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6話 ゲス王子




 翌日。


 ロンドとルーサは、王立学院高等部、一年Aクラスの教室へ入った。ここは魔力測定で上位の者が振り分けられた教室だ。ちなみにジムは最低のCクラスとなった。


 ロンドは、何か教室の様子が妙だと思った。騒がしいのだが、皆、仲良くなるための挨拶をし合っているのではなく、熱心に何かを話しているようだった。


とりあえず近くで話し込んでいるグループにロンドが挨拶をする。


「おはよう。僕はバーグ王国のロンドだ。これからよろしくね」


「バーグ王国? あの小国の・・・・・・、いやそれより、お前 聞いたか? 貧民街を支配する組織の大手三つが、昨日の晩に何者かによって叩き潰されたらしいぞ!」


「・・・・・・えっ!?」


「おまけによぉ、そのうちの一つの組織は、全員が一撃で切り裂かれてたらしいぜ」


「・・・・・・その組織は、一人によって壊滅させられたって事?」


「察しが良いな! まあ捜査中で正確にはわからないけどな。でも助かるよなぁ。シルドニアは元々治安良い方だけどさぁ、これで更に過ごしやすくなるよな。シルドニア王国の特務騎士団みたいのが動いたのかねぇ?」


「いいえ。私の知る限り、騎士団は動いていません。それに、そのような影の騎士団のようなものも存在しません」


 少し離れた場所に座っている少女がそう言った。金髪の長い髪をした美しい少女だった。

 その時、教室にいつもの賑やかしい声が聞こえてくる。


「ひゃーっはっはっは! ここが俺の教室かぁ! ・・・・・・ちっ、安物の椅子だなぁ。この俺には相応しくねぇぜぇ」


 ジムだった。ジムは長い黒髪をかき上げながら、教室の中をじろりと、自分好みの席の場所を吟味しているようだ。


 すると、先ほどの金髪少女が立ち上がり、つかつかとジムの方へ歩いて行く。


「んー? なんだぁ? いきなりの一目惚れかぁ? 待て待て、さすがに俺も弟の前でちゅーは恥ずかしいから、そこの廊下の陰で・・・」


ガッ


 ジムの右腕を取った金髪少女は、ジムの背後に回り、右肘の関節を極めた。


「ぎゃっ! いでっ、いででででででぇ! なっ・・・何すんだこの野郎!」


 少女が押すと、ジムは近くにあった机の上に、上半身を組み敷かれた。


「てめぇ! 誰だぁ! 俺はバーグ王国の王子、ジム様だぞっ!」


 ジムは、机に額を押し付けながら、声を張り上げた。


 王子との言葉を聞いても全く動じる様子の無い少女は、ジムの右腕をしっかりと自分の右腕で抱え込みながら答える。


「私は、シルドニア王国 第四王女、アリス・シルドニアです」


「し…シルドニアの王女ぉ・・・・・・・・・・・・様ぁ・・・・・・?」


 体を左右に揺すっていたジムだったが、アリスの言葉を聞いてぴたりと動くのを止めた。


 この王立学院があるのがシルドニアで、アリスはこの大国の王女だった。シルドニア王国とバーグスタ王国とでは、国力に二十倍以上の差があり、王国の序列差は歴然としている。


「あ・・・アリス様、それで・・・・・・この遊びは何なのでしょうか・・・・・・ひゃっは・・・・・・?」


「昨晩、貧民街で怪しい黒衣の者が目撃されています。身長が百七十五センチから百八十センチ、かつ、黒髪の人間。事件との因果関係は不明ですけれど、その黒衣の男と容姿が近い人間は、調べさせてもらいます」


「そっ・・・そんな奴、沢山・・・・・・」


 そう言いながらジムは横目で教室を見回すが、貴族の子供達には黒髪が少なかった。しかし、他にいない事も無く数人はいる。


「もう一つあります。黒衣の者が目撃された場所は、全員が一撃で切り伏せられた組織の拠点から近い。黒衣の男が犯人だったとすると、かなり良い武器を所持していると考えられます」


 アリスは、ジムの腰にある剣を見る。柄や鞘には細やかな装飾が施され、宝剣のようだった。


 アリスは、ジムの右腕を自分の脇で挟み、腕を絡めて、右の掌でジムの背中を押さえた。そして空いた左手で、ジムの剣の(つか)を掴む。


ぐっ


 すらりとジムの剣が抜かれた。アリスは刀身を自分の顔の前に寄せ、じっと剣を見る。


くんくん


 アリスは、剣の匂いを嗅いでみた。少し錆びた臭いがするだけだった。


ドンッ


 アリスはジムの右腕を離した。背中を押されたジムは少しよろめいた後、右肩を押さえて顔をしかめる。


「いででで・・・・・・。もう、なんなんだよまったく・・・・・・」


 そこで、ロンドがアリスに近づいて聞く。


「どう・・・でした? アリス王女」


 アリスは、机の上にジムの剣を置いて言う。


「刀身が曇っていて、刃の手入れがされていない。もし人を斬っていれば、血の匂いを消すために、磨き上げるはず。つまりこの剣は、人を斬った形跡が無い。って言いますか、錆から見てしばらく抜かれた形跡も無い」


