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第24話【神話の真贋】

 横たわるアイラを目にしたシグルズは思わず叫んだ

「アイラ……!」

 状況を掴みかねていなかったバルティマイは鋭い眼光を教徒へ向けて歩み寄り状況を問いたださんとした。

「貴様……何故そこにいる?!」

 その声には激戦を経て積み重なった疲労感が混じってはいたものの明瞭としたものであったが、教徒は目もくれずにしゃがみ込んだまま床を撫でていた。

 正確には分厚い本を片手に抱えながら床に描かれた魔法陣の様な刻印をなぞる様に撫でていたのだった。


 その在り様にバルティマイの奇跡を通し、何も反応しない不審な教徒を凝視していたがアンデットとしては認知することはなかった。 その事が徐々に緊張感を和らげる作用をもたらした。

 オリヴァー、シグルズはその状況に違和感を覚えつつも体中を酷使したことによる疲労感に集中力や判断力が鈍っており、困惑と不安から互いに向き合ってその光景から目を外した時に事は起きたのだ……。


「ぐぁぁぁぁああ!!!」

 バルティマイの悲痛な悲鳴が上がった、屈強なドワーフ族の大の男が悲鳴を上げたのだ。


 その悲痛な叫びにオリヴァーとシグルズの緊張が再び臨界点まで高まり、シグルズは咄嗟に銀槍を構えたが、オリヴァーは未だ癒えぬ疲労のせいかまともに体を起こせずにいた。

 そんな二人が目撃した情景はバルティマイが目元を両手で抑え、指の隙間から血が流れていた。

 その一方、教徒の手には血塗られた短剣が握られていた。


 そう、教徒は不意打ちでバルティマイの目元を切り裂いていた。

 そして、教徒は不敵な笑みを浮かべながら吐き捨てる様に語った。

「貴方の瞳は厄介ですからね……、封じさせてもらいました!」


 狂った者の傍で倒れているアイラの姿を見て気が気ではないシグルズは憤怒激情と共に吠えた。

「テメェ、何してやがる?! 気でも狂ってんのか?!」


「いえいえ、私は冷静ですよ……」

 教徒はシグルズの激情の前にしても淡々と語る。

 バルティマイが苦悶に悶えながらも後ろへ下がる様に、体の自由が覚束無いオリヴァーは体を起こさんと膝に手を当てていた。

「バルティマイさん!! 大丈夫ですか?!」

「目をやられた……、ぐぅ……、何も見えん……」

 オリヴァーは教徒を睨んだ。

「何故こんな事を?! 何の恨みがあってこんな事をしたんですか!?」



 教徒はバンシーによって磔にされ、殺された人間を見まわしながら喋りつづけた。

「恨み? 私はあなた方には深く感謝しているのですよ……、

 儀式を万全に行うべくわざわざ番犬として使役していたのにまさか暴走されるとは思いませんでしたからね」

 この時チラリと教徒の視線はオリヴァーの真紅に染まったゴーレムコアに向けられていた。


「番犬?! あのバンシー(アンデット)のことか!? テメェらが呼び込んだのか!?」

「ぐぐっ……道理でな……結界内の聖墓で何故アンデットが現れたのか……ようやく理解できた……!」

 シグルズ、バルティマイは混乱しながらも目まぐるしく変わる状況を徐々に理解し始めていった。


「あなた方が来られなければ我々はあの番犬……いえアンデット(狂犬)のせいで儀式を進めることができなかったわけですから……

 我々は八方ふさがりだったのですよ……」


「儀式……だと……」

 バルティマイは視界を奪われ、二人の方へ退きながらも教徒の言葉を問いただした。


「えぇ……、この聖墓トゥルシーには魔脈があり、封印が施されているのですよ……」

「魔脈? それに封印……だと?」


「そうです、ご存じでしょう神話の巨人……、世界を食らおうとした闇の巨人……

 それがこの地に眠っているかもしれないのですよ…

 我々は知りたいのですよ……、神話の真贋しんがんを!!」

 教徒はそう言いながら片耳に手を当てると青い微光が帯び始め、その片耳は人の耳から肌色の魚のヒレにも似たものになった。

変化(へんげ)魔導ですか……!?」

「何だ? 耳が魚人みたいになったぞ?」

「ぐっ……、何? 魚人の耳だと?」

 この中途半端な形状の耳は混血の証、魚人と人が交わった混血の証と言えたのだ。


「私は純血ではありません、神の創造から逸脱した存在なのですよ

 私は生まれながらにして教会から()まれる冒涜的な存在、されど神への信仰を絶やした事など無いのです……

 ですが、此度(こたび)エレッチオ(教皇選挙)……、本当に神は存在するのでしょうか……


 もし、この地に闇の巨人がいるなら神も仲介者(英雄)も魔神も存在したことになるはずです……!

