1話 クズ王子
こちらの作品は、残酷な描写ありとなっております。
私の別作品と違い、人が沢山死んでいくので、ご注意ください。
少し変わった手法で書いております。
意味が分かりにくいと思いますが、ヒントは数多く散りばめております。
よろしくお願いいたします。
ザシュッ
森の一角で、五人目の男が倒れた。
かがり火に照らされながら、ぶんと剣を一度振った鎧の男は、最後の一人に視線を向ける。すると、その視線の先の男は、震える指で鎧の男を指差して言う。
「きっ・・・キサマ・・・・・・、見覚えあるぞっ! なぜお前がこんな所に・・・・・・、いや、なぜ俺達を狙う・・・・・・?」
「今はこの国の世話になっている。ペドロ、この領に入って来るとは、運が悪かったな」
「バカなっ! キサマ程の男が、どうしてこんな辺境の小さな国に・・・・・・」
近づいてくる鎧の男から、ペドロは後ずさって距離をとる。
「へっ! 闇夜に紛れればっ! いくら剣の腕が凄かろうと・・・・・・っ!?」
振り返って駆けだそうとしたペドロだったが、正面に鎧の男とはまた別の男が立っているのを見て慌てて止まる。
その男は、全身が黒一色で、顔にも黒いマスクを着けていた。僅かに口元だけが覗いている。
「誰だキサマっ! 奴の仲間かっ! 俺が誰だか分かってんだろうなぁ!」
ペドロは剣を抜いた。その切っ先を黒衣の男に向けながら、後ろの鎧の男を見る。そして、黒衣の男、鎧の男と、視線を慌ただしく変える。
「どちらに切られるか、選ばせてやろう」
鎧の男がそう言うと、ペドロはにやりと下品な顔で笑った。
「俺は下級だったが元騎士だ! こいつからは強い魔力を感じねぇ! 妙な服は、はったりだっ! ただの人数合わせだろぅ!」
ペドロは、黒衣の男の方へ勢いよく斬りかかった。
「死ねぇェッ・・・」
ヒュンッ
「残念だったな。その方は、私より遥かに強い」
切り分けられ、頭部だけとなったペドロの耳に、その言葉が届いたのかは分からなかった。
● ● ● ● ●
ここはバーグ王国、その王都。
だが、国の中心のはずなのに、その城壁のあちこちが、欠けたり、ひびが入ったり、綻んでいる。
そんな城壁の中央にある門が、今、開いた。
中に入って来る軍勢は、数は百程で、全員が疲れ切っているようだった。怪我人も多い。
「ロンド様、早く治療院へ」
女性兵士に促されるが、ロンドと呼ばれた、恐らく指揮官だろう金髪の少年は、首を横に振る。
「僕より重傷者は沢山いるよ。さあ、そこの君、彼を早く治療院へ!」
ロンドの指示で、まだ動ける兵士達は、包帯を巻かれた兵士達を支えながら、治療所へ向かった。
「僕は、王城で手当てを受ける。場内にも回復魔法を多少なら使える者もいたはずだしね」
「しかし・・・・・・。申し訳ありません。私が回復薬を切らせたせいで・・・・・・」
「ギリギリの戦いだったんだ。勝てたのはルーサのお陰だよ」
ロンドとルーサは、疲労からか、足取り重く、ゆっくりと王城へ向かう。
・・・・・・その途中、ある武器屋の前で、ロンド達は黒髪で長髪の男と出会った。
男は、ロンドを見ると、口を歪めて笑う。
「ひゃーっはっはっは! なんだその格好は? 盗賊如きに、ボコられたってかぁ?」
そう言って笑いながら、長髪の男は体の後ろに小袋を隠した。
ロンドの副官であるルーサが、長髪の男に言う。
「ジム様っ! そうは言いましても、報告では三十人程度だった盗賊が、実際は五十人もいまして、それで・・・」
「ああーん? 五十人? 今回 出兵した第三騎士団は百人だろ? 半分の相手に苦戦したって、自分達の無能っぷりでも自慢でもしてーのかぁ?」
「ぐっ・・・・・・。と・・・盗賊団は、南方に根城を持つベドロ盗賊団で・・・・・・手練れも多く・・・・・・・・・・・・」
不満そうに口を閉じたルーサは、俯いてだまった。代わりに、ロンドが話す。
「兄上のおっしゃる通り、全て、僕の力不足です。ところで・・・・・・」
