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13話 腰ミノ王子



 朝となり、アリスとジムが砦から出て来る。姿はアリスが制服で、ジムが腰ミノだけの半裸だと言うのは当然変わらない。


 アリスは、朝から何やら怒っているようだった。


「いつまで寝ている気なのっ! あんな事の後、良く『あと十分』とか言って二度寝、三度寝出来ますわね!」


「おはようのチューとかあるとすぐ起きれたんだけどなぁ。ふぁーあ」


 ジムは大あくびをしている。


 砦の周囲は、血の痕こそあるが、やはり盗賊の死体は全て魔獣に持ち去られたようだった。


「しっかし、森を抜けるのに俺の力が絶対に必要だなんて、頼られて照れるなぁ」


「あなたのその業物の剣が必要なのですっ! おまけの体は、魔獣の気を反らす餌くらいにしかなりませんっ!」


 アリスは、砦の裏手から、建物を背に真っすぐ森に入る。この方角が、北西となり、シルドニア王都へ向かう方角になるはずだった。


 この砦は、シルドニア王都の南東に位置する廃砦で、以前に国境を隣接しているドミトル王国と戦争をしていた時に作られたものだった。今は休戦中なので、警戒をするのは国境線だけで、王都周辺を守備するこの砦は使用されていない。この事を、アリスは砦の外観と遠くに見える山々の地形から思い出した。



ガサガサガサ


 森の茂みが動いたので、アリスは腰の剣に手を当てて警戒した。しかし、目の前に姿を現したのは、シルドニアの鎧を着た兵士達だった。


「アリス王女!」


 隊長らしき男の顔が明るくなる。だが、アリスの隣にいる異質な男をすぐに見つける。


「賊だっ! ひっ捕らえろ!」


「・・・・・・へっ? なに? まさか俺っ?」


 怒涛の如く突っ込んできた兵士達に、ジムは引き倒され、あっと言う間に腕を後ろ手で縛られた。


「ちょっと待てって! 俺はバーグ王国の第二王子 ジムだって!」


「そんな恰好で何を言っている! 盗賊めがっ!」


「こんな格好の盗賊なんて、原始時代にしかいねーよっ! おいっ! 王女っ! なんとか言ってやってくれっ!」


 ジムが涙目で訴えるが、アリスは冷たく見下ろしながら言う。


「連れて帰って、牢にぶち込みなさい!」


「はっ!」


「うそだろぉぉぉ! また縛られて帰るのかよぉ! おい! おうじょぉぉぉ!」


 兵士の肩に担がれ、ジムは森の中へと消えて行った。






 砦内とその周囲を百人の兵士が調べた所、やはりもう盗賊の残党はいないようだった。


「そう・・・・・・。やはりお父様は、身代金を払わなかったのね」


「王は、マリア様が兵を派遣するのを予期していたのでしょう」


「ん・・・・・・。お姉様にはいつも助けてもらって、感謝していますわ・・・・・・」


「マリア様の手腕はさすがです! 身代金要求の使いの後をつけさせ、すぐに兵を集めて電光石火の如く動きで・・・」


「後を付けた・・・・・・?」


 アリスには違和感があった。あの頭目は、歴戦の騎士の如く技量があった。そんな猛者が、後を簡単に付けられるような手下を派遣するとは思えなかった。


「それでアリス様、この剣はいかがいたしましょう?」


 兵士長は、ジムから取り上げた剣をアリスに見せる。


「・・・・・・あの王子は夕方には解放してあげて、その時に、その剣も持たせてあげなさい」


「えぇっ! 本当にあの男はバーグの王子だったのですかっ!? なぜあんな格好を? 牢になんて入れて、国同士の問題にはならないでしょうか?」


 兵士長は、自分の責任になると、顔を青くする。


 だが、アリスはいたずらっぽく笑った。


「大丈夫です。王女にあんなもの見せたのだから、文句は言わせませんわ。おまけに、この業物の剣をお土産に持たすのですから、きっと今晩には上機嫌でキャバ屋にでも行って忘れますわ」


「えっ? ・・・・・・王女の口から・・・・・・キャバ屋なんて・・・・・・。学院で、下品な男子生徒とのお付き合いは控えてくださいよ!」


「そう・・・・・・ね」


 アリス王女は、兵士に護衛されながら、王都へと戻った。




 このアリス王女誘拐事件は、貴族層の間では知れ渡る事になったが、一般庶民が知る事は無かった。




 その日の夕方、冒険者ギルドの酒場


「とんだ恥さらしですねっ!」

 

