第三話 部活動内容
雲見さんは、バックから手帳を取り出した。そんなたいそうな説明事項なんてないんだけどね。熱心だなぁ。
「毎週木曜日の放課後、4時から5時までの1時間、準備室で過ごすこと。」
「分かりました、ありがとうございます。」
「時間になったら、帰宅していいから、好きにしてね」
俺の所属するバレーボール部に加えて、学校の規則でどの部活動も必ず平日1日以上の定休日がある。野外の部活は月曜日、屋内の部活は木曜日、水曜日は全校17:30までに全生徒一斉下校。九十九里のIT部に限っては、活動日が週2日しかない。
どうやら社会情勢に倣って導入したみたいだ。働き方改革と言って、俺の父親は夏の盆休みは以前に比べて家に居るようになった気がする。
確かに居るようになったのだが、家に仕事を持ち込んでいる。作業をする場所が変わっただけに過ぎないんだよな。
年間で5日以上の有給休暇を取得しないといけないらしく、守らないと会社側に罰則がついている。お上からの命令で休むことが業務になるって、これまでどんだけ休ませてもらえなかったんだよ。
うちの学校も文武両道の理念に基づいて、休みを設けているのだが、おそらく半分以上の生徒達がアルバイトをするようになってしまった。
何のために導入したのか、返って学業がおろそかになりませんかねぇ。社会も学校も、理念は素晴らしいのに、中身が全然伴っていない。やり方が根本的に違うのだらう。
かといって、生徒達もそこまで馬鹿ではないらしく、2年生の2学期が終わるくらいにはアルバイトは手仕舞いして、受験準備に入っている。
だから今年の夏休みがピークで、短期アルバイトや人によっては住み込みのバイトまでしている。勉強に部活動にアルバイトに、学生は忙しいね。
そんな社会の憂き目に辟易していると、雲見さんは手帳を見見ながら、少し動悸が激しくなっていた。
「あの、いくつか質問してよろしいでしょうか?」
予め準備していたような手つきで手帳の1枚を切り離し、机に置いた。箇条書きにしたそのメモは達筆書で、育ちの良さを想像するに容易かった。
「どうしてこの部活動には、上級生も下級生も居ないのでしょうか?」
それもそのはず、大抵の部活動は1年生から3年生までが部活動に参加し、取り組んでいる。よほどの強豪校のように一軍、二軍と、組織化されていない限り、学年は入り乱れる。
「今年創設された部活動だからだよ。あと単純に需要がない。」
「そうでしょうか?私は興味ありましたよ。」
それは、雲見さんの感性がおかしいからだと思います。
「だってほら、帰宅部って便宜上使われている言葉であって、実際は存在しないじゃん?生活部は顕在化させただけであって」
雲見さんは首を傾げて、
「三保原さんは、ご存じないのでしょうか?去年、生活部に似た部活動が廃部になって、またこうして新しくなっていることを。」
家近先生から伝え言われていたことであったが、どうしてその情報を知っているのか、俺は雲見さんに質問を返したかったが、やめることにした。
「学校の規定で、部員数がら3人以上居ないと部として認められないから、そのまま廃部になっただけだと思うけど?」
黒見さんは左手で、右手の手首を強く握りしめながら声を絞るように少し大きな声で問いかけた。
「皆さんがそこに加入していれば、廃部にする必要はなかったのではないでしょうか。わざわざ、廃部にまでさせて、新しくまた部活動を作る意味はあるのでしょうか。」
「確かに」
九十九里は目をきょろきょろさせて、周囲の雰囲気に同調しようと必死だった。