ロンドは、ジムが後ろに隠した小袋を指さす。
「そのお金は・・・・・・一体? まさか、その武器屋から税を徴収したのでは?」
そう言われると、ジムはそっぽを向き、口笛を吹いた。
その様子に、ルーサは一歩前に踏み出す。
「ジム様! いかに第二王子と言えど、勝手な税の徴収は違法です!」
「はーん? 何を言ってんだお前ら。これは、個人的に武器屋に貸してたお金を、今 返してもらっただけだ」
「そんな言い訳は・・・」
「じゃあ武器屋の店主に聞いてみろ! 金なんて取られてねぇって答えるからよぉ?」
「ぐっ・・・・・・。正直になんて話すはずが無いじゃないですか・・・・・・」
「ひゃーっはっは! 俺は今 機嫌が良いんだ! お前達が疑った事、寛大な心で許してやろう! さあ、さっさと王城にでも行って、討伐報告でもしてこい!」
ジムは、手をひらひらとさせて、追い払うような仕草をする。
「・・・・・・行こう、ルーサ。兄上、失礼しました」
ロンドはジムに頭を下げ、通りを王城へと進む。その後を、ルーサは慌てて追った。
「・・・・・・私、許せません! 国が苦しい時って言うのに、遊び歩いているあの方が!」
「ジム兄上は、体が弱いんだ。カーン兄上と、僕とで、頑張るしかない」
「病弱なんて、本当なんだかっ! さぼりたいだけかもしれませんよっ!」
「あの華奢な体は、本物だよ」
ロンドの後ろで、ルーサは限界まで頬をぷっくりと膨らませる。
そのまま二人は、王城へ入っていった。
王城でのロンドの治療は、時間を要した。
シェフから一人、ベッドメイクなどの手伝いから一人、庭師から一人、と言うように、専門職でも無い、少し回復魔法を使える者を集めて治療を行ったからだ。数人集まっても、専門職の数倍の回復時間が必要だった。
昼過ぎに帰って来たロンドだったが、治療が終わるころには夕方になっていた。
ロンドは、王の前へ、報告に上がる。
「ロンド、ご苦労様。怪我は大丈夫ですか?」
王は、女性だった。玉座に座った女王は、ロンドを気遣った表情をしている。
「大丈夫です、母上。それより、第三騎士団に多大な損傷を与えてしまって、申し訳ありませんでした。連れて行く兵士の数を見誤った僕の責任です」
「王都の防衛にも兵士は必要です。それに、死者はいないと聞いています。あなたのお陰です」
女王は、両脇に立っている男達に、それぞれ視線を向ける。
先に口を開いたのは、女王の左に立っていた、体つきのがっしりした男だった。
「ロンド、よくやった! まだ十五歳だ。精進すれば、俺を抜けるかもしれんぞ!」
大柄の男は、がははと笑った。
「カーン兄上、ありがとうございます」
ロンドは頭を下げる。
カーンは、このバーグ王国の第一王子で、次期国王となる男だ。現在は十七歳で、三年後の成人を待ってから、王に就任する。容姿は、ロンドと同じ金髪だが、体格が全く違い、ロンドは身長百六十五センチしかないが、カーンは百八十センチを優に超えている。
次に、女王の右側に立っていた、黒髪で長髪の男が口を開く。先ほど武器屋の前でロンドと会った、ジム王子だった。
「ロンド、お前のせいで、第三騎士団は半壊した。カーン兄上の第一騎士団の負担が増えるだろう? どうするつもりだ? あーん?」
「申し訳ありません」
離れた所で膝を突くロンドは、更に頭を深く下げる。
「大体、お前は前に出過ぎなんだよ! もっと部下を使え。奴らを盾にしろ! 代わりはいくらでもいるんだからよぉ! ひゃーっはっは!」
大笑いするジムに、カーンが声を掛ける。
「おいおい。叱咤激励するにしても、言い過ぎだぞ。がははははっ!」
ふんとそっぽを向くジムを見て、カーンは更に声を大きくして笑った。
「二人とも、静粛に。ロンドは疲れているだろうから、詳細は文章で良しとします。下がりなさい」
女王の声で、ロンドは王の間より出て行く。女王の側にいたカーンとジムも、お互いに左右の扉へと姿を消した。
次話は、すぐに投稿です。