ルーサが机を叩いた。その横では、ロンドが苦笑いをしている。


「まあまあ・・・・・・ルーサ、ジム兄上も元気だった事だし・・・・・・。それに、全裸は事故みたいなものみたいだし・・・・・・」


「ロンド様は分かっていません! 下手したら、シルドニアとバーグスタの戦争ですよっ! どうしてジム様が全裸で攫われたんだと思いますかっ!」


「さ・・・さぁ? 暑いから服を脱いだとか・・・・・・?」


「違いますっ! アリス王女が攫われた時、ついでに全裸のジム王子も一緒に攫われた! この事実から推理される事は、ジム様は、いいえ、あのバカは、アリス様を手籠めにしようと、女子寮のアリス様の部屋に忍び込む直前だったのですよっ!」


「そっ・・・そう? ルーサ、名探偵だね・・・・・・」


「おまけに・・・・・・身元引受人としてロイド様が出向かれたのに・・・・・・お礼の一つも無くキャバ屋に直行だなんて・・・・・・あのバカ・・・・・・」


 ルーサの歯は、ぎりぎりと音を鳴らした。


「私達が一晩中 ジム様を探した事も、どうせ分かってないんでしょうねっ!」 


 そうしている時、ルーサの目の前に、葡萄酒のような飲み物が置かれた。


「・・・・・・えっ? これは?」


 ルーサは、運んで来たウェイターに、以前にジムに怪我を負わされたヌクと言う少年に尋ねる。


「あ、ルーサさん、あちらの方から・・・・・・」


 ヌクの視線の先の席に、美しい黒髪の女性が座っていた。軽装の戦士のようだが、胸が驚くほど大きかった。


「あの・・・・・・これ・・・・・・」


 ルーサが酒を指差すと、黒髪の女性は席から立ち上がり、ルーサ達の方へ歩いて来る。


「せっかく美人さんなのに、怒ってたら台無しよ」


「あ・・・・・・はい・・・・・・」


 ルーサの頬は赤くなった。同じ女性であるルーサが照れるほど、魅力的な女性だった。


 するとその時、また別の場所から声がする。


「そうそう。ジールみたいに、小じわばかりになるぜ!」


 黒髪の美女は、声がした方をキッと睨んだ。


「この子達は私が先に目を付けたのよ。後から割り込んで来ないでよフレイ」


「まだ決まってないんだろ? どうだ君ら、俺のクランに入らないか?」


 冒険者パーティーを、複数集めた集団をクランと呼ぶ。どうやらこのジールと言う女と、フレイと言う男は、別のクランに所属しているらしく、ロンド達を自分のクランへと勧誘するのが目的のようだった。


 ギルド内のクランによる派閥争いは、ロンドは同じ学院の情報通、ヘッチから聞いていた。


『フラワーガーデン』を率いる黒髪美女、Aランク冒険者ジールと、『炎の鉄騎団』を率いる赤髪のイケメン、Aランク冒険者フレイ、この二人に王都の冒険者ギルドは二分されていると言う。だが、低ランクの間なら、無理に所属しなくても睨まれる事は無いらしかった。


「僕達はまだ登録したばかりで、Fランクなんです。薬草集めから始めますので、ランクを上げてからお世話になりたいと思います」


 ロンドがそう言うと、ジールもフレイもロンド達の制服をじっと見る。


「あら、よく見れば学生さんね。魔力しか見て無かったわ」

「有望株だなこりゃ。炎の鉄騎団をよろしくな! サポート充実だぜ!」


「女の子は私のフラワーガーデンが安全よ。彼氏と一緒にお待ちしているわ」


 ジールにそう言われて、ルーサは顔を赤くして首をぶんぶんと横に振る。


「かっ・・・彼氏じゃないですっ!」


「そう? ・・・・・・是非くっついて欲しいわね」


 優しく言うジールだが、その瞳から冷たい光が一瞬放たれた。


「さぁーて、そろそろメンバー達が帰って来るかなぁ。ここはジールがいるし、なじみの店で一杯やるかぁ」

 

そう言って、フレイは大斧を肩に担いだ。


 ジールの方は、壁に立てかけてある槍を握る。


「私はいつものカフェでディナーメニューよ。あんな肉しか置いてない下品なお店なんて、信じられないわ」


「サラダとか、草を食って力なんて出るかよ!」


 ジールとフレイは、お互いに「ふんっ!」と言い合って、ギルドから出て行った。

 


 静かになった酒場で、ルーサがロンドに言う。


「私、お洒落なカフェで、ディナーとか食べたいなぁ。ロンド様は?」


「うーん、僕は肉に惹かれちゃうかなぁ。なんせ、バーグ王国では野菜に雑草を入れて、嵩増しして食べてたし・・・・・・」


「え~! クラン 選べないですね~!」


 ルーサとロンドは、ジムの事などすっかり忘れて、笑いあった。




次話は すぐに投稿です。

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