 そうでなければ……、神話が事実でなければ神に寄り添う者に救いが無いではありませんか!!」


「狂っている……! ぐぅ…、そんなもの何の証拠にもならん……!

 第一、変化で欺くなど……」


「あぁ、やはり、純血なドワーフ族の貴方では混血者(こんけつもの)の苦悩など理解できませんか……、

 おっと、動かないでください!!」

 教徒は(まく)し立てる様に早口で狂った熱弁をしながらも倒れたアイラに短剣を向けてオリヴァーとシグルズを牽制した。

「彼女は魔導で意識を失っているだけです……、そうでなければ人質になりませんからね……

 動かないでください……」


 短剣を向けられたアイラは悪夢を見ているのか気を失いながらも眉をしかめた。

「クソ野郎が……!!」

 シグルズが唸りながら殺気を込めて睨みつけるが教徒は飄々と自分のペースで喋り続けていた。

「それにあなた方にはもう魔力が残っていないでしょうに…」

 教徒が優越感交じりのセリフを吐く中、オリヴァーは現状を分析していた。


「(ソフィア、あの人の強さはどれぐらいだろう?)」

『(推定デスガ、戦闘技術ハ皆無、魔力量ニツイテモ先程ノアンデット以下デス……、オリヴァー様ガ万全デアレバ問題ナク制圧デキルデショウ

 シカシ、現在ノ体調、装備状況デハ制圧不可能デス)』

 ソフィアは外見上で分かる限り教徒の装飾品や武器について情報をまとめオリヴァーの視界上に表示させていた。


「(短剣は何の変哲もない短剣……、防具もなし……、

 ……解読不能?? 何だろう、あの本は?)」

 教徒が抱えている本を見ると未知の言葉で表紙が書かれていたのだ。

『(未知ノ言語デ書カレテオリ解読不能デス)』


 教徒はその本を開いてブツブツと呪文を唱え始めていくと本から魔力が溢れ始め、聖墓の床に刻まれた魔法陣が反応していた。


 そして、聖墓中央により魔法陣上で輝く翡翠の様な光のドームが徐々に広がり、次第に光の柱となり、地響きと共に光が立ち昇っていた…。


「地面が揺れているだと?!

 く……、見えん……、いったい何が起きているのだ!!」

「なんて光だ……!! バルティマイのオッサン、狂った教徒の野郎が何かやべぇ儀式をしてるみてぇだ!!」

 シグルズは視覚を失ったバルティマイの傍に寄り銀槍を構えて警戒し、丸腰のオリヴァーは2連戦で溜まった疲労に立っているのがやっとの状態だった。

『(膨大ナ魔力まりょくヲ観測、床の魔法陣カラデス)』

「(これが魔脈というやつなのか……!! 凄くピリピリする)」


 しばらくすると地響きと光が収まり始め、魔法陣の直上にはぼんやりと輝いている幾層の光の輪が縦に連なっていた。

 光の輪には地面に描かれていた魔法陣と同じ模様が刻まれており、段ごと逆回転で回っていた。

 そのあり様はまるで円柱状の「光の檻」の様だった。


 ぼんやりとした光の輪が周囲を優しく照らしていたためかオリヴァーとシグルズはハッキリとソレが見えたのだ。

 ソレは光の輪とは対照的な存在……、床の魔法陣があった場所に『闇』があった……。

 魔法陣の中心に位置した古代戦士の立像と魔法陣の境界の狭間に『闇』が湧き始めていた。 まるで漆黒の液体面に大きな一つの泡が沸き立つように半球状の闇が広がり始めたのだ。

 その漆黒さは夜闇よりも純粋に黒く、全てを飲み干さんとするかの様に反射光すら全て飲み込んでいるようだった。


『(外観ヨリ情報無シ、魔力放出無し……分析不能デス……)』

「いったい何が起ころうとしているんだ……!」


 シグルズはこの時のオリヴァーの顔を見て少し顔をしかめた。

「おい、オリヴァー……こんなヤベェ状況の連続なのに少しニヤけてないか?」


 実のところ、この時のオリヴァーは途轍もない恐怖感を抱いていたが、同時に未知への探究欲求からワクワクとした好奇心を掻き立てられた心境だった。 神話の真贋を確かめる……、これはオリヴァーの夢でもあり、その言葉には甘美な響きすら感じていた。 そんなオリヴァーの意識はシグルズの怪訝(けげん)な表情にハッと気付かされ、白昼夢のような夢の愉悦から現実へ舞い戻った。

「いや……、怖すぎて思わず可笑しくなったのかもしれない……」

「しっかりしてくれよ、オリヴァー もうオレ達しか相手出来そうもねぇ……」

 シグルズはそう言ってチラリと目を抑えるバルティマイをのぞいた。

「そうだね、シグルズ……!

