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第十六話 フローライト・エゼルは調査する。

 少し微妙な空気の茶会を終えたフローライトは王宮書庫へ向かった。


(入るのは初めてだけど、好きに見ることができるのは助かるわ)


 そして司書に尋ねフローライトが向かった先は貿易記録が保管されているコーナーだ。

 そこでフローライトはリーファ王国とのやり取りされているものをざっと探す。


(我が国からは鉱物が主に輸出され、主な輸入品は酒や装飾品といったもののはずなんだけど……)


 商家であるなら、スネイル家の名が出てきていてもおかしくない。

 貿易自体がレニーの焦りの原因とまでは思っていなくとも、スネイル家の状況を辿れば何かが見つかるかもしれない。


(と……あったわ。って、え?)


 が、それは思わぬ記録であった。

 七年前、スネイル家の大型商船が難破したと記載されている。

 正確にはその年の海難事故がすべて記録されているページの一つの記事であるのだが、特記事項として大きく取り扱われていた。


(それ以降もスネイル家は栄えている。でも、大型船一隻を失うということは本来家が没落してもおかしくないこと)


 それ以前に大量の蓄えがあれば、そういうこともないかもしれない。

 しかし転覆した船の規模を考えると、立て直すまでの時間があまりに短い。


(ということは、どこからかの援助があったはず)


 そう考えながら一度資料を片付けた。


(確かリーファ王国は貴族名鑑なるものが発行されていたのよね) 


 それは公的機関が発行したものではなく、一般庶民が興味本意で発行していると聞いたことがある。そのため正確性は不明だが、それでも他国の事情を知るにはあるに越したことがないものだ。


「この辺に……あったわ」


 幸いにもそれは発行から毎年買い足されていたようで、何冊か手に取りページをめくっていく。

 そしてスネイル家の項目を順にチェックしていく。


(レニー様は早くにお母様を亡くされている。そして、難破事故の三年前にご当主様が再婚されている。この方は、確か有力な商家出身で……やっぱり、爵位を最近賜った新興貴族だったわね)


 難破事故後に本当に金銭的援助を行われていたのであれば、おそらく当主の現在の妻の実家ではないかと想像した。レニーの義母になったその女性は、再婚時に一人の娘を連れており、養子縁組の結果レニーの妹となっていた。


 その他、スネイル家の情報としてはレニーには姉がおり、リーファ国の王子とも婚約中と記載されている。


(これは……)


 妙なことだとフローライトは思った。

 レニーは家族のためと言っていたが、姉が王家に嫁ぐことができる家なのだから、すでに安泰ではないか。

 しかしレニーは安泰ではないと思っている事実がある。


(難破事故、義母、家族のため、姉の婚約者)


 現在手元にある情報をつなぎ合わせたフローライトは、ひとつの想像を思い浮かべる。断定するにはまだまだ早い。

 ただ、一つ言えるのは……。


「情報屋さんへの依頼、変更料金を払って内容を変えた方が良さそうね」


 帰りにもう一度情報屋に向かい、帰った後はレニーに手紙を書こう。

 そう思ったフローライトはひとまず書庫を後にした。



※※※



 そして、四日後。


「私と御茶会がしたいと仰るとは思わなかったわ」

「来てくださってありがとうございます、レニー様」


 フローライトは自宅にレニーを招いていた。


『何を考えているのかわからないけれど、断ったら敵前逃亡みたいじゃない!』


 そんなレニーの声を聞きながら、フローライトは自ら紅茶を淹れる。


「へぇ、いい香りね」

「ありがとうございます。こちら、スネイル商会がわが国に持ち込んでくださった茶葉でございます」

「さすが私の実家ね。いい商品を扱っているわ」


 さらりとそう言いながらも、内心レニーが恥ずかしがっているのが伝わってくる。

 だが、実際に良い商品を扱っているので問題など何一つない。


「それより、一体何の用事なのかしら? ただ、親交を深めたいだけではないのでしょう?」


 さっそく本題に入ろうとするレニーからは緊張具合が伝わってくる。

 そして『本当にお茶会に呼ぶってどういうつもりなの!?』とただただ困惑した声も何度も聞こえてくる。


「私としては本当に親交を深めたいという気持ちは強いのですが……」


 主に、エイダン至上主義の仲間として語り合いたいという野望はある。


「けれど、その前にレニー様のお困りごとを解決しませんと仲良くなるのは難しいでしょう?」


 そのフローライトの言葉にレニーが止まった。


「え……?」

「'''ここからは、少し内緒のお話をしませんか?'''」


 周囲の人払いは済んでいるが、他に聞いている人がいるかもしれないという気持ちだったり、母国語ではない言葉を使うことになるという状況だとレニーが集中できないかもしれない。

 そう思ったフローライトはリーファ語を口にし、にこりと微笑んだ。


「'''もしかしたら、私にもお手伝いできることがあるかもしれませんから'''」


 むしろ手伝いをして、そして懸念を払拭してほしい。

 そんな強い思いを持った発言に、レニーの瞳が揺れた。

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