7話 現実と何かと
俺の特技は寝る早さだ。正直、10分あれば仮眠できる。カラオケで隣が騒いで居ようが、ライブで周囲が熱狂していても寝ることができる。
「随分と遅かったね、みほ君!こんにちは、家近先生」
いつものように、芦屋潤が出迎えてくれた。
「ごめん、教室でうたた寝してしまった。て、芦屋。お前今日学校来てたのか?」
「なんで?僕が学校にいたらそんなに変なことかい?」
「いや、そういうことじゃないんだけど。まぁ、元気なら問題ないか」
いつも笑顔の芦屋だが、今日は妙に不貞腐れていた。
確か今日、休みではなかったか?今の状況と、あの夢みたいで現実的な体験が俺の脳内で交錯した。
周囲を見渡すと、それ以外の状況は同じだった。霞ヶ浦かなは鏡と睨めっこ、新舞はスマホ、宮代は問題集を解いている。九十九里進はもう少ししたら来るだろうか。奴はだいたい遅れてくる。ていうか、いつもの光景だ。毎回同じ。ただ、家近先生から雲見さんの紹介はなかった。
「そういえば、先生。新入部員入ってくるんですよね?」
「いや、入らないが?」
「え?」
「そもそもこの部活は許認可制だ。おいそれとは入れない。」
「そうなんですか。初めて知りました。」
「そういう形式なだけだ。断る理由はないから、どうしてもと言うなら入部できるけどな。」
興味を唆る話でもないが、誰も家近先生と俺の会話に入って来なかった。
「なんですかそれは。意味ないじゃないですが。普通に入れてあげてくださいよ。ただでさえここは少し辛気臭いんですから。」
「そういう決まりだ。」
キュイィと金切り音とともに、突如椅子が引かれた。鼓膜が刺さるような感じが、少し不快だった。
「電話。」
新舞さんは立ち上がり、スマホを胸ポケットに入れてスタスタと歩いていく。
「ご、ごめんなさい!遅れまひたっ!」
九十九里進がやって来た。
新舞さんは九十九里とすれ違い、正面衝突は避けれたようだ。今回は前を見て、歩行している。
「良かった。良かった。」
新舞さんが踵を返し、俺を睨んできた。
「えっと?どうかした?」
「何でもない。」
明らかに様子がおかしかったが、間髪なく新舞さんは準備室を出て行った。
「あーあ。」
霞ヶ浦かなは呆れた口調で、俺を憐れんだ。
「みほ君。。。大丈夫?」
「俺は大丈夫だけど。」
女性の機嫌は海の天気のようだと言ったのは言い当て妙よな。とは言うもの心当たりしかなかった。遅刻した分際で、部長が文句を垂れ流すのはさすがに良くなったか。
ただ、皆が興味もないこの部活動に癇癪を見せるというのは、何らかの思い入れが彼女にあるということだろうか。一方の宮代は関心の素振りもなく、黙々と課題をこなしており、模範な態度だった。遠目から見るノートには、文系の俺では分からない数式が記帳されていた。
「取り敢えず、仲良くやってくれ。私は戻る。」
先生の助太刀はなさそうだ。これまで家近先生は顧問として指導も助言もまるでない。見守ると言えばいい響きだが、放置のように思えてどうも釈然としない。
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淡々と時間が過ぎて、定刻になった。
続きますが、途中で終わります。