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2話 ゴミ王子








 王の間より出たロンドに、廊下にいたルーサが、赤髪のポニーテールを揺らして駆け寄って来る。


「外まで聞こえていましたよっ! ジム様の嫌味がっ!」


 ルーサが吠えると、王の間の扉を守る兵士も、苦笑いをする。


「ルーサ、そんな大きな声で・・・・・・。ジム兄上に知られたら、罰を受けるかもしれないよ」


「ジム様に仕える忠実な兵士なんて、一人だけじゃないですかっ! 耳に届きませんよっ! ぷんぷんっ!」


「まったく・・・・・・」


 ロンドは、守備兵士に苦笑いを返す。兵士は、数少ない女王付きの兵士なのだが、やはりジム王子には、良い印象は持っていない。


 このバーグ王国は、第一騎士団が千人、第三騎士団が三百人、そして、女王付きの騎士が、五十人となっている。本来は第二騎士団もあるはずなのだが、第二王子のジムが病弱で戦線に出られないため、第二騎士団の兵士五百人は、第一騎士団に加わっている。



 ロンドは疲れた体に鞭打って、治療所へ向かい、傷ついた兵士達を視察する。そして、兵士達を労う夕食を手配した。魔獣・および様々な問題を抱えたバーグ王国では、食糧事情が悪化の一途をたどっており、兵士達は、毎日の食事にありつくために働いているという現状だった。



「はぁ・・・・・・冒険者を雇うべきかな?」


 本日の仕事を終え、王城へ戻る道を歩きながら、ロンドが溜息と共にそう言った。すると、隣を歩くルーサは首を横に振る。


「冒険者は高いくせに、誇りも無く信用が置けません! とても背中を預ける事は無理です!」


「しかし、ペドロ盗賊団が根城を捨ててこの国に来たのは、きっと南方で発見されたと言うダンジョンのせいだ。すぐに調査、討伐に向かわなければならない。カーン兄上は、北方の魔獣に手一杯だし・・・・・・」


「王都の防衛を考えると、動かせるのは、今回と同じく第三騎士団から百人程ですが・・・・・・」


「さすがに厳しいね・・・・・・」


 二人は押し黙って歩くが、ルーサが顔を上げ、王城を見ながらぽつりと言う。


「ヴォグ様が加わってくれれば・・・・・・」


 ロンドは、ルーサの顔を見た。


「ジム兄上付きの人だね。どうしてヴォグが?」


 その問いに、ルーサは驚く。


「ええっ! ご存知無いのですかっ!? ヴォグ様は、一騎当千っ! 西方の大国で、鬼のような強さを誇った元将軍ですよっ!」


 それには、ロンドが驚く。


「本当に? いや・・・・・・ヴォグは、ジム兄上が突然どこからか連れて来た人で、僕はもちろん、カーン兄上さえも素性を聞かされていないんだ。むしろ、良くルーサが知っていたね?」


「・・・・・・はい。以前、自領にてたまたま通りがかったヴォグ将軍に救われた事があるのです。それから、少しヴォグ将軍について調べた事があったので・・・・・・」


「そうだったんだ。そう言えば、何年か前に、目標となる騎士が出来たとは聞いていたけど・・・・・・」


 それぞれの騎士団は独立しており、誰を雇うかは、団長である王子に一任されている。ジム率いる第二騎士団は実質存在していないのだが、ジムが自分の護衛を雇う事は自由で、女王にさえも相談する必要は無い。ただ、予算内と言う制限はもちろんある。


「それで・・・・・・ヴォグはかなりの高給取りなのかな?」


「どういう意味ですか?」


「いや、ジム兄上への予算が、僕の騎士団と同じくらいあるんだ。ヴォグへの給金が高いのかなって思ってね」


「そ・・・そんなことあるはずがありません! あの名将ヴォグ様です! 必要以上の給金など要求しません! 予算は、ジム王子が無駄遣いしているからです!」


「まあ・・・・・・うん・・・・・・」


 十分すぎる心当たりがあるため、ロンドは溜息をついた。




 王城へ戻って来たロンドは、食堂の扉を開けた。

 すると、テーブルには、豪華絢爛な食事が、所狭しに並んでいた。


「なんだロンドか。俺の食事中だ。お前は外で待ってろ」


 テーブルの向こう、上座に座っているのはジムだった。ジムは、肉と野菜が入ったスープを一口飲んだ。


「兄上・・・・・・こんな豪華な食事を・・・・・・?」


 ロンドが愕然としながら言うと、ジムはスプーンで皿をチンと叩いてから言う。


「俺にとっては普通だが? お前が盗賊退治に出ている時も、毎日これだぞ? さすがに、ちょっと飽きて来たな。ひゃーっはっはっは!」


「しかし、今年も畑が魔獣に荒らされ不作で・・・・・・。国民は、野菜のくずや、芋の根っこを食べて・・・・・・」


「命があるだけ感謝するべきだろ? その生活を守ってやる代わりに、俺達はたっぷりと食わなきゃなぁ?」


 この言葉に、ルーサの理性が飛んだ。ルーサは伯爵家の娘だが、貧しいバーグ王国の伯爵家なので、まったく裕福では無い。死と隣り合わせで苦しんで生きている領民を、毎日辛い気持ちで見ていた。