 ……!?」


 この瞬間、オリヴァーは何か強烈な視線……、プレッシャーを感じた。

 疲れ果て弛緩を望んでいた体がキリキリ引き締まり、疲労感を忘却させた。


 湧き上がる闇は盛り上がり、先端が丸まった棒状になり、先端が枝分かれ始めていくとそれらが巨大な指となり、巨大な漆黒な握りこぶしを作り上げ、巨大な手の形状へと変貌を遂げていた。

「漆黒の腕……、もしかしてこれが巨人の腕!!」

 オリヴァーの脳裏に興味本位で見てきた神話の挿絵が巡った。

 どの神話の挿絵にも神と抗う闇の巨人は黒く描かれ無数の腕が数多の生命を摘み取る描写が描かれていたからだ。


 そして、はっきりと漆黒の腕が一本床から生えており、その握りこぶしが解かれると手のひらには大きな1つ巨眼がギョロリと忙しなく周囲を見回すとオリヴァーに視線を向けた。

 そのおどろおどろしい巨眼は瞳が真紅で、白目にあたる結膜(けつまく)は濁った黄色に染まっていた。

 この時オリヴァーは心臓が凍った様な感覚になり、この時好奇心よりも恐怖が圧倒的に勝ったのである。

 シグルズもそのあり様に凍りついたように竦んでしまっていた。


 そんな中、狂った者はまるで神々しい神にでも遭遇したかのようにうやうやしく歩を進めていた。

「おおぉ……!これが神話の一端……! はははは!! 神はやはり実在するのだ!!

 アハハハハハハ!!!」


 カランカラン……、バサッ……


 教徒は短剣や本を捨て、アイラには目もくれず両腕を広げて黒き腕の元へ歩み寄ろうとした。

 オリヴァーを見つめていた巨眼は無防備に近付く教徒へ視線を移していった。


「僕達じゃ、アレをどうにも出来ない……、お終いなのか……?」

「馬鹿言うなよ……オリヴァー……、お前はバルティマイのオッサンを引き連れて今すぐ逃げろ……、

 オレはアイラを担いでから逃げるぜ……、(やっこ)さんの注意がそれているみたいだからな……」

「ぐっ……、すまぬ……」

「分かった……シグルズ気をつけて……」


 この時、その場で黒き腕に注意を向ける生ける者たちは気付いていなかった……、黒き腕の後ろで、地響きのせいか魔法陣中央に建てられていた古代戦士のような立像にヒビが入り、エメラルドの様な緑色の微光が漏れ始めていたことに……。

 そして、立像の表面が剥がれ落ちた事で金属のような光沢ある外装が徐々にではあるが露出し始めていたことに……。


(キーーーン)


 オリヴァーがバルティマイを連れてその場を離れようとした時、オリヴァーの耳に耳鳴りのような甲高い音が聞こえた。

「何だ? この甲高い音は……?

 バルティマイさん、変な音が聞こえませんか?」

「何だと? 俺は何も聞こえんぞ」


 一方、シグルズはアイラの元へ向かうべく黒き腕へゆっくり向かう教徒の様子を伺いながら慎重に向かっていった。

「(アイツは隙だらけだが……黒いのは……、無理だな……最近はこんなヤツばっかだな、まったく……、

 素早く()(さら)って巻くしかねぇか……

 ……? 何だこの音は?)」


 教徒が光の檻に触れんとした時、黒き腕からエメラルドの光を帯びた槍が現れ光の檻を抜いて教徒の身体を貫いた……。


「な……?!」


 シグルズはアイラの元で目の前で起きたことに驚愕した。

 その虹色の瞳は教徒が槍で貫かれ、黒き腕もまた槍で貫かれていた。

 そして、槍の元を目で追うとそこには人の背丈の倍はあろうかとういう金属製の像が古代戦士の立像が立っていたはずの台座の上で槍を持っていた。


 かくして神話の真贋の一端が明かされる事になった。


皆さま、ここまでお読み頂きありがとうございます✨

読んで面白いと思われましたら、大変お手数をおかけ致しますが「高評価」、「感想」、「レビュー」をよろしくお願い致します。m(_ _)m

©碧渚 志漣, Aona Shiren, 2024. All Rights Reserved. Reproduction and translation are prohibited.

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― 新着の感想 ―
すごくワクワクするのじゃあ!オリヴァーのようにニヤついてしまうわい!ピンチなのじゃが、神話の一端に触れる瞬間なのじゃな!この先にどんなことが起こるのか楽しみなのじゃ。オリヴァーたちは立ち向かえるのかの…
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