6話 訪れた日常に匙を投げて
「君はいつまで寝ているつもりなんだ?。」
家近先生は俺の髪をわしゃわしゃと掻き乱した。
「面倒見てもらえて助かりましたが、ちょっとまだ気分悪いのでそういうことは。」
うつ伏になった身体を起こす。どうやら、鼻血は止まったらしい。それに思ったほどに、気分も悪くない。体調不良は一過性だったのだろうか。
「部活の時間だぞ。」
さすがに今日は大事を取って休んだらどうだ?と病人を患う言葉を頂きたかったです。病み上がりの人間に対して、あまりに酷ではありませんかね。
俺は顔を上げると、そこには家近先生が立ちはだかる。威圧感といい、ラスボス感がぱない。でも、少し可愛い。
「さすがに行こうか迷っています。」
寝起きなのもあいまって、これから身体を動かすのは少々億劫だった。部活に行きたい症候群は発症せず、既に抗体ができてしまっていた。
「あれ?」
普段の日常が、日常であって日常なないような気がする。自分でもちょっと何を言っているのか分からない。
俺は違和感がないことへの違和感を感じずにはいられなかった。さっきまで保健室のベットで寝ていたはずなのだが、一体どうした。
時計を見ると4時30分になるところだった。猜疑心に駆られながら状況を整理する。今ここで、教室にいること自体不可解だった。家近先生がシンデレラ抱っこで俺を抱えて、保健室から教室に連れて来たのだろうか。それは物理的にありえないのだが。不思議だ。
「はて、俺はどのくらい寝ていましたか?」
「知らん。15分くらいじゃないか。君が来ないからって、来てみたらこれだ。」
とてもリアルな長編映画でも鑑賞していた感覚だった。今の状況から察するに、俺は夢でも見ていたのだろうか。しかし、仮眠以外に意識はしっかりあったはずなのだが。
完全に寝ぼけていた。
「なんだが気を遣ってくれたみたいで、すみません。」
「そういう時は、感謝の言葉を言われたいものだな。」
「ありがとうございます。んじゃあ、部活行ってきます」
俺は枯れ気味な声音ながらも、家近先生にそう伝えた。教師らしからぬ黒髪のポニーテルが犬の尻尾のように、ふりふりと揺られている。
「せっかくだし、私も行こうか。」
一緒に行くとか、気恥ずかしい。どんなシュチュエーションだよ。
「いや、さすがにちょっとそこまでしなくて大丈夫です。。保護者じゃないんですから。お気持ちはとても嬉しいですが。」
家近先生は眉間を上げて、俺に顔を近づけた。ややつり目がかった大きな瞳が特徴的な猫顔の家近先生は、実年齢よりも若く見える。ほとんどの先生が、普段派手さのないカジュアルな服装で教壇に立つが、家近先生は常にスーツを着こなしている。普段から正装しているのは、校長先生しかいないのだが。
「私は保護者ではなく、顧問なんだけどな。部長が寝坊して詫びる所を見に行こうか。」
「え?」」
俺は咄嗟に右ポケットからスマートフォンを取り出し、日時を確認した。
「楽しい生活部の時間だ」