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7話 さらわれ王子



 放課後


 ロンドとルーサは、学院を出ると真っすぐに冒険者ギルドへ向かう。間違いなく本日中に登録を済ませ、次の休みには仕事で収入を得る必要があるからだ。


「ロンド様、座学のアレ、魔力が強い人は、魔力が煙のように色づくって本当ですかねー? バーグ王国では聞いた事無かったけど」


「まあ、人に近づけば魔力が感じられるのは実感出来るから、透明な煙のような物が出ているとも考えられるしね。僕は臭いに近いものかと思ってたけど、なるほど、煙かぁ。魔力が強い人ほど、濃い煙が体から発せられるんだね」


「もしそんな人が居た時は、要注意ですね!」


「強ければ強い程 濃くなるとしたら、どこまで色づくんだろう? 黒色?」


「もしかして・・・・・・黒衣の男の事を言ってるんですかぁ? 服が黒く見えるほど、黒煙をモクモクした男 強くてもダサいですね!」


「・・・・・・後、実技の授業だけど、肉体強化の魔術が、体の輪郭に魔力を収めると、より強くなるって・・・・・・知らなかったね」


「体を魔力で包めば良いってだけって思ってましたね。まさか輪郭の外に出た余剰分が、反発してマイナスになるなんて・・・・・・。でも、魔力をぴったりと体の形に収めるなんて無理ですよぉ。背中とか見えないし」


「まあね。でも、その練度が高ければ高い程、差が出るみたいだからね」


 ロンド達は、冒険者ギルドの扉を開けた。扉が両開きなのは、冒険者は荷物が多いのと、大型の武器を装備している場合があるからだ。


 ギルド内の人はまばらだ。請け負った仕事が早めに終わった冒険者しかいないようだった。


「あれ? お前らも冒険者登録すんの?」


 話しかけられたロンドは振り返る。すると、何人かの男子生徒がいた。先頭は、金髪のぼさぼさ頭の生徒で、朝、貧民街での事件を教えてくれた、同じクラスのヘッチだった。


「ロンドはバーグの王族だろ? なんで? 腕試しか?」


「いや、バーグ王国は貧しくてね。稼がなきゃ、一カ月後には飢え死にだよ」


「そんなに? 貧乏子爵 三男の俺と、似たような境遇だな!」


 ロンド達が登録を済ませると、次にヘッチ達も受付で手続きを始める。すでに学生証と言う身分証があるので、すぐに登録出来た。


「じゃ、今日の所は飯にしないか? もちろん割り勘で!」


 ヘッチは、ギルド内に併設された簡易的な食堂兼酒場を指差す。幾つかテーブルがあるが、まだ誰も座っていない。


「ここ、駆け出し冒険者のために、とにかく激安らしいんだよ。どんな肉 使ってるか分かったもんじゃないらしいけどなっ!」


「へぇー。だから安いんだ」


 ヘッチ達三人に続き、ロンドとルーサも座る。テーブルは円卓で、丁度五人掛けだった。


「いやいや、安いのは他にも理由があって、もうすぐ冒険者達が魔獣とかの素材を持って帰って来るだろ? その匂いで、とても喉を通らないってよ! まあ冒険者達は慣れたもんらしいけどさ!」


