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5話 とある日に訪れるであろう日の行方

「すんません、これから部活動なんですが。」


露骨な態度を見せて抗戦するも、家近先生は俺の言葉を遮るように、


「用があるのは私ではなくてね、別人なんだ。大丈夫だ、安心してくれ。任意だが、拒否権はない。大丈夫だ。」


ちょっと何言ってるかわかりませんよ家近先生?警察の職務質問かなにかですか。あれ拒否ると執拗に迫ってくるのはなんなんでしょうか。人間の性ですか?


確かに、思い当たる節がないことはないと思います。授業中、居眠り運転をした気がします。


「分かりました。でも、この後部活動ですからね。」


分かりますよねと念を押す。大事な事なんで、2回言いました。


日直や委員会をダラダラとやり過ごし、遅延証明書という正当な言い訳を拵えて、どやり顔で社長出勤することに小さな優越感を感じては、そんな小さなことにデカい態度を取った自分の器の小ささを感じて忸怩たる思いにさらされる。


しかし、今回に限っては滅多に発症しない早く部活に行きたい症候群level5に駆られている。俺って相当な天邪鬼なのかしらねっ?嘘だっ!!


「分かってる、分かってる。すぐに終わる。。。。と言ってやれるかは君次第かな?」


そう言って、俺と家近先生は教室を後にした。


俺は途中、トイレに寄った。家近先生は早くしろと言って、踵を返した。舌打ちしてるの聞こえていますからね。これと言って思い当たる節はないのだが、これから起きることに嫌な予感がして、心臓の脈打つ律動が伝わってくる。


2階の職員室に連行されると思っていたが、どうやら更に階段を下って、一階まで降りてきた。校長室の隣、応接室の前まで来ると家近先生は足を止めると同時に、表情が瞬時に強張った。俺はその緊張感を感知せざるを得なかった。なんだよ、これから何が起こるんだよ。やめてよ。


「失礼します。」


家近先生は等間隔に2回ノックをして、扉を開く。ここの応接室だけは異空間で、ヨーロッパの中世時代を彷彿させる内装だけに品位を感じる造りなのだ。それがまた心高鳴る鼓動に拍車をかける。


「お待たせしました。2年5組を担当しております、家近くるみと申します。同じく、2年5組の三保原真君を連れて参りました。」


「お忙しい所、すみません家近先生。さぁさぁ座って。」


切長の目に、オールバックで整えた笹屋教頭先生が、家近先生を手招きすると、君も君もと、ここが君の座るところだからと、3人掛けのソファーにポンポンと素朴さに手を叩いた。


正面に相対するは、40代と見える紺色のスーツを着た細身の男性と20代と見られる小柄で童顔な女性だった。


「刑事の漆原です。こちらは新人の有珠刑事。そんな緊張なさらないで、二、三質問しにしに来ただけですから。」


それを取り調べと言うんじゃないですかね、刑事さん。いやー、まじで警察きちゃったのかよ。一体まじで、なんなんだよ。


一方の有珠刑事はぺこりと頭を下げて、申し訳なさそうな表情をしている。家近先生よりも年下だろうか、刑事の風格がまるでない。おっかねぇ兄ちゃんを相手にでもしたら、いかにも捲られそうで、おたおたしている。


漆原刑事はお茶に口をつけて一服して、


「それでね、三保原くん。一昨日の水曜日なんだけども、放課後どこで何をしていたのか教えてくれるかい。」


漆原刑事の前には茶菓子まで供えてある。当然、家近先生と俺には何も用意されているはずもなく、今後もそのつもりはないようだ。人によって態度を変える人が世渡り上手とは思えませんけどねぇ、笹屋教頭先生。


「はい。放課後は部活動をしていたと思いますけど、それが何か?」


漆原刑事は俺を見て、眉をひそめた。


「思う?思うとはなんだね?2日前のことなんだけどね。」


「いやいや、2日前のことなんて詳細に覚えていませんよ。」


俺は2日前の自分の行動を思い出し、反芻した。やはり、記憶がどうも曖昧だった。まぁ、無自覚に過ごした2日前のことなんて覚えていることの方がむしろ少ない。例えば、昨日の朝食何を食べたかと問われても、思い出すのに結構苦労したりする。


天を仰いでいると、ぷつっと何か線のような意識の集合体が切れる感覚がした。身体の違和感に俺よりも先に家近先生が反応した。


「三保原?」


突然、隣に座る家近先生が俺の鼻元にハンカチを当てた。


「鼻血が出ているぞ。気分でも悪いのか?」


昨日、生活部の準備室に入る時と同じような頭痛がして、先程まで元気だった俺の心臓も、どうやら活動を緩め始めたみたいだ。


「すいません、こんな時に。なんか気分が悪いような。。。頭痛がします。」


家近先生は俺の背中をさすり、肩を持った。


「申し訳ありません、保健室で大事を取りたいと思います。とりあえず、明日以降にでも、またお願いできますか。」


漆原刑事は構いなくと頷いた。なんてタイミングでやっちまったんだよ。何か変な雰囲気にならないと信じて、家近先生に支えられながら、外へ出る。なんか、これ、絶対疑われるやつじゃんかよ。


俺の意識は次第に遠のき、保健室のベッドで瞼が閉じるまで時間は掛からなかった。ちょうど4時になるところだった。

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