思いの共有
ニラダの剣にアビジンを加える事を願い出たゲンの弟子であるカール、だが、鍛冶そのものは工房でなければ不可能であり、自らが師であるゲンを説得すると願い出る。それは師であるゲンの為でもあると言い、理由も話すが、更にニラダはカールに尋ねる。
「自分の鍛冶を通してお師匠さんの志を引き継ぎたいカールさんの気持ちは分かりました、ただやっぱりなんでそこまで俺達の為に?」
「……ニラダさん、親方は冒険者を同類にくくっていますが、少なくともあなたとあの時の冒険者は全然違います」
「その冒険者は極端な例なだけで、富と名誉を求めるのは多くの冒険者の望みですよ」
「そういう事ではなく、彼には本気で手を差し伸べる者はもちろん、彼の間違いを正そうとする者もいなかった、だけどあなたは親方から責められている時にあなたの志を訴えてくれる人がいたじゃないですか」
カールはニラダと当時勇者の剣の作成依頼をした冒険者の一番の違いは窮地を本気で救おうとしたものがいた事だと告げ、自分の事と思い出したミヨモはカールに声をかける。
「わ、私はニラダ君が本気でSランクを目指している事を感じていましたし、私達でSランクを目指すって誓ったから、そのニラダ君や私達の思いも知らないであそこまで好きに言われるのが耐えられなかっただけで……」
「それってさっきもニラダさんが言ってた共に歩んでいきたい、皆さんはそういう思いを共有しているんですよね」
「思いの共有ですか……それは分かりませんが自分の無茶によくつきあってくれるなとは思いますね」
「あなた方は本当にパーティーとして素晴らしい事が分かります、ミヨモさんだけでなくティアさんやジャンさんもそうですよ」
「私達も?」
「おいおい、俺はさっきからあんたらに文句しか言ってないんだけどな」
ティアやジャンも話を振られて少し戸惑うがジャンの言葉を受けてカールが話し始める。
「ジャンさんが僕や親方に対していろいろ言うのはそれはニラダさんが責められたからなんですよね」
「……まあ、そうだけど、こうはっきり言われるとな」
「ティアさんにしてもそんなジャンさんをたしなめながらもニラダさんの気持ちには寄りそえてますし、形は違えどそれぞれがニラダさんを思っているのが分かります」
「ニラダはパーティーのリーダーで、私達も助けられていますし、お互いの為に何ができるか、そうしてパーティーって成り立つものだと思ってますから」
「ええ、だからこそあなた方の為に力になりたいと僕も思ったんです」
互いの思いを共有しあうパーティー、そんな彼らだからこそ力になりたいと思ったカールであった。