第十四話 フローライト・エゼルは依頼する。
「支所にはたまに顔を出しているって聞いてたけど、ここに来るのは初めてだな。領地は飽きたのか?」
「ご存じなのにお尋ねにならないでくださいな。今は殿下の婚約者候補として王都に来ました」
「その顔が見たかったから聞いたんだ。にやけているな」
「今は我慢する必要がありませんから」
一応人前でにやけないようにしているのは、エイダンを応援するにも品格が必要だと考えているからだ。
だが、目の前の男は口が堅いのを知っている。あまり知られていないことが財産である情報屋にとって他人の情報をタダで渡すことがないし、フローライトのはしゃぎっぷりの情報を欲しがる人物がいることも考えられない。
そして、仮に筒抜けになったとしても誤情報だと思わせられるくらい猫は被れているはずだ。
「で、何の用事だ。今更殿下のことを調べて欲しいというわけではないだろう。殿下に関してのみで言えば、俺らよりお前の方が詳しいんじゃないかと思うこともあるしな」
「あらあら、ボスが何のご冗談を言うのですか。でも、確かに殿下のことではございません。レニー・スネイルという令嬢のことを知っていたら教えていただきたいと思いまして」
「お前のライバルか。意外だな。蹴落としたいというわけでもないだろうに、どうした?」
「やはり相当情報が早いではありませんか」
「まあな。で? なんでまたそいつを調べたいんだ?」
「いえ、せっかく殿下至上主義のお友達ができたと思ったのですが、どうもご様子がおかしいので。ご懸念があるのであればそれを解消して差し上げたいと思いまして」
そうでなければ、色々集中できませんでしょう?
そう続けると、カイは肩をすくめた。
『スネイル家ねぇ。確かあの家、傾きかけてるから貿易に力を入れようとしてたな。殿下が持つ第二港の管理権は魅力的だろうが……』
(へぇ。でも、傾きかけてるとはいえ、管理権だけのために家族が必死になるかしら?)
もっと別の何かがきっとあるだろう。
そしてカイがあえて知っていることがあると口にしないのは、確信が得られないからでもあるはずだ。
「前金はこれでどうでしょう。調べていただきたい内容は、傾きかけている真の理由です。私も調査しますが、お代はいつも通りの額をお支払いいたしますのでよろしくお願いします」
というよりも、すでに情報を得てしまっているので何も支払わないわけにはいかない。
「あー。それは手が抜けないなぁ。お嬢様の自己調査に負けるわけにはいかねぇからなぁ」
『情報屋のプライドがあるしな』
(……なんて言いつつ、あなたはどんな仕事でも手を抜く人じゃないじゃない)
それなのにおどけて言う姿にフローライトは苦笑する。
「ところでお嬢は何から調べるつもりなんだ?」
「あなたがお使いにならない方法でわかることから、かしら?」
そう返事をしたフローライトは、もう一度「よろしくお願いしますね」と伝えてからその場を後にした。
次に向かう場所は城だ。
エイダンとのせっかくの時間は調査のことも忘れ楽しみ、調べるのはその後だと決意した。




