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103.目的を忘れているようです

 ジョルジュに案内されるまま会場からそれなりに離れた休憩室に入ると、リリアンナ達は室内を素早く見回した。


 ガルドレア公爵側でこの部屋にいるのは、公爵夫妻に公爵の妹、ジョルジュにベントス伯爵令嬢、それからガルドレア公爵家の使用人と思われる女性が三人だ。


 その中で立ち上がってリリアンナ達を迎えたのは公爵夫人のみ、使用人達ですら頭を下げることはない。


 ここまで案内してきたジョルジュは、リリアンナ達を放置してさっさとソファーに腰を下ろしている。


 他国の王太子であるエドワードを迎えているとは思えないその無礼な態度に、リリアンナ達は目配せすると遠慮なく魔力を放出した。


 だがそれに反応し顔を真っ青にしたのも公爵夫人のみ、他は反応するどころか気付く様子もない。


 公爵夫人以外は大した魔法力を有していないのは最初に顔を合わせた時点で分かっていたが、ここまで魔力を感知できないとはと、敢えて蔑んだ目で彼らを見据えた。


「エドワード殿下、貴方方のその目は何ですか? 私達を馬鹿にしているとしか思えないのですが」

「馬鹿にしているのはそちらの方だろう。まさかフォレストの王太子である私が、座ったまま迎えられるとは思わなかった。使用人達ですら頭を下げてはいない。まともなのは夫人だけだな」

「何だとっ!」


 エドワードはガルドレア公爵達の無礼な振る舞いに対し、当然のことしか口にしていない。


 だがそれを理解できないガルドレア公爵は、顔を真っ赤にして激昂し、テーブルを殴り付けた。


「他国の王太子に対し無礼な態度を取っている自覚がないのか? それに貴方には名乗りもされていない。公爵夫人以外の者達の態度を見る限り、私やフォレストを下に見て侮辱していると判断せざるを得ないのだが、それで間違いないだろうか?」

「おや、まさか王太子ともあろう方が、公爵である私をご存知ないのですか?」

「知っているから名乗らなくともよい訳ではない。まさか、その程度の礼儀も知らないのか?」


 エドワードは態とガルドレア公爵を挑発するような言葉を選び、あからさまに見下した態度で彼らを見据える。


 それにおろおろするのはやはり公爵夫人のみで、他は使用人までもがエドワードを憎悪の眼差しで睨み付けてきた。


 主人が主人なら使用人までもがこうなのかと、リリアンナは心底呆れてしまう。


 そしていい加減彼らの態度に我慢できなくなったイリーナが、厳しい声でそれを叱責し始めた。


「いい加減になさいませ、ガルドレア公爵。フォレスト王国の王太子殿下に対し、これ以上の無礼な振る舞いは許しません。座ったままお迎えしただけでなく、席を勧めることなく立たせたままとは何事ですか。これが国際問題になることも理解できないのですか? 我が国の恥を晒すような真似は慎みなさい!」

「何だとっ! この小娘がっ!!」

「口を慎みなさい。私は筆頭公爵家の娘であり、国王陛下の姪ですのよ。オルフェウス侯爵令息様と結婚するまでは、王位継承権第四位でもあります。それはミハイル王太子殿下が立太子なさった今でも変わりませんわ。現状は、四つある公爵家の中でも序列最下位のガルドレア公爵家の当主である貴方より、王位継承権を持つ私の方が立場は上なのですよ」

「……クソがっ!」


 身分ではなく立場の上下関係を突き付けられ、ガルドレア公爵が憎々しげな目でイリーナを睨み付け歯軋りする。


 公爵夫人を除く者達も、彼と同様の態度だ。


 それを呆れた様子を隠すこともなく眺めていたリリアンナは、本当に媚薬を仕込んでまで自分達を陥れるつもりがあるのかと、扇子に顔を隠したままそっと溜息を吐いた。


 エドワードやイリーナの口車に乗せられ怒り狂っているだけで、どうにも本来の目的を忘れているように思えてならない。


 さっさと媚薬を仕込んでもらわないことにはこちらも行動に移せないのだが、なかなかそこまで行き着かずにいる。


 このままではいつまで経っても彼らを捕らえることのできる状況に持ち込めないので、こちらとしても困るのだ。


 エドワードとイリーナが態と彼らを煽ったのは更に罪を増やす為でもあったが、まさかここまで本来の目的から逸れるような反応ばかり見せるとは思わず、敢えてこちらから誘導しないと目的を果たすのは難しそうだと、冷めた眼差しで彼らを眺めた。


 使用人の一人が媚薬を手にしているのは、既に鑑定魔法を使い把握している。


 それはエドワード達も同様で、ガルドレア公爵達には分からないようにさりげなく視線を交わし、そのことを確認していた。


 室内に入った直後にリリアンナ達四人がやや過剰に魔力を放出したのは、遺憾の意を表してのことでもあるが、一番の理由は鑑定魔法の行使を誤魔化す為だ。


 使える者が少ない魔法ではあるが、四人全員が必要最低限の魔力で使い熟すことができる。


 それは今も放出し続けている魔力に比べれば微々たるものだ。


 当然放出している魔力に紛れて、鑑定魔法を行使したことには気付かれていない。


 公爵夫人以外は放出している魔力さえ感知できていないので、普通に鑑定魔法を行使したとしても気付かれることはなかったかもしれないが。


 仮に最大出力の魔力を放出したとしても気付かない可能性があるのではないかと、思わずそう揶揄したくなる程なのだ。


 それにしてもと、リリアンナはガルドレア公爵達の魔力保有量の少なさに驚きを隠せない。


 公爵夫人はランメル王国の公爵夫人として相応しいと思われる魔法力を有しているが、ガルドレア公爵とその妹、そしてジョルジュは公爵家の者とは思えないほど魔力保有量が少なく、それに見合う魔法力しかないと思われる。


 エヴリンとメイベルの婚約者候補として会った四人の侯爵令息達の方が、彼らよりずっと高い魔法力を有しているのだ。


 侯爵令嬢の仮面を被っていることと、蔑んだ目をし続けていることに隠され、表情にこそはっきりとは出ていないが、公爵家とは思えないその魔法力の低さに、リリアンナは疑問を抱かずにはいられなかった。

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