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104.軌道修正します

 ガルドレア公爵達との睨み合いが続く中、リリアンナは態とらしく溜息を吐くと徐にエドワードの顔を見上げた。


「エドワード様、あの方々は話をする気がないようですから会場に戻りませんか? それに、レイチェル王女殿下が少しお疲れのようで、顔色を悪くされていました。早めに退出させていただき、様子を見に伺いたいと思っています」

「そうだね。あの子も慣れない環境で疲れたのだろう。それに、ミハイル王太子殿下と会えたのが嬉しくて少々はしゃいでいたからね。私も気になるから一緒に行くよ。少し早いが、国王陛下に挨拶して下がらせてもらうことにしよう」

「ちょっと待ってくれっ!」


 別にレイチェルは疲れてもいないし顔色も悪くはない。


 それどころか返り討ちにしてやると、不敵な笑みを浮かべながら侵入者がやってくるのを待ち構えている。


 単にこれは、本来の流れに戻す為にそういうことにしているだけなのだ。


 リリアンナとエドワードが態とそんな会話を交わしていると、ガルドレア公爵が慌ててそこに割り込んでくる。


 リリアンナとエドワードがレイチェルのところに行けば、彼らの計画が崩れる可能性が高いことに気付き焦っているようだ。


 それに敢えて煩わしそうな視線を向けると、不機嫌な様子で顔を真っ赤にしたガルドレア公爵が、こちらを睨み付けたまま怒鳴り始めた。


「態々用意したのに、お茶も飲まずに退室するとは失礼でしょう! 我々を馬鹿にするにも程があります!!」

「失礼な上に馬鹿にしているのは貴方方の方です。まさか、エドワード殿下に立ったままお茶を飲めとでも言うのですか?」

「そんなことは言っていない! 勝手に座ればいいことだろう!!」

「私はそんな無礼な振る舞いをするほど愚かではないつもりだが。例え王族でも、席を勧められてもいないのに勝手に座ることはない」


 ガルドレア公爵の礼儀もマナーもなっていない物言いに、リリアンナもエドワードも突き刺すような冷えた視線を向ける。


 それに更に熱り立つ様子を見せたガルドレア公爵は、唸るようにぞんざいに席を勧めた。


「どうぞお座りください。大きなソファーですから四人一緒に座れるでしょう?」

「確かに座れるが、まさか自分達が上座で、他国の王族を下座に座らせるとはな……」


 エドワード達が勧められたソファーは、入口を背にするように配置されている。


 しかも正面には何も飾られていない壁があるだけだ。


 何か目で楽しむものでもあれば別だが、この場合には当てはまらない。


 どこまでもフォレスト王国の王太子であるエドワードを侮辱する行為に、怒りを通り越して呆れるしかなかった。


 だがこの部屋の様子は現在進行形で映像として記録されているし、ランメル国王や騎士団も後程確認することになっている。


 これはこれでガルドレア公爵達の罪が増えるだけだ。


 それに何とか軌道修正できたことで、こちらの計画通りの展開に持ち込むことができる。


 エドワードとリリアンナは内心ほくそ笑みながらも態と不機嫌な様子を露わにし、黙ってソファーに腰を下ろした。


「私は遠慮させていただきますわ。こんな無礼な方々に出されたお茶など飲みたくありませんもの」

「私もそうさせていただきます」


 イリーナとアルフレッドは座るつもりがないらしく、エドワードとリリアンナの後ろに控える。


 だがリリアンナとエドワードが媚薬入りのお茶を飲みさえすれば満足なのか、ガルドレア公爵達はそれに鼻を鳴らしただけだった。


 アルフレッドとイリーナが正常な状態である以上、仮にリリアンナとエドワードがそれを飲んだとしても彼らが二人を介抱したり解毒魔法を行使したりすることになるだけだ。


 それだとガルドレア公爵達が企んでいるような展開にはならないのだが、その可能性には思い当たっていないらしい。


 あまりにも楽観的過ぎて、何故これで公爵が務まるのかと不思議でならなかった。


 ただガルドレア公爵は国の要職には就いていないようなので、それが全てを物語っているのかもしれないが。


 それ以前にリリアンナとエドワードは状態異常無効化の魔道具を装着しているので、媚薬入りのお茶を飲んだところで直ぐにその効果は無効化される。


 二人が媚薬の熱に浮かされ、ガルドレア公爵達の計画通りになることなど、最初から有り得ないことだった。


 リリアンナは改めてガルドレア公爵達を一瞥し、その座る配置を訝しむ。


 ガルドレア公爵の隣にはその妹が座り、公爵夫人は一人掛けのソファーに座っている。


 それを不審に思うが、態々指摘する気にもならないし、この後のことを考えると、寧ろ都合が良くもあった。


 そうしているうちにリリアンナ達の目の前にお茶が運ばれてくる。


 しかもアルフレッドとイリーナの分までだ。


 二人の分をテーブルの上に並べていた使用人の顔を見れば、それが皮肉であることは間違いないだろう。


 それに無反応を貫くと、リリアンナ達四人は出されたお茶に無詠唱で鑑定魔法を行使した。


 部屋に入った直後からずっと魔力を放出したままなので、それより少ない魔力を使った無詠唱での魔法は、余程魔法感知能力が高くない限り気付かれることはない。


 魔力の放出には直ぐに気付いた公爵夫人でさえ、鑑定魔法を行使したことには反応を見せなかった。


 ガルドレア公爵達は先程より随分と距離が近くなっていると言うのに、魔力を放出していることにすら気付いていない。


 それに半ば呆れながらもリリアンナ達四人の前に出されたお茶全てに媚薬が混入されていることを確認すると、リリアンナはスッと目を眇めた。


「お兄様、イリーナ様」

「ああ」

「はい」


 リリアンナが二人に声を掛けると、短い返事がくる。


 その直後、ガルドレア公爵達を対象としたアルフレッドとイリーナの魔法が発動した。

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