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3話 魔力無し王子


●シルドニア王国 王立学院


 ここは、シルドニア王国の王都である。バーグスタ王国の王都とは違い、建物にひびは無く、人々の身なりも良い。大通りには肉や野菜の露店が立ち並び、人々の栄養状態も良さそうだ。それもそのはずで、シルドニア王国は、人間領で一番力のある国で、盟主と言っても良い発言力がある国だ。


「お尻痛ぁい!」


「長旅だったね」


 大通りに停められた馬車から降りるのは、バーグスタ王国の第三王子のロンド・バーグスタと、その護衛のルーサ・ベニアだ。バーグスタ王国からこのシルドニア王国まで、街や村で馬車を乗り継いで十日ほどかかった。


「ロンド様! 肉串ですよ! お肉が三切れも、串に刺さってます!」

 

ルーサがロンドの袖を引っ張るが、ロンドは露店に目は遣らず、辺りをきょろきょろとして何かを探しているようだった。そして、目当ての物を見つけたロンドは、辺りより一際高い、城のような建物を指差す。


「あれだ! 大きいなぁ。バーグ城よりも大きいんじゃないかな?」


「バーグ城の方がずんぐりしてて可愛いですよ!」


 二人が見ているのは、シルドニア王立学院である。この春から、ロンドとルーサは、この学院に通う事となったのだ。


 シルドニア王立学院は、初等部三学年、高等部三学年から成る。初等部は十五歳まで、高等部は十六歳からニ十歳までとなっている。上限の年齢がくると、強制的に卒業となる。


0歳から十五歳までの初等部だが、この学院に通うのは貴族の令息・令嬢が殆どなので、各家庭で貴族としての基礎的な作法を家庭教師によって学ぶ期間があるため、余り幼い子供は入学していない。 



 ロンドとルーサは、寄り道をせずに真っすぐ王立学院を目指す。なぜなら、今日が入学式なのだ。午前中に手続きを終わらせなければならない。もちろん、ロンド達は前日に到着するように余裕を持って出発していた。だが、やはり移動手段が馬車なので、馬の機嫌や荷車の調子などによって、遅れが出ていた。


ならばもっと早くと考えるかもしれないが、余りに早く着き過ぎると、宿泊滞在費がかさんでしまう。貧しいバーグ王国のために、ぎりぎりで切り詰めなければならない。




 王立学院の門の前まで来た所、突然にルーサが悲鳴を上げた。


「きゃぁ!」


 お尻を押さえながら振り返ると、そこにはバーグスタ王国第二王子、ジム・バーグスタが立っていた。


「ジ・・・ジム様っ!」


 ルーサが睨むが、ジムは何食わぬ顔をしながら右手の指をうにうにと動かす。


「馬車で尻が痛かろう? マッサージをしてやろうと思ってな。ひゃーっはっはっは!」


「結構ですっ!」


 拳に力を込めるルーサだが、さすがに人通りの多い所で自国の王子は殴れない。


 ロンドが少し不思議そうにジムに尋ねる。


「兄上、僕達を出迎えに待っていたのですか?」


 すると、ジムはあくびをしながら答える。


「んな訳あるかよ。俺は、昨日の晩もキャバ屋で遅くまで盛り上がったから、寝坊してこの時間だ。ひゃーっはっは・・・・・・ふわぁーあ・・・・・・」


「またそんなお店にっ! いかがわしいっ! バーグ王族の恥ですよ!」


 そうルーサが言うが、ジムは大あくびで出た涙を拭うだけでそっぽを向いている。



 実はジムも、この日に王立学院に入学する。

ジムは十七歳、ロンドとルーサは十六歳と、歳の差があるのだが、王立学院でそれは珍しい事ではない。このシルドニア王立学院へ通う生徒は、シルドニア貴族だけではなく、ロンド達のような他国の王子や貴族も通う。例えばジムのように、自国周辺の魔獣の動きが活発なため、十六歳で入学する事が困難だったなど、各々の貴族の事情によって入学年齢が異なるのだ。



