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101.波乱の前触れです

 建国祭当日、この日も朝から侍女達に嬉々として全身を磨かれたリリアンナは、精神的にぐったりとしながらも、装備に抜かりがないか確認していた。


 利き手とは逆の左手首に装着したバングルに模した防御結界の魔道具、そして女性用のチョーカーに模した状態異常無効化の魔道具は、装着すれば幻影効果により見えなくなるので、肩や腕が露出するドレスでも装着していることが他者に知られることはない。


 状態異常無効化の魔道具は、基本的にはペンダントを模して作っているが、首飾りと一緒に装着すると絡んでしまう可能性があるので、夜会等ドレスを着る時の為に、チョーカーに模したものも作っている。


 この日のリリアンナはエドワードから十六歳の誕生日に贈られた首飾りを身につけているので、魔道具はチョーカータイプのものを選んでいた。


 因みに首飾りには、エドワードの瞳の色であるブルーサファイアではなく、リリアンナの瞳の色であるエメラルドが使われている。


 これは二人の婚約が現時点で公表されておらず、今はまだエドワードの色をリリアンナが身に纏う訳にはいかないからだ。


 このことをエドワードは不服に感じているが、彼の婚約者がリリアンナであると発表されるまでは、疑われるようなことをしてはならないと理解している。


 多くの者達が、二人が婚約していると確信している状況ではあっても、それを破ることなど許されなかった。


 ランメル国王の挨拶で建国祭が始まり、ランメル国王夫妻のファーストダンスが終わると、リリアンナとエドワードに、ランメル王国の貴族達だけではなく各国の代表達までもが早速近付いてくる。


 今回のランメル王国の建国祭にリリアンナ達が出席することは話題になっており、この機会に大陸中に名を轟かせる魔法の名門オルフェウス侯爵家とお近付きになろうと考える者は本人達の想像以上に多かった。


 魔法大国フォレストの王太子であるエドワードに対してもそれは同様で、リリアンナとエドワードは彼らとの挨拶を優先せざるを得なくなり、とてもではないがダンスをする余裕などない。


 ただ二人だけで相手をしている訳ではなく、イリーナが彼らとの間に入ってくれている。


 各国の代表達は兎も角、ランメル王国の貴族達にはイリーナが紹介するという建前で、アルフレッドと共に二人の側にいてくれたのだ。


 そしてイリーナはさりげなく目配せして警戒すべき人物を教えてくれ、アルフレッドはリリアンナとエドワードと共に挨拶を交わしながらもそれとなく周囲を観察し、不審な動きがないか警戒していた。


 リリアンナとエドワードは次々に押し寄せてくる者達に囲まれ会場の様子が見えなくなっていたので、周囲に目を配るどころではない。


 アルフレッドもオルフェウス侯爵家の後継として注目を集めているが、リリアンナと並んでいればより知名度の高い彼女の方が優先される傾向にある。


 それを利用し、彼にとっては面倒でしかない他国の貴族達の媚売りはリリアンナに任せ、アルフレッドはそうとは分からないように要警戒人物達の動きに目を光らせていた。


 少し離れた場所にはルイスもいるが、パートナーがいないことから多くの令嬢達にダンスの相手を申し込まれ、断ることに時間を割かれている。


 エミリアの社交界デビューが済んでいれば彼女をパートナーにして一緒に出席することができたが、貴族家の婚約披露パーティーとは違い、国の行事である以上今回はそれができない。


 リリアンナの双子の弟で、同じく魔法の名門コルト侯爵家の後継として養子に入っているルイスも当然注目を集めている。


 エドワードの事前の予想通り、ルイスは令嬢達の相手をすることに苦労していた。


 中には的外れな勘違いをしている者が数名おり、婚約者であるエミリアがいないことに妙な邪推をしている者もいる。


 殆どはエミリアが社交界デビュー前であることを理解していたが、彼女達はそれを説明しても理解できずにルイスに擦り寄り、最終的には婚約者がいることを理由に明確に拒絶され、周囲の失笑を買っていた。


 クリフとミレーヌもリリアンナ達から少し離れた場所にいたが、こちらは割と落ち着いた状況で挨拶を交わすことができていたので、それとなく周囲に目を配っている。


 だからこそ、最も警戒すべき相手がリリアンナとエドワードに近付いてくることに、逸早く気付いていた。


 アルフレッドもほぼ同時に気付き、イリーナに目配せする。


 それを受けたイリーナは、彼らに立ち塞がるようにリリアンナとエドワードより前に出ると、徐に扇子を広げた。


「ガルドレア公爵閣下、エドワード王太子殿下とリリアンナ様へのご挨拶は各国の代表の皆様がお済みになられた後になさいませ。ガルドレア公爵家の皆様だけであれば、今でも構いませんが」


 そうしてちらりとガルドレア公爵と共にいる令嬢を一瞥する。


 するとその相手は令嬢らしからぬ大声を上げ、イリーナを猛然と非難し始めた。


「私はガルドレア公爵の姪です! 何故私が伯父様達と一緒にご挨拶してはいけないのですか!?」

「例えガルドレア公爵閣下の姪であっても、貴女が伯爵令嬢である以上、各国の代表の皆様に先んじて他国の王太子殿下にご挨拶するなど非常識なことですわ。これは、この大陸では当然の常識です」


 顔を真っ赤にして怒鳴る令嬢を冷めた目で見据えると、イリーナは彼女を正論で突き放しさらりと躱す。


 それに同意するように、まだ挨拶を済ませていなかった各国の代表達が感情を消した目でその令嬢を見つめた。


「でもっ! 私がエドワード殿下の妃になればそんなことはどうでもよくなります!!」

「それは有り得ません」


 周囲の自分を見る目に腹が立ったのか、その伯爵令嬢が激昂しておかしなことを口走る。


 だが間髪入れず、エドワードは即座にそれを否定した。


「私には幼い頃から婚約者がいます。それに、ランメル王国の伯爵令嬢である貴女では私の妃になる条件を満たしていませんよ」

「そうですわね。フォレスト国内であれば伯爵家以上ですが、それ以外の国であれば侯爵家以上となりますから。その上で、フォレスト王家の求める基準を満たす魔法力を有している必要があります」


 フォレストの王族男子の妃となる条件を説明したエドワードとリリアンナは、その令嬢に視線を向けると口元だけで小さく笑う。


 大それたことを考えていた割には下手を打ったなと、その令嬢と並び苛立ちを露わにするガルドレア公爵を、感情を消した目でさりげなく眺めた。

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