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8話 全裸王子



 三時間後、ある場所で、ジムとアリスは地面に無造作に投げ捨てられた。


「もがっ!」

「うっ・・・・・・」


 ジムたちが目を開けるより先に、扉が閉まる音がし、ジム達以外の気配が消えた。


「もがが、もがんがもがもも・・・・・・(なんだよ、どこに連れて来たんだよ・・・・・・)」


 ジムはぶつぶつ言いながら、目隠しがずれた隙間から周囲を探る。どうやら石造りの室内で、家具のような物が一切無い部屋だった。ランプが壁に一つあるだけで、非常に暗い。

 両手を後ろで縛られたジムだが、足だけで器用に立ち上がり、壁のランプに近づいた。ランプは顔の高さにあり、腕のロープを燃やす事は無理そうだった。


「もがっつつつ、もがちっ!」


 ジムは耳の下辺りに器用に炎を当て、さるぐつわの布を燃やして下に落とした。


「あっちー。顎もいてぇー」


 ジムが口を開いたり閉じたりしていると、横たわっていたアリスが目を覚ましたようで、体を起こした。


「もっ! もがんがももっ!」


 突然アリスは叫んだ。だが、ジムと同じようにさるぐつわをされているので何を言っているのか分からない。ただ、アリスは気を失わされていたために目隠しはされておらず、ジムの方を見て目をまん丸くしている。


「ん? 何言ってんだ? さるぐつわ 取ってやるよ?」


 ジムがアリスに近づいていくと、アリスの声は更に大きくなる。ちなみにジムは、攫われたときのままの姿で、要するに全裸だ。


「もげっ! もごげっ! もががんももまっ!」

「おい、動くなって」


 ジムは後ろを向き、縛られた両手でアリスのさるぐつわを外そうとするが、アリスはへたり込んだままの姿勢でずりずりとジムから逃げようとする。ジムは背中越しなので、距離感がつかめず逃げるアリスのさるぐつわが掴めない。


「しょうがないなぁ。じゃあ、歯で外すかぁ」


 ジムはアリスの前に回り込み、体を前に折り、口をアリスの頭の後ろへ持っていく。


「もががぁ! もがぁぁぁ!」


 アリスは何やら絶叫しながら、頭を思いっきり右側に振った。そして、反動を使い、左側に頭を全力で倒した。


ドゴッ


 アリスの頭は、ジムのみぞおちにめり込んだ。


「ぐほぉ!」


 ジムは体をくの字に折って吹っ飛んだ。アリスのさるぐつわの端は何とか噛めていたので、吹き飛んだと同時にアリスのさるぐつわは外れた。


「なっ! 何見せて・・・・・・何を近づけているのっ!! この無礼者っ! はぁはぁ・・・・・・」


 肩で息をしていたアリスの呼吸が落ち着いた頃、ひとしきり地面でもんどりうっていたジムがよろよろと立ち上がった。


「お前・・・、いや、アリス様、それどころじゃないんだって・・・・・・。俺達は攫われたんだぞ・・・・・・」


「はぁ? ・・・・・・えっ? 攫われた?」


 アリスはきょろきょろと首を動かす。学院寮の自室では無かった。


「確か・・・・・・夕食を食べていて・・・・・・」


「そこで襲われたんだ。で、近くにいた俺もついでに攫われたって訳よ」


「近くに・・・・・・。えっ? どうしてあなたが女子寮に?」


「い・・・いやっ、そう言う意味じゃなくて・・・・・・。アリス様を担いでいる奴らに街でばったり会ったんだ。近くって言うのは、街全体の規模で見て、近いのかなぁって意味で・・・・・・」


