表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/120

1.プロローグ

 すぐ側から聞こえた悲壮感たっぷりの悲鳴と床に倒れ込んだ音に、またかと眉を顰めそうになる。


 だが実際にはそれを噯気にも出さず、リリアンナは何事もなかったかのように速度を変えることなく歩を進めた。


 それは、学園入学以来常に行動を共にするミレーヌも同様だ。


 二人とも、声と音が聞こえてきた方向を見ることも気に掛けることもしない。


 リリアンナを責める声が聞こえてくるが、それも一切無視だ。


 その直後、その声の主へと誰かが優しげな声を掛けるのが聞こえてくる。


 それがリリアンナの幼い頃からの婚約者であることは、振り返るまでもなく理解できてしまう。


 婚約者がどのような表情をしているかは態々振り返ってまで確認する気はないので分からないが、その声はどこまでも甘い。


 それに溜息を吐きたくなるのも完璧に隠して、リリアンナとミレーヌは学園の廊下を進みつつ、話題を途切れさせることなく微笑んだまま会話を続けていた。


「相変わらずみたいだな」


 不意に前方から聞こえた馴染みのある声に顔を向けると、婚約者より余程リリアンナのことを理解し知っているであろう男子生徒が苦笑を浮かべている。


 それに呼応するように、リリアンナとミレーヌもどこか疲れの滲む苦笑を浮かべた。


「そうね、相変わらずよ」


 周囲には聞こえないように声を潜めれば、その男子生徒・ルイスも、同じように声を潜め、リリアンナ達の背後に視線を向けたまま溜息混じりに言葉を返してきた。


「よくもまあ、飽きることなく続けられるもんだよな。入学直後からだから、もう三年近くか。毎日毎日よくやるよ」

「そうね、私もまさかここまで続くとは思わなかったわ。一体何を考えてるのかしら? 私を陥れたいのだろうけど、そんなことをして彼女に何の得があるのかしらね?」

「さあな」


 自身も彼女に纏わりつかれているルイスが、目を伏せながら苦々しげにそう吐き捨てる。


 リリアンナとは別の意味で苦労しているのだ。


 それが自分の所為であろうことを理解しているリリアンナは、途轍もなく心苦しくて仕方がない。


 だが何故こんなことになっているのか、その理由がはっきりとは分かっていない。


 リリアンナが彼女と会話すること自体が不可能と言わざるを得ない状況が続いている為、理由を解明するどころではないのだ。


 その結果、三年間の学園生活も残り一ヶ月となったにも拘らず、学園に登校した日は必ずと言っても過言ではないほど、先程と同じようなことが繰り返される羽目になってしまった。


 そして確認してはいないが、リリアンナ達が立ち去った後、恐らくいつもと同じ光景が繰り広げられているだろうと思われる。


 そう、例の彼女・アンナが、リリアンナの婚約者であり、この国の王太子でもあるエドワードに抱きつく勢いで泣きついているであろうことが――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