10話 瞬殺王子
アリスは後ろを見る。また三階に戻り、ジムのように三階から飛び降りる・・・・・・のは危険過ぎる。だからと言って目の前の男の隙を突いて二階の窓から飛び降りたとしても、後ろ手で縛られている状態では、この高さでも大怪我をして結局掴まる可能性が高い。
「もう少し生かす予定だったんだけどな。面倒だ。ここで死んでもらおうか」
頭目は、腰の剣を抜いた。諸刃の典型的なブレードソードだが、月光を反射するその鋭い刃は、業物のようだった。
「腕を縛られた女ごときを、一方的に斬る気ですか?」
アリスは、賭けでそう言った。
どうもこの頭目は、他の男達と違い、純粋な盗賊のような粗雑さが感じられなかった。元は騎士の可能性があるとアリスは考えた。
「ふっ・・・・・・。腕に自信があるのか?」
頭目はそう答えると、広間の奥へと歩いていく。少し腰をかがめると、床に寝かされていた剣を拾い上げた。部屋の明かりが暗くて見えていなかったが、部下の剣だと思われた。
頭目は、剣を投げて寄越した。アリスの目の前で剣が跳ね、鞘から抜けた。
「礼は言いません」
アリスは屈み、縛られた手で剣を逆手に拾い上げる。そして体をよじり、両腕を拘束していた縄を刃で切った。
ぶんと、アリスは剣を右手で振った。こちらは頭目の剣よりはやや細身で短い、ロングソードだった。だが、女性のアリスには、この剣の方が愛用の剣に近い長さだった。
「準備は良いか?」
頭目が尋ねると、アリスは右の手首をさすりながら笑う。
「ずっと腕を拘束されていたのです。しかし、ハンデとしては丁度良いですわ」
その時、アリスの後ろ、上階への階段から、別の男があらわれた。この男は、アリス達が先ほど体当たりで突き飛ばした、上階にいた見張りの男だった。
「あっ! 俺の剣っ! てめぇっ!」
ザシュッ
アリスが横に一回転したかと思うと、後ろの男は袈裟懸けの傷から血を吹き出して倒れた。
「一つ言っておきますわ。私を誘拐しても、王が身代金を支払うとは限りませんよ!」
「ふっ・・・・・・。そうか」
何か含みを持った言い方だった。構わず、アリスは剣を上段に構えて斬りかかる。
ガキンッ
剣を横に構えた頭目に弾かれた。
体勢を崩したアリスだが、頭目男は追撃をしない。アリスはよろめきながら後ろへ二歩下がると、剣を水平に両手で構え、前傾姿勢を取る。
ダッ
アリスの速度が増した。だが、その眼前に、剣が振り下ろされる。アリスは慌てて剣を切り上げ、頭目の剣を弾こうとする。
ガキンッ
「くっ・・・・・・」
アリスはまたバランスを崩して後ろへ下がる。頭目の剣先は、アリスの額を掠めただけだった。頭目はわざと踏み込みを浅くしたようだった。
「手加減・・・・・・後悔しますわよ」
「肉体強化が甘い。まあ、学院の一年生だったか? 平均的と言った所か」
アリスはカチンときた。同級生とまだ手合わせはしたことが無いが、王族の剣術指南役からはお墨付きを貰っている腕前だったからだ。
「やあ!」
アリスは踊るように舞った。体を横に回転させると、右手一本で持った剣が、アリスの体の後ろから現れ、頭目の喉元を狙う。
「馬鹿がっ!」
ガキンッ
「ううっ・・・・・・」
アリスの剣が跳ね上げられ、後ろへと飛ぶ。アリスは右の手首を押さえ、うずくまった。
頭目はアリスの前に立つと、見下ろしながら剣先をアリスの鼻先に突きつける。
「奇襲技を二度見せてどうする? 大方、指南役とだけ打ち合い、実戦経験が皆無なんだろう?」
全て見透かされた言葉に、アリスはごくりと喉を鳴らした。もう一人前の技量だと思っていた自分が、騎士団崩れの盗賊にも及ばない事実に、打ちのめされた。
アリスは顔を上げ、首を差し出した。
・・・・・・だが、頭目は剣を上段に構えた。明らかに、アリスの首を狙った構えでは無い。
「悪いな。顔を割らせてもらう。出来るだけ残酷にと、これも仕事だ」
「なっ・・・・・・そんな・・・・・・」
頭目の肘がぴくりと動いた。アリスは目を瞑る。
コツ コツ コツ コツ・・・・・・
広間に、足音が響いた。
何時までも振り下ろされない剣にアリスは目を開くと、頭目は剣を構えたまま横を向いていた。
「何者だ? いつからそこにいた?」
「・・・・・・さあ。いつだったかな」
アリスもそちらを向く。そこには、黒いスーツのような服を着た、髪も、仮面も、全身が黒に統一された男が立っていた。
次話は 本日13時投稿です。