「お前達、知ってるか? 入学時に、魔力測定があるんだぞっ! この俺が、過去最高の魔力数値を叩き出して、王立学院の歴史に名を残す所を、しっかり見ておけよ!」


 ジムはそう言って、ひゃーっはっはと高笑いをした。


「魔力測定の件は聞いていますけどぉ・・・・・・」


 ルーサは声のトーンを落とした言葉でそう言うと、視線をロンドに遣る。すると、ロンドも口を真一文字に結び、少し困った顔をした。



 魔力測定が可能な水晶玉は、ここ裕福なシルドニア王国にはいくつかあるが、貧しいバーグスタ王国には当然無い。だが、水晶玉が無くとも、人の魔力のある無しは、雰囲気とか気配のような物で、魔力をある程度持っている人間は何となく察知出来るのだ。


 つまり・・・・・・


「どうして水晶が光らないのだぁぁぁぁぁぁ!」


 と言うジムの叫びは、ロンド達には予想が出来る事だった。


「魔力Fランクですね。じゃ、次の方」


「ちょっと待てぇ! 今から気合を込めるから、もう一度 計ってくれぇ!」


「この水晶は、人の潜在的な魔力量を計る物なので、魔力を膨らませても無駄ですよ」


「くそぉ! ひゃぁぁぁはぁぁぁ!」


 ジムは全ての集中を両の掌に集め、水晶を掴んでみるが、水晶の中心が砂粒程の大きさでほんのり光る程度だった。


「はいっ! 次の方ぁ!」


 職員から肩を押されたジムは、ふらふらと列を離れて行った。


 ジムの後ろに並んでいた生徒が片手で水晶を掴むと、水晶は全体を光らせる。その次の生徒も同じくらい光らせ、さすが貴族の血を引くだけあって、入学する生徒達はかなりの魔力を持つ子供達だった。貴族は平民と違い、魔力の強さを家柄と同じくらい重視して結婚をするため、魔力が大きな者が生まれやすい。



「うーん・・・・・・」


「どうかされました?」


 魔力測定の列に並びながら、腕組みをして首を傾げるロンドに、ルーサが尋ねた。


「子供の頃のジム兄上は、もう少し魔力があった気がするんだけどなぁ・・・・・・」


「言われてみれば・・・・・・確かに・・・・・・。でも、弱いのは違いなかったですよね?」


 ルーサは、歳が近い事もあって、幼いロンドやジムの遊び相手でもあったので、幼馴染と言っても良い間柄だった。


「子供の頃、その弱い魔力で、僕を守ってくれたのがジム兄上だったんだ」


「それは・・・・・・ロンド様の記憶違いですよ! どうせ悪さをしようとしたジム様のいたずらが、失敗して結果的に良い方へ向かっただけですっ!」


「そうだったかなぁ? ・・・・・・まだサーヤ様がご健在だった頃、確かに兄上に魔獣から守ってもらった気がするんだけど、うーん」


「サーヤ様も確か魔力が弱かったのですよね? だから、そのお子のジム様も弱い。やはり、ロンド様の記憶違いですよ。カーン様と勘違いをしているのです!」


「カーン兄上かなぁ? 物心付いてすぐくらいだから、そう言われると、どちらか自信が無くなってくるな・・・・・」


 ロンドは肩をすくめて見せた。



 サーヤとは、バーグスタ前王の第二王妃で、ジムの母親である。そして、カーンとロンドの母親は、第一王妃であり、、現女王のミリアである。ジムは母親より黒髪を受け継ぎ、カーンとロンドは母親より金髪を受け継いでいる。第一王妃のミリアと、第二王妃のサーヤの関係は良好で、サーヤが死んだのは、心臓の病だったと言う事だ。



 ロンドとルーサの魔力判定は、どちらもAランクの結果で、水晶は溢れるような光を放っていた。





次話は 本日23時投稿です。



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