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107.往生際が悪いです

 ノックされると同時にイリーナがそちらに向かい扉を開ける。


 するとランメル王国の騎士団長が一人の女性を連れて中に入ってきた。


「まさか、騎士団長に来ていただけるとはな」

「他国の王太子殿下にアプディスを盛ろうとしていたのですから当然のことです」


 騎士団長であるアレックス・ノドリア公爵はエドワードに一礼すると、ガルドレア公爵達を厳しい目で見据える。


 だがその視線の意味に気付かない彼らは、アレックスに向かい的外れなことを喚き始めた。


「ノドリアッ、さっさとその無礼者達を捕えろ! そして私達を早く解放するのだ!!」

「そうだっ、私達にこんなことをして許されると思っているのか!?」

「お前達は何を言っている? それに何故罪人を解放しなければならない?」

「どういう意味だ!?」


 本気で自分達が罪を犯した罪人であることを理解できていないガルドレア公爵達は、アレックスを口々に罵倒する。


 それらを全て無視したアレックスは、改めてエドワードに向き直った。


「レイチェル王女殿下の部屋に侵入した不届者二人は捕えました。ミハイル王太子殿下の部屋に侵入した不届者達の捕縛も完了しています。直にこちらに連行されてくるでしょう」

「そうか、報告ありがとう。随分と私の妹が暴れていたようだね?」

「ええ、流石はフォレスト王国の王女殿下ですな。見事な魔法だったと聞き及んでおります」


 レイチェルが暴れていたという部分は聞かなかったことにしたアレックスは、敢えてにやりと笑う。


 それに自分が感知した通りだったことを確信したエドワードは、感情の読めない笑顔でゆっくりと頷いた。


「そちらの女性は?」

「国立研究所で薬物を専門としている研究員です。混入された媚薬がアプディスかどうかをこの場で調べる為に連れてきました」

「そうか、では早速頼む」


 その女性は静かに頭を下げると、まずはリリアンナ達の前に置かれた四人分のお茶と、ガルドレア公爵家の使用人のスカートのポケットから取り出した瓶に鑑定魔法を行使する。


 そしてそれら全てに媚薬が混入されていることを確認すると、アプディスにだけ反応すると思われる試験紙らしき掌サイズの紙を五枚と、小瓶を四つ取り出した。


 お茶を小瓶に入る分だけ移し、カップに残ったお茶に紙を浸す。


 その紙の色が変わったことを確認すると耐水性のある袋に入れ、その袋と小瓶に同じ数字を書いた紙を貼り付ける。


 その作業を四回繰り返すと、最後にガルドレア公爵家の使用人が持っていた瓶の中身をその紙に垂らし、色が変わったことを確認した上で袋に入れ、他と同じように袋と瓶に同じ数字を書いた紙を貼り付けると、研究員の女性はアレックスに向き直った。


「こちらは全てアプディスが混入されていることが判明しました」

「そうか、ご苦労だった。それらは一旦騎士団で証拠品として押収した後、研究所に回すことしよう。状態と品質を保持する魔道具に入れて保管するからそこは安心してくれ」


 それに頷いた研究員の女性が一礼して部屋を出ていくと、代わりに二人の騎士が中に入ってくる。


 彼らは証拠品である媚薬等を状態及び品質を保持する魔道具の中に入れると、一礼して直ぐに部屋を出ていった。


「ガルドレア公爵、これでお前達がエドワード王太子殿下方にアプディスを混入させたお茶を飲ませようとしていたことが判明した。最低でも爵位剥奪に断絶は覚悟しろ」

「私達がやったという証拠がどこにある!? それにあの媚薬が入った瓶は王太子の目の前に置いてあったではないか! あれはそこの王太子を筆頭にした無礼者達が、私達を嵌める為にやったことだ!!」


 この期に及んで罪を逃れられると勘違いしているガルドレア公爵が、それをエドワード達になすりつけようと怒鳴り散らす。


 それを冷めた眼差しで見据えると、アレックスは静かに口を開いた。


「この部屋は監視下に置かれていた。それだけではなく、魔道具を使い映像として記録してもいる。そこに倒れているガルドレア公爵家の使用人の女が、殿下方のお茶に例の瓶の中身を混ぜている様子もしっかりと記録されている。言い逃れが通じると思うな」

「ならば、それはその女が勝手にやったことだ! 私達には関係ない!!」

「往生際の悪い奴だ……」


 今度は使用人の女に罪をなすりつけようとするガルドレア公爵に、アレックスが深い溜息を吐く。


 そして一つの魔道具を取り出し、それを起動させた。


「なっ!? これは……!」

「これが、お前達がやったという証拠だ」


 アレックスが起動させた魔道具の上には、ガルドレア公爵が使用人の女に先程の瓶を手渡している様子が映し出されていた。


 それだけでなく、中身の媚薬をエドワードとリリアンナのお茶に混ぜるよう指示している声もしっかりと入っている。


 ガルドレア公爵の隣にはジョルジュの姿もあり、二人がこの件に関与している証拠がはっきりと映し出されていた。


「違うっ! こんなものは全部出鱈目だ! 私達を嵌めようとして作られたものに違いない!!」

「この魔道具は事実をありのまま記録するものだ。偽りを映し出すことなどできぬ」


 尚も罪を逃れようと支離滅裂なことを喚き立てるガルドレア公爵を、アレックスは冷たく鋭い眼差しで簡潔に切り捨てる。


 だがそれでも往生際悪くガルドレア公爵達が騒ぎ立てていると、扉をノックする音が聞こえてきた。


 そのうちの一人が誰であるのかを気配で察したリリアンナ達は、思わず苦笑を漏らしたくなる。


 それを表情に出すことなくアレックスが迎えに出るのを見ていると、レイチェルとエミリア、そして侵入者らしきロープで縛られた二人と騎士達が中に入ってきた。


「レイ、お疲れ様。エミリア嬢もよくやってくれたね。二人とも怪我がないようで何よりだ」

「当然です! この程度の者達に後れを取るなど有り得ません。手応えがなさ過ぎて驚いたくらいですもの」

「自白魔法を発動しようとする気配を捉えたのだけど、それはどういうことかしら?」

「あ…、あの、それは……」

「エミリアが止めてくれたのかしら?」

「はい……」

「大変だったわね。あの場で自白魔法を使うのはやり過ぎよ。そこはランメル王国の騎士団の皆様にお任せしなさい」

「はい、リリィお姉様……」


 明らかにやり過ぎようとしていたレイチェルを嗜めていると、再度扉がノックされる。


 そして同じようにアレックスが迎えに出た直後、リリアンナは驚愕のあまり息を呑むことになったのだった。

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