「じゃあ・・・・・・今の内って訳だね」


「そう言う事! って、全部 地元貴族のクラスメート達の受け売りだけどな!」


 ロンド達は適当に注文した。芋の根っこを主食としているロンドは、大抵の物でも食べられる自信があった。


「おまたせしましたー」


 ウェイターの少年が、キッチンとテーブルを往復する。


 自分の前に皿が置かれた時、ルーサはウェイターの少年の顔を見て「あっ!」と声を上げた。


「君・・・・・・昨日の・・・・・・えっと・・・・・・、腕は大丈夫だった?」


 昨日、ジムに腕を蹴り上げられた、スリの少年だった。名を、ヌクと言う。


 ヌクはルーサの顔を覚えてはいなかったが、腕の事を言われた事で、あの現場にいた人間だなと悟った。


「あ・・・・・・はい・・・・・・。あの時は・・・・・・ごめんなさい」


「良いのよ! 全然良いの! あいつはクズだから、財布擦った上に簀巻きにして川に放り込んでも良いくらい。それより、腕は怪我してないの?」


「はい! この通り!」


 少年は右腕をぶんぶんと振ってみる。それに、今まで料理を運ぶのにも右手は使っていた。


 キッチンに戻る少年の背をみながら、ロンドはルーサに言う。


「いくらなんでも・・・・・・次の日に全く痛みが無いなんて事・・・・・・あるはずが・・・・・・」


「治療院・・・・・・へ行くお金なんて、無いでしょうしね・・・・・・。不思議だなぁ・・・・・・」


 ロンドとルーサは首を傾げた。




 ―――同時刻 学院の女子寮


 人気のない女子寮の廊下を、足音を消して歩く男がいた。


(ひゃーっはっはっは! あの王女めぇ! 分からせてやるぞぉ!) 


 ジムだった。


 ジムは、廊下の先へ歩みを進める。学院の授業が終わったこの時間は、皆は夕食を食べに外へ出ているため、誰の姿も無い。


 女子寮の作りは、男子寮とほぼ同じだ。一年生の部屋は同じ(フロア)にあり、奥に進むほど、位の高い女子の部屋がある。


ジムが目指しているのは、シルドニア第四王女のアリスの部屋なので、最奥の特別室となっている。とは言え、寮なので、特別室でも十畳ほどの広さの部屋である。


(ひゃっはぁ! 予想通り! 大国の王女がうかつに外に出る訳ねーもんなぁ)


 外に食べに出ているのは、貴族の次男や三男、四男だ。と、言うより、この学院に通っているのが、貴族や王族の次男、次女、それ以下となっている。理由は、もちろん暗殺を警戒してで、後継ぎとなる長男や長女は、自領の城や屋敷で護られている。


 王女アリスは、四女なのだが、人間領でも随一と言われるシルドニア王国の王女と言う事で、学院には通っているが、街中へ出る時は常に護衛付きで、夕食も気軽に外へ食べに出られない。この日も、特別に用意された夕食を、自室で一人食べていた。


(どうしてやるかなぁ。部屋に入って、もう一気に押し倒して・・・・・・)


 一際作りの良い扉が見えて来た。ジムは待ちきれないように、制服の上着を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、シャツとパンツを投げ捨て、全裸で絢爛(けんらん)な扉へと向かって歩く。


ガチャ


 扉が開いた。すると、中から町人風の地味な服装の男が出て来た。廊下の様子を探ろうとする男と、ジムの目がぴたりと合った。


「―――っ!」


「―――っ?? あれ? ここ女子寮だよな??」


 男の後ろから、更に男が二人出て来た。一人の肩には、どうやら眠らされたアリス王女が担がれている。


「へっ? へっ? お前ら・・・・・・何を・・・・・・?」


 全裸で後ずさるジムに、男達は鋭い視線を向けた。


「なんだこいつは? 飯に行ってないのか? いや、なぜ男が女子寮にいるんだ?」


「騒がれる前に殺せ!」


「いや待て! 他にも飯に行ってない学生が来るかもしれん! ここで殺して俺達が街から出る前に騒ぎが起こるのはまずい!」


「じゃあ王女の部屋に死体を押し込めば・・・・・・」


「こいつの服・・・・・・まさかその辺に・・・・・・」


 男達は廊下の先に落ちているジムの物と思われるパンツに気付いた。ズボンやシャツが見えないので、パンツが落ちている角を右に曲がった先にあると予想された。


「ちっ、仕方がない。黙らせて、連れて行くぞ! 幸いな事に、軽そうだ!」


「まあ、学生って事は、どこぞの貴族の子息だろうしな」


「あわわわ・・・・・・」


 男の一人が、廊下にへたり込むジムの前に立った。ジムは肋骨が浮き出る程に痩せており、まるで脅威を感じなかった。


「動けば殺すぞ」


「命ばかりは・・・・・・あわわ・・・・・・」


 ジムはさるぐつわを噛まされ、両腕の後ろで縛られた。そして、男の肩に担がれる。


「行くぞ!」


 男の一人が合図をすると、アリスを担いでいる男と、ジムを担いでいる男が続く。男達は、ジムが来た方向とは逆の方向へ、廊下を走っていった。




次話は 本日19時投稿です。

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