラルドもガルドレア公爵家も、助けてやったのだから礼を言われるべきだなどと、嘲笑いながらそう宣ったのだ。


 その裏には、クレスティ侯爵家が持つ権利ごとかの家の全てを手に入れようと目論んでいるのが透けて見えていた。


 先代であるジェラルドの父は能力が低いことを理由に要職から外されており、それによりガルドレア公爵家は勢いを失っていたが、何とか権力を取り戻そうと足掻いていたのだ。


 それでクレスティ侯爵家の一人娘で、将来爵位を継ぐことになるカテリーナに目を付けたのだろうと思われていた。


 当時も現在も、この件はガルドレア公爵家が企んだことではないかと疑われている。


 だがこれがガルドレア公爵家の陰謀であると証拠付けるものは何もなく、この時は罪に問うことができなかった。


 だからと言って、クレスティ侯爵家やセルレイ伯爵家、そして王家が大人しく引き下がった訳ではない。


 こうなるに至ったジェラルドの行為に、当時王位に就いていた前国王は激怒し、ガルドレア公爵家の血を引く者に、クレスティ侯爵家が持つものは領地や権利を含め何一つ受け継がせない、全て王家に返還させると明言した。


 カテリーナとフェルナンドの婚約が王命である以上、ジェラルドやガルドレア公爵家の行ったことは王家に泥を塗る行為であり、到底許すことなどできなかったからだ。


 カテリーナがガルドレア公爵家に嫁いだにも拘らず、フェルナンドとの間にジョルジュの三歳下であり、ミハイルと同い年でもあるアルバートが生まれることになったのは、そうした事情が複雑に絡み合った結果だった。

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