「・・・・・・? そう? それは・・・・・・災難だったわね」


 アリスは、出来るだけジムを視界に入れないようにして話をする。


「ここ、どこだと思う? 心当たりないか? アリス様、地元だろ?」


「建物の内側から見せられたって・・・・・・。王都では無さそうね。喧騒がまるでないわ」


「学院から三時間くらいの場所だなぁ。街を出る時に俺も目隠しをされたから、真っすぐ進んだのかどうかまで分からないけどな」


「それでも・・・・・・範囲が広すぎるわ。おまけに、第四王女の私は、ろくに王政には携わっていないから・・・・・・」


「肉体強化の魔法で、拘束は引きちぎれないのか?」


 ジムに言われ、アリスは腕に力を込めるが、縛った縄はびくともしない。


「無理よ・・・・・・。頑丈過ぎるわ。あなたの方は・・・・・・そうだったわね。魔力無しか・・・・・・」


「ぜ・・・ゼロでは無いからなっ!」


 そう言うジムの目の端に、ランプの炎が映る。


「アリス様、炎の魔法は使えないのか? それで縄を・・・」


「知らないの? 魔法は、魔石が無いと使えないのよ。タクトも、剣も、今 持っているように見える?」


 アリスは制服姿だが、部屋でくつろいでいたので、内ポケットに入れていたタクトも、腰に携えていた剣も、机の上に置いていた。タクトは杖の先に、剣は塚頭などに、魔石が埋め込まれている。


「次からポケットに魔石でも忍ばせておけよ」


「良い案ね。生きて帰れたら、ポケットか、裏地にでも縫い付けておくわ」



 そうしていた時、廊下を近づいて来る足跡があった。(かんぬき)を外すような音がしてすぐに、扉が開く。


 姿を現したのはオールバックの男で、軽鎧だが明らかに強者のたたずまいをしていた。恐らくアリスとジムを攫った盗賊団の頭目で、実行犯の三人はこの男の手下であろうと予想された。


「これは王女様、こんな汚い場所へようこそ」


 にっこりとしてそう言った男は、ジムへ顔を向ける。


「それで、お前はどこの貴族だ?」


 男は、またもや作ったような笑顔で言うが、腰の剣に手を添えながらジムに近づく。下級貴族だったなら斬られる、そう感じたのかジムは、慌てたように掌を男に向けて突き出し、首と手を横に振る。


「おっ・・・俺は王族だ! バーグ王国の第二王子だっ!」


「バーグ王国の第二・・・・・・?」


 男は足を止め、宙に目を遣りながら考える。


「・・・・・・バーグスタ王国はマイナー過ぎて殆ど知らないが、確か第二王子だけはロクデナシって噂を聞いた事があるな。わざわざそんな王子だと語るって事は・・・・・・本物か?」


 男がアリスを見ると、アリスは首を縦に振る。


「まあ・・・・・・セット売りでマイナスになる事は・・・・・・腐っても王族なら無いか・・・・・・」


 男は腕組みをして一人頷いた後、アリスに言う。


「身代金をちゃんと貰ったら解放してやるから、大人しくしていろよ」

 

そう言った後、男は僅かに口元を緩ませると、扉の外へ出て行った。

 二人きりになって静まった部屋で、ジムがアリスに高揚気味に言う。


「おい! アリス様ん() 金持ちだろっ? あの大国のシルドニアなら、俺の分も払ってくれるよな! なっ!」


 アリスは何も答えないが、ジムは勝手に胸を撫で下ろす。


「あ~助かった! じゃあ、しりとりでもして待ってようぜ! えーと、希望! ほら、『う』だ!」


 勝手にしりとりを始めるジムの前で黙っていたアリスだったが、小さなため息を一つ付いた後、口を開く。


「お父様が私の身代金を・・・・・・出すとは思えないわ」


 すると、ジムの顔がさぁっと青くなった。


「な・・・な・・・なんでだよ! 娘だろっ? 可愛いはずだろっ? あっ! それかっ? 乳か? 乳が無いからか? まさか貧乳だからってそんなこと・・・」


 アリスにじろりと睨まれ、ジムは慌てて口を閉じた。


「・・・・・・それに、もし身代金が払われたとしても、あの男が私達を開放するとは思えないわ」


「えっ! どうして解放しないんだよ! あいつ、渋いイケメンだったじゃねーか! きっと良い奴だよ!」


「それよ。解放する予定があるなら、顔を見せないはずでしょ。あなたの目隠しは簡単に外れるほど緩かったし、私は気を失っていたとは言え、目隠しもされていなかった。殺すのを前提としているとしか思えないわ」


「ぐっ・・・・・・ぐぬぬぬ・・・・・・。そう言えば、ご飯の差し入れもないぞ・・・・・・」


 ジムは扉の前に行き、扉に耳を当てて誰か食べ物を持ってこないか聞き耳を立てているようだった。



次話は 本日22時投稿です。

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