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第十五話 フローライト・エゼルは焦らせられる。

 今日は天気が良いからと庭園の東屋でお茶をする……ということで、城に到着したフローライトはさっそく東屋へ案内された。

 白い花が咲き乱れる庭園は美しく、心地の良い風が花の香りを届けてくれる。


 そんな絶好の場所でエイダンとお茶をしながら話を楽しむという贅沢にフローライトのテンションを上がりっぱなしだ。

 一方で、今日のエイダンは落ち着きがない。

 挨拶をしても「ああ」と、気もそぞろな返事がかえってきただけで、ティーカップには触れてもいない。


『ああ、どうやって切り出せば……』


 そんな心の声が届き、フローライトは理解した。


(これは……レニー様のことかしら)


 おそらく他に候補者がいると説明しなければいけないが、あまり口が上手でないエイダンはそのことに気を取られていつも以上に無口になっているのだろう。


『でも早く話さなければ……。集中できていないこの状況では、せっかくフローライトが話をしてくれていても集中できないではないか。だが、気を悪くさせることだろう。どうして伝えれば、一番よいのか……』

(私のことを気付かってくださるエイダン殿下はやっぱり、本当にとてもお優しい方だわ)


 フローライトはエイダンの心の声に感動した。


(別の候補者がいることは、私の力不足が理由だと私を傷つけると思っていらっしゃるのかしら? 力不足は事実ですから気にしていただかなくても大丈夫なのに)


 気を悪くするどころか感動しているフローライトは、エイダンの懸念解消のため会話を誘導しようと決意した。


「実は今日、レニー・スネイル様が我が家にいらっしゃいました」

「……なに?」

「溌剌として筋の通ったお方ですね」

「話は聞いているか?」

「ええ。婚約者候補となられたとのことで、互いに自己研鑽に励みましょうとお話しになりました」


 ですので、まったく個人的には問題ございません! そんな気持ちを込めて伝えたのだが、エイダンは手で顔を覆った。


「……その、すまない。不誠実だとは思うのだが」

「何を仰っているのですか。私は婚約者ではなく、婚約者候補。浮気などではありませんし、ほかの候補者と比較されるのは当然だと思います」


 その上で最後まで残ることができるなら幸運であるし、選ばれなかったなら能力か性格に問題があったということだ。


「ですから、まったく気にしていませんわ」

「……そうか」

(あら? なぜか余計に深刻に考えられています……?)


 しかし聞こえてくるのは『そうか』『そうなのか』『やっぱりそうか』という声だ。


(納得していただいたならお気持ちが軽くなると思ったのだけれど……ダメなのかしら?)


 しかし納得しかないのだから不満を言っても仕方がないし、そもそも不満自体がない。

 そう思いながら少し考え、フローライトは気が付いた。


(もしかして……私、やる気がないって思われてる!?)


 フローライトにとっては他の候補者が現れたというより、エイダン推しの仲間ができそうだということで嬉しい気持ちが優っているが、エイダンに伝えた発言だけを切り取れば『私は候補から外れてもいいですし』と思っていると捉えられても不思議ではない。


 それは、違う。


「エイダン様! その、もちろんエイダン様ほどの方であれば候補者など百人単位でいらしても不思議ではないと思うのですが、私も選択肢として残れるよう努めさせていただきます」


 決してやる気がないわけではない。


「もちろん実際不足があるのであとから候補者が増える現状、私に能力の不足があるか、決め手に欠けることは理解しております。ですのでレニー様より優れるとは申せませんが、私も一考の余地があると思っていただけますよう努めますので、何卒よろしくお願い申し上げます」


 しかしそう言い切ってから、果たしてこれが自分へのフォローになるのだろうかと疑問も湧いた。


(まずいわ……。こう言う時の適切な言い回しがわからない)


 だが、冷や汗が流れる前にエイダンの空気が少し緩んだ。


「そうか」

「はい」

「そうかー……」


 その声は不思議な音だった。

 安堵ともため息ともとれるし、どこか悩ましいようにも聞こえる。


 聞こえてくる声も『そうか』が続くのみであり、フローライトの疑問は重なり続ける。


(でも……少なくともご納得はいただけたのよね?)


 それならとりあえずは及第点だとフローライトは思うことにした。マイナスにならなかっただけ御の字だ。

 よくわからない状況ではあるが、その点についてはここから挽回できるようにするしかないのだから。

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