表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/120

105.追及することが増えました

 イリーナの防御結界魔法がガルドレア公爵夫人を囲むように展開し、アルフレッドの魔法がそれ以外の者達に襲い掛かる。


 ガルドレア公爵達の絶叫が響き渡り、その身が崩れ落ちそうになると、アルフレッドはすかさず風魔法を放ち、ソファーに凭れ掛かる形になるように彼らの身体にぶつけた。


 同じく絶叫し床に倒れ込みそうになった使用人の一人の身体を浮遊魔法で支えたリリアンナは、彼女のスカートのポケットに風を送り込んで膨らませ、その中にあった瓶を風魔法の応用である移動魔法で取り出す。


 その後浮遊魔法を解除し、床に倒れ込んだ使用人のことはアルフレッドに任せると、リリアンナはそのポケットから取り出した瓶を魔法で運び、エドワードの目の前にゆっくりと置いた。


「リリィ、これは……」

「ええ、ロイドが作り売っていた例の媚薬です。確かランメル王国では、アプディスという通称で呼ばれているのですよね?」

「まさか、その媚薬が使われているのですか!?」


 リリアンナ達のお茶に混入されていた媚薬が何かを知り、イリーナの目が驚愕に見開かれたかと思うと、直ぐにガルドレア公爵達を鋭く睨み付ける。


 その媚薬はフレデリックとその妻アリアが被害に遭ったものであり、他にも各国で多数の被害者を出している危険なものだ。


 媚薬の効果が抜けるまでに通常三日三晩異性と交わり続けることを強要され、熱を発散できなければ命を落とす危険性が極めて高い。


 そんなものを他国の王太子や侯爵家の令息令嬢に対し使用するなど、断じて許されることではなかった。


「お前らっ……、私達に、一体何をした……!」

「それはこちらの台詞です。他国の王太子にこんな危険な媚薬を盛るとは、一体何を考えているのですか!」


 身体が思うように動かず苦悶の声を上げながら睨み付けてくるガルドレア公爵達を、イリーナが鋭く詰問する。


 だが状況を理解していないガルドレア公爵はそれに臆することなく、こちらを馬鹿にして鼻を鳴らした。


「何を根拠に媚薬を盛ったなどと言っている! しかもそれがアプディスだという証拠がどこあると言うのだ!!」

「鑑定魔法を使えば簡単なことですわ。少なくとも媚薬であることは判明します」

「アプディスだと特定できたのは、兄と私がその成分を知っていたからです」


 自分達の犯した罪が明らかになっていることに気付いてもいないガルドレア公爵に、リリアンナとイリーナが氷点下の視線を突き刺す。


 アルフレッドの魔法は彼らの首から下を麻痺させており、ガルドレア公爵達は暴れることなどできない状態だ。


 本来なら話すこともままならないはずだが、どうやら怒りの感情の方が凌駕しているらしい。


 こちらを憎悪の眼差しで睨み付ける彼らに、未遂とはいえ罪を犯した者達が何を偉そうにそんなことをしているのかと詰りたくなる。


 だがそれが罪だと理解できていない彼らは、口々にリリアンナ達を罵り始めた。


「嘘を吐くな!」

「鑑定魔法なんて使ってないじゃない!」

「詠唱なんてしてないだろう!」

「アプディスの成分を知っている訳がない!」


 彼らのそんな態度を見たリリアンナ達は、心底呆れて深く溜息を吐く。


 そしてあからさまな冷笑を浮かべると、リリアンナ達は分かりやすく嘲り始めた。


「私達が魔力を放出していることに気付いてもいない方々が、鑑定魔法が発動したことに気付くなんてこと有り得ませんわ。それに、こちらは全員常に無詠唱で魔法を行使しています。詠唱しないのは当然のことです」

「ガルドレア公爵夫人以外は魔法力が低い方ばかりですし、無詠唱での魔法行使など想像ができないのかもしれませんわね。無詠唱なのですから、詠唱しないのは当然のことなのですけど」

「それに、アプディスの成分を知っているのは本当のことです。他の媚薬と比べ異質であることが理由なのか今のところはっきりとはしていませんが、以前の解毒魔法ではアプディスには通用しませんでした。アプディスにも通用する解毒魔法を開発したのは私達オルフェウス侯爵家とコルト侯爵家です。兄と私も関わっていますし、その為に成分を確認するのは当然のことですわ」


 フレデリック達が新年祭の夜会の最中に媚薬の被害に遭った時、それに気付いた衛兵達は直ぐに解毒魔法を行使した。


 だがそれは効力を発揮することはなく、フレデリックとアリアは媚薬に苦しめられ、その効果を抜く為に三日三晩交わり続けることを余儀なくされたのだ。


 このことは直ぐに会場にいた国王と王妃に耳打ちされ、秘密裏に処理するよう命じるとともに、王妃は自分の侍女達を二人が運ばれた休憩室へと向かわせた。


 普段着ならば兎も角、夜会用のドレスは一人で脱げるものではない。


 しかも媚薬の熱に浮かされた状態のフレデリックでは自分の服ですら脱ぐのに苦労するはずだと考えた王妃は、アリアのドレスを脱がせ、それを回収するよう伝えていたのだ。


 ジェシカが二人の顔にかけた媚薬は、当然の如くアリアのドレスにもかかっていた。


 そこから媚薬の成分を抽出し分析したのだ。


 その結果、それまで知られていた媚薬と比べると異質なものであることが判明し、その成分を確認した上でオルフェウス侯爵家とコルト侯爵家が新たな解毒魔法を開発した。


 当然のようにそこに加わったリリアンナとアルフレッド、そしてルイスは、その媚薬の成分を確認している。


 だからこそ、今回使われた媚薬がその時と同じものであることを、リリアンナもアルフレッドも直ぐに確信したのだ。


 フレデリックとアリア、そして二人の家族が抱えることになった苦しみを知るリリアンナとアルフレッドは、ガルドレア公爵達に対する怒りが更に増していく。


 これは、入手手段も含め徹底的に追及しなければならない。


 そう思い、怒りが増しているのはエドワードとイリーナも同様だ。


 何とか動く口だけで尚も醜態を晒すガルドレア公爵達を、リリアンナ達四人は憎悪の念を抱く鋭い眼差しで睨み付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