ダンッ


 テーブルを両手で叩いた、ルーサは、顔を赤くしながらジムに言う。


「あなたがっ! 誰の命を守っていると言うのですかっ!」


 しかし、暖簾に腕押し。ジムは、何も答えず涼しい顔でルーサを見ている。


「ロンド様が芋の皮を食べていると言うのに、兄であるあなたは・・・」


 そこで、ロンドがルーサの肩に手を置き、制する。


「失礼しました兄上。罰は、上官である僕が受けます」


 それを聞いたジムはにっこりとしながら、隣に立っている長身の騎士に、ルーサを指差して言う。


「ヴォグ、あの女を手討ちにしろ」


「待ってください兄上!」


 ロンドの声が食堂に響く中、ヴォグがルーサに向かって一歩踏み出す。だが、腰に手を遣ったままヴォグは、一度首を傾げてから、振り返ってジムに言う。


「ジム様、最近怠けていたもので、剣が錆びついて抜けません」


 それを聞き、ジムは腹を抱えて笑った。


「ひゃーっはっは! 手入れはどうしたっ?」


「ジム様に付き従っていると、忘れてしまいます・・・・・・」


 ヴォグは、申し訳なさそうな顔は一切しておらず、口元を緩ませて堂々としていた。


「別の剣を取りに帰らないとだな。だが、戻ってくるのはめんどくさい。興ざめだな!」


 ジムは椅子から立ち上がった。それを見て、ヴォグが聞く。


「食事はもう良いのですか?」


「ああ。騒いだそこの女の唾が入った料理などいらん。それに、さっき食べた菓子で腹も一杯だ。食事は捨てておけ」


 ジムは、後ろの扉へ歩く。その扉は、ヴォグが開ける。


ドスンッ


 椅子に誰かが勢いよく座った音がし、ジムは振り返った。すると、先ほどジムが座っていた上座から一番遠い下座の椅子に、ルーサが座って、ジムを睨んでいた。


「捨てるくらいなら、私が頂きます!」


「・・・・・・ふん。ゴミをゴキブリが食う。丁度いいじゃ無いか」


 ジムは出て行った。続いて、ヴォグも出て行く。



 静かになった食堂には、ロンドとルーサ、そしてどうしてよいか分からず、おどおどとする給仕が一人となった。


「ロンド様! 遠征ではろくなものを食べて無かったんです! 食べましょう! ヴォグ様にも失望しましたっ! やけ食いです!」


「しかし・・・・・・こんな豪華な・・・・・・。国民達に申し訳が・・・・・・」


「作ってしまったなら仕方がありません! そこの給仕っ! コックやメイドを集めなさい! 皆で食べるわよっ!」


 ルーサの強い説得に、ロンドは根負けし、ルーサの隣にすわった。確かに二十日程、まともな食事をしていなかったし、しかも量も通常の半分だった。


ぐぅぅぅ


 ロンドの腹が鳴った。すると、フォークに刺したジャガイモが、目の前に現れる。ルーサが自分のフォークに突き刺した物だった。それを、ぱくっとロンドは口に入れた。やはり、ジャガイモの皮より、断然と美味しかった。



 ジムが用意した食事は、少なく見積もっても十人分はあった。呼ばれたコックやメイドは、ロンドに断って自分達の家族の分も持ち帰る事が出来た。


 満腹になったルーサは、お腹を撫でながらロンドに言う。


「でも、ペドロ盗賊団は、どうして仲間割れしたんでしょうね? 原因は、食事だったりして?」


「僕達の領地では、宝の取り分より、食べ物の割り当ての方が、確かに揉める可能性は高そうだね」


「頭目のペドロと、幹部の五人、こいつらが生きていたら、私達、どうなっていたんでしょう?」


「僕達の命は無かっただろうね。ペドロと幹部五人で、残りの盗賊団全員と同等の戦力だと思うよ。同士討ちしてくれて助かった。反旗を翻した、副頭目に感謝だね」


「ロンド様は、日ごろの行いが良いから、女神様が気を利かしてくれたんですよ! だからジム様の方には、ぜぇーったいに、女神さまからの罰が下ります!」


「もう・・・・・・。ルーサは、また大きな声で・・・・・・」


 ロンドは、頭を抱えた。





 この物語は、やがて賢王と称えられ、諸国へ名を轟かせるロンド王子の物語・・・・・・では無く、その陰に隠れ、歴史に名を残さなかったMOB王子の物語である。






次話は 本日21時投稿です。


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