「では・・・・・・シロと言う事ですね」


 ロンドの問いに、アリスは頷いた。


 すると、腕組みをしてふんぞり返って見せるルーサが、ジムを下目使いで見ながら言う。


「そりゃそうですよロンド様! 大体、ジム様なんかに、マフィアを壊滅させる腕なんてあるはずがありません! 子供相手にイキる事ぐらいしか出来ないんですからっ!」


 一瞬きょとんとしたジムだが、馬鹿にされている事には気が付いた。


「なんだとぉ! 話が見えんが、マフィアなんて余裕ですぅ~。小指で倒せますぅ~」


 ルーサの視線とジムの視線がぶつかり、火花が散った。


 アリスは、ジムを一瞥せずに答える。


「まあ、確かにこの男からは魔力を一切感じない。最初から違うと思っていましたわ」

 えぇぇぇとコケそうになるジムは、アリスを指差して言う。


「違うと思ってたわって、関節を極め切った後に言うんじゃねー・・・・・・ねーでございますことよっ!」


 ジムは格上の王女に、いつものように怒るに怒れず、腹立てた様子で机の上に置かれていた剣をひっつかみ、腰の鞘に戻した。


 ロンドは、溜息をついてからジムに言う。


「ジム兄上、父上の宝剣を持ち出している事については何も言う気はありませんでしたが、手入れは怠らないようにしてください。切れ味が落ちてしまいます」


「う・・・うっせぇ! このクラスの剣だと、研ぐ金も半端ねーんだよ!」


 この剣は、バーグスタ前王であるカーンとロンドの父親が、現役時代に愛用していた剣だった。数か月前から、ジムが勝手に持ち出し、バーグ王国のキャバ嬢に自慢していた。学院で舐められないためなのか、この学院にも持ってきたようだった。


「とりあえず謝罪しますわ」


 頭は下げないが、アリス王女がそう言うと、ジムは口角を片側上げた。


「まあ・・・・・・別に。痛いばかりじゃ無かったしな。ひゃっはっは」


 そう言って、ジムは自分の右ひじを撫でた。それを見たルーサは、その場所にアリス王女の胸が当たっていた事にピンと気付いた。


「・・・・・・ゲス」


 言われたジムは、慌ててそっぽを向く。幸いにも、アリス王女は何の事か分かっていないようだった。


「あと・・・・・・兄上、兄上の教室って、本当に・・・・・・ここですか?」


「ひゃは?」


 ロンドに尋ねられたジムは、首を傾げた。


「ここは・・・・・・Aクラスです。あの、成績が優秀な者が集められたクラスだとか」


「ひゃは? だから優秀な俺はここだろ?」


「優秀が差す部分は・・・・・・魔力量なのです」


「ひゃは? 魔力量?」


 そこで、ルーサがずいと前にでて、ジムの制服の襟を指差して言う。


「ジム様っ! バッジはどうしたのですか? 貰ったでしょ?」


「ん? あ、昨日のあれか?」


 ジムは、ズボンのポケットに手を入れ、ごそごそと探った。そして、黒いバッジを取り出した。


「これだろ?」


 すると、ルーサは自分の襟を指差す。そこには、白いバッジが付いていた。


「白はAクラス、白と黒が半分ずつはBクラス、黒一色は、一番下のCクラスです!」


「い・・・一番下だとぉ! どうして俺みたいな優秀な奴が下なのだぁ!」


「魔力測定したでしょ! あの水晶を触るヤツです!」


「・・・・・・・・・・・・あっ!」


 ジムは思い出したのか、口をぽっかりと開けた。


「しっ・・・しかし、あんなテストで俺の優秀さなど計れるはずがないっ! そうだろう?」


 何故か他の生徒の賛同を求めようとするジムだが、当然に、アリス王女を先頭に、冷たい視線を向けられる。


 ジムはたじろぎ、後ろに下がった。


「お・・・・・・覚えてろぉ!」


 そう叫びながら、教室を走って出て行った。


 ふんと鼻息荒く見送ったルーサは、


「まったく、あの雑魚王子・・・」

 と、言いかけて、慌てて自分の両手で口を塞いだ。

 そのルーサの様子に、ロンドは苦笑いをした。 




次話は 本日16時投稿です。

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