乙女ゲームを舐めるなあああああ!!!!
「乙女ゲームを舐めるなあああああ!!!!」
卒業パーティの最中、衛兵に片手で持ち上げられた王太子様が突然大声で叫びました。
「この展開は違うでしょ!お前ら俺を誰だと思ってんの?乙女ゲームの王太子様ですよ!ヒーローでスパダリなわけよ!」
王太子様は顔を真っ赤にして地団駄を、あ、地面に足が届いて無いからジタバタしてるだけですね。とにかく凄く怒っているアピールをしながら話を続けます。
「とにかくなぁ、これはゲームの世界であり、ゲームにはゲームのお約束があってチミ達モブや悪役はヒーロー側に有利なルールに従ってもらわないと話が始まんないんですよ!おい、衛兵!いつまで僕ちんをつかんでやがりますか!早く降ろしなさいよ!」
命令に従い衛兵は殿下を早く降ろしました。
「いったーい!」
殿下は顔面から床に落ち、大きくバウンドした後にテーブルに突っ込み、ピクリとも動かなくなりました。
あ、死んだ?
「ダブルサンデー!」
生きてました。殿下は自分の顔に落ちてきたいちごサンデーとチョコレートサンデーをすすり回復した様です。
「なーにしやがりますか、存在感5のモブ衛兵が!後で始末書書きなさいよ!さて、話を戻しますと、この私がそこの悪役令嬢さんに冤罪をかけて婚約破棄したら即座にこの衛兵が飛んできて吊り上げられた訳ですねー。もうアホかと馬鹿かと」
殿下はため息をつき、顔を真っ赤にして地団駄を踏みました。おおっ、今度は床を踏み鳴らす正真正銘の地団駄です。あ、マント踏んで転んだ。
「た、たたらっ!」
盛大にたたらを踏み、殿下は中華料理の並ぶテーブルに倒れ込みました。
「五目チャーハンをグリンピース抜き、それとワンタンメンのワン抜きー!」
自分の頭にかかった熱々の料理名を叫びながら転がる殿下。すかさず衛兵が駆け寄りバケツの水をぶっかけました。
「ちべたーい!んーサンクス。始末書は無していいよ。で、さー、ゲームにはお約束があるでしょ?ロープレの勇者がタンス漁っても逮捕しない。アクションゲーでは自機復活直後は三秒無敵時間にする。そんで、乙女ゲーでは卒業パーティで悪役令嬢に冤罪かけて有罪にする」
殿下の言葉に賛同する者は一人としていませんでした。というか、殿下が婚約破棄を宣言してから全員で沈黙を続けています。私達はただただ『ある目的の為』殿下の演説が終わるのを待っていました。
「死んだばーちゃんが言っていたよ。自分の役割から逃げるなって。俺はこのゲームのヒーロー。俺はメイン攻略対象。だから悪役令嬢に冤罪をかける。これはこの世界のお約束で俺の役割なんだ。だからさ、悪役令嬢さんも自分の役割に従って観念して下さいよ」
無茶苦茶な事を言っていますが、殿下の目は真剣でした。ならば応えてあげましょう。私は一歩前に出て構えをとりました。
「そう!冤罪をかけられた悪役令嬢は実力行使に出る!これぞ乙女ゲームのテンプレってもんよ!さーあ皆様ご覧あれ!ヒーローとラスボスの勝負が始まるざんすよお!」
(ズンチャチャチャズンチャチャチャズンチャチャチャズンチャチャチャペポポポーポポペーポポパピピプー)
もはやお馴染みとなった専用BGMをバックに、殿下は懐から五本のナイフを取り出し、大玉の上に乗りながらジャグリングを始めました。
「ファホホホ、これぞ王太子奥義ファイナルジャグリングアタックじゃーい!」
これは確かに凄い。先月のバトルではナイフ二本だったのに、腕を上げましたね殿下。正面突破は困難なのは間違いありません。
まあ、衛兵に後ろから殴らせるから関係ありませんが。
「あらー!」
ちゅどーんと爆音を立てて壁に叩きつけられた殿下は、またもや床に顔面から着地し、自然落下してきたナイフが背中とお尻に突き刺さりました。
「ほ、ほげー!痛い痛いのよーん!乙女ゲームのヒーローたる私が何で毎回こんな目にー!?」
そろそろ良いでしょう。私は殿下に向かい手紙を投げつけました。
「ほげ?こ、これは死んだばーちゃんの手紙だ。何でチミが持ってたの?まあいーや、読めばいいんでしょえー、なになに…」
先代王妃様の手紙を読む殿下は、最初は昔を懐かしみニコニコしていました。
「ばーちゃん…」
しかし、手紙の中盤まで読み進めた頃に顔を青ざめさせ、
「ば、はーちゃん?」
後半で顔を真っ白にし、
「嘘だろばーちゃん!!」
最後まで読み進めると、顔を真っ黒にして怒り狂いました。
「あのクソババアあああ!!!」
殿下は手紙をビリビリに破くと、私の方に指を突きつけました。
「おい、この手紙に書いてある事は全部本当なのか?正直に答えろ!」
私ら無言で頷きました。
「まず最初に確認するが、やっぱ、この世界は乙女ゲームなんだな?」
私は頷きました。
「男爵令嬢がヒロインで、お前は悪役令嬢なんだな?」
私は頷きました。
「そして、ヒーローは俺じゃなくて弟の第二王子なのか?」
私は頷きました。
「さらに言うと、お前はとっくに改心して、男爵令嬢や第二王子の仲間になっちゃってるワケ?」
私は頷きました。
「んじゃ、やっぱり卒業パーティで冤罪かけて婚約破棄するテンプレなんて乙女ゲームには無いんだ?」
私は頷きました。
「つまり、この私はただの道化。乙女ゲームのノイズ。ヒロインのストーカー。とんだ勘違い野郎。無能な働き者。そゆことですかぁ?」
私は頷きました。
「納得できるかぁぁあ!!!」
殿下の全身が怒りで真っ赤に染まり、パーティ会場全体が火山帯並の熱気に包まれました。ああ、やはりこうなってしまうのですね。ですが、これは仕方の無い事だったのです。
先代王妃様は、私に手紙を預けると同時にこう告げました。この世界を影で支配する存在がいて、彼らは私と王太子殿下を操り自分達の都合の良い世界にしようとしていると。
その管理者気取りの連中こそがこのゲームの真のラスボスなのですが、彼らの手駒である私と殿下の両方が正気に戻るか死んでしまった場合、彼ら自らが物語に介入し暴れ回ってしまいます。ですので、ラスボス撃破に必要な装備・アイテム・仲間・レベルの全てが揃う終盤までは殿下には敵側のままでいてもらう必要があったのです。
さて、黒幕の方は男爵令嬢さんと第二王子様がボコボコにしている頃でしょう。私もこちらの始末をしなくてはいけません。
「認めるさ、今までの俺の行動が乙女ゲームの定番の真逆だった事をなあ!だったらお前らを皆殺しにして新しいテンプレを誕生させてやるわぁ!卒業パーティで冤罪かけて婚約破棄するテンプレはここから始まるんだじょー!」
(ズンチャチャチャズンチャチャチャズンチャチャチャズンチャチャチャペポポポーポポペーポポパピピプー)
完全に正気を失った殿下に、私は武器を構え今までの思いを込め叫びました。
「乙女ゲームを舐めんなあああああ!!!!!」




