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第五話 フローライト・エゼルは準備する。

 それから毎日フローライトは茶話会に向けた準備を始めた。

 まずは服装だ。


「エイダン殿下が主役の場なら、やはり殿下の落ち着いた印象に似合う大人びたドレスを選ばせていただきたいわ」


 そうなるとピンクやオレンジといった明るい色のドレスより、青や緑といった落ち着いた色合いの方が合うかもしれない。いっそ黒という選択ができればよいのだが、黒は王妃のお気に入りの色だ。王妃の周囲で働く者も、本来の茶系とは異なる黒を基調とした特別な制服が支給されているほど思い入れが強い。特に王妃が自分だけの色だと公言したわけではないのだが、彼女が着用するとわかっているドレスの色を王家主催の会で被せるのはあまり褒められないだろう。

 アクセサリーもシンプルなものの方が良いだろう。

 そう考えながら、フローライトは引き出しから金貨の入った箱を取り出した。


「幸い蓄えはある。ここは、新調させていただきましょう」


 本来エゼル家ほど格のある家であればドレスや装飾品など欲しいままに買い与えられるものだろうが、ここは無骨な武家一家ということもあってか『どんな服でも着こなしてこそ一流』と、あまり頓着しない傾向がある。

 だが、どうせなら似合う服を選びたい。

 自分に似合う服というより、エイダンの前に立つにあたって適切な服を着こなしたい。

 そう考えたフローライトはベルを鳴らした。

 すると、すぐにメイドがやって来た。


「お呼びでしょうか、お嬢様」

「ドレスを新調したいの。マダム・サフィーリを呼んでもらえるかしら。お手隙の時でいいからとお伝えしてちょうだい」

「かしこまりました。すぐに使いを向かわせます」


 サフィーリはとてもセンスと腕の良い工房の女主人だ。昨年王都で行われたファッションイベントで最優秀賞を獲得したものの、人混みが過ぎる所は好みではないと王都進出の誘いは断った……と本人は話しているが、『私がいなくなったらフローライト様のドレスはどうなるの! エゼル家の上のお嬢様たちは戦闘できるドレスに特化しすぎてフローライト様に合うドレスを勧める人がいなくなっちゃうじゃない!』ということが本心である。


 ただ、王都に店がなくとも依頼を出したい者たちはコンタクトを取ろうと必死になっているので、問題ではないのかもしれない。


 そんなサフィーリとフローライトが親しい関係にあるのは、彼女の実家が農業、彼女の夫の実家が漁業を生業としており、両方と仕事上の付き合いがあるフローライトをずいぶん可愛がってくれているからだ。


「きっとマダムは喜ばれますよ。お嬢様にはもっと着飾っていただきたいと常日頃から仰っていますから」

「それは有難いわ」

「でも、お嬢様は視察に向かわれることも多いですし、煌びやかなドレスでは場違いになりかねないことは皆承知しておりますので」


 普段着飾らない理由はそれもあるが、一番はいろいろと面倒であるからなど絶対口にはできない事柄だ。

 缶詰のほか現在は加工品にも力を入れているため試食も多く、締め付けるコルセットは非常にしんどい。だからできるだけ緩やかにしていても気付かれにくい格好をしているだけである。


(一般的な貴族の常識に当てはめるならきちんとした身なりとは言い切れないかもしれないけれど、殿下のなさっていることの功績を広めるお手伝いができるならば些細なことだもの)

 

 残念ながらフローライトが行っていることがエイダンの事業の広報活動だと思っている者は本人しかいないのだが、彼女は相変わらず懸命である。

 交渉をまとめることはうまくできるのに、なぜエイダンの人柄や施策が人々に伝わらないのかと真面目に考えもするが、それはもはやフローライトのエイダンへの想いが強すぎるからに他ならない。やりすぎて、どうしてもフローライトが目立っているだけだ。


 退室したメイドを見送り、フローライトは次の問題に頭を悩ませる。


「ドレスの次は話題の準備ね。殿下のなさっている事業のことや私の取り組みのお話はできるけれど……。もし、殿下がお兄様たちのように軍記好きだった場合お話についていけなくなるかもしれないわ。騎士団と関わりのある殿下ならお好きであってもおかしくない」


 そう考えたフローライトはその日から書庫に籠る時間を急激に増やした。

 軍記だけではなく衛生学や救急法、あるいは美術史や建築学など『もしかして殿下がお好きかもしれない』と思ったものを基本から雑学まで、片っ端から頭の中に叩き込んだ。


 付け焼き刃の自覚はあったが、それでも何もしないわけにはいかない。


(招待状を頂戴しているのだからご挨拶することは可能でしょう。けれど、お話はできるかどうかわからないし、できたとしても長い時間は不可能よ。なくてもともと、できても一つの話題が精々といったところかしら)


 ならばどのような話題でも対処できるようにしておかなければとフローライトの熱はさらに上がる。会えただけで充分だと思っていても、万が一の可能性への準備は怠れない。


 そうして、普通の令嬢が行うだろう準備とは気合の入り方も方法も異なるフローライトの準備は直前まで続いた。

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