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第十三話 フローライト・エゼルは疑問を浮かべる。

「……失礼。話したくないわけではないけれど、説明しづらいから母国語で喋っても構わないかしら」

「'''もちろんでございます'''」


 むしろ相手に敬意を表す意味でフローライトも話し始めたものの、互いが違う言語で話していると違和感しかないのでそのほうが有難いとさえ思う。


「'''聞いたというよりは、婚約を申し込みたいと申し出たところ、殿下がすでに候補者と接触していると陛下が仰ったので、私も選考対象としてもらえないかと願い出たのよ'''」

「'''そうだったのですね。これも情報収集能力を測るための選考かと思い、少し緊張しました'''」

『我が家の申し出が今日だから、それはないけれど……そこまで説明する必要はないわね。聞かれていないし』

(申し訳ございません、レニー様。すべて聞こえております)


 ひとまず試験ではなかったことは幸いだ。

 対比されることを望んでいるわけではないが、同士としてエイダンのために研鑽を積むのも楽しみだ。


「'''レニー様、共に励みましょうね! これも何かの縁です、是非私たちの親交も深めましょう'''」


 そして願わくば、エイダンの魅力を互いに語り合いたい。

 そうフローライトは心から思い提案したのだが、レニーは目を瞬かせた。


「'''あ、あなた……なにを考えて……'''」

「'''私、領地にずっといたので同年代の友人もほとんどいないのです。ですから、レニー様にお会いできたのは幸運ですわ'''」


 ライバルは互いを高め合うために不可欠な存在であり、勝敗がどちらでも自分が成長できる。

 そう、昔読んだ本に書いてあったことをフローライトは思い出した。


『この方、本当に何を考えているの!? 乗り込んできた相手を普通に歓迎してるわ!? 負けられないと勢いで来たけれど、本当はこんなこと意味がない上、私の醜聞にもなりかねないのに受け入れてるってどういうこと!?』

(あら、そんな情熱的な気持ちも素敵だと思いますよ)

『でも、私も負けられないのよ……我が家のために、絶対!! エイダン殿下の妃となり縁を結べば、きっと私の窮地も脱せるはず……』

「え?」


 窮地?

 何を言っているのかと、フローライトは不思議に思った。


「'''どうかしまして?'''」

「'''いえ、空耳だったようです'''」

「'''そう。では、今日は挨拶に来ただけですので、そろそろ失礼いたしますわ。見送りは結構です'''」


 そうして去っていくレニーの背中を見るフローライトに、メイドが「お嬢様、大丈夫でございますか?」と声をかけた。

 会話が途中から外国語になったことで状況が把握できなかったのだろう。


「ええ、大丈夫よ。決して嫌な方ではないですから」

「そうなのですね……?」

「それより、そろそろ私も外出の支度をしましょうか」

「少し早くありませんか?」

「ええ。けれどたった今、寄るところができてしまったの。お願いね?」


 軽く腹ごしらえをしてから、戦闘服もといドレスに着替える。

 そして、レニーに会う前にフローライトはその情報を拾うことにした。



※※※



 フローライトが向かったのは、王都の富裕層が宿泊する宿だった。


「いらっしゃいませ。ご予約はお済みでしょうか」

「いいえ。面会に来たの」

「かしこまりました。ご宿泊者様のお名前をお願いいたします」

「赤と緑のシルクハットを被った小人を呼んでくださいませ。そろそろお誕生日のはずなので、もう少し見栄えのいい帽子を見繕いたいと伝えてくださるかしら」

「かしこまりました。ではゲストルームへご案内いたします」

『情報屋のボスの合言葉じゃないか。しかも呼び出し最優先の暗号で……この御令嬢は何者なんだ?』


 表面上は一切の動揺がないフロント係に少し感心しながら、フローライトも『そうなりますね』と、彼の驚きに同意した。もちろん、フロント係と同様に表情には出していない。


 情報屋と繋がったのは、偶然の出来事だった。

 三年前、社会見学の一環として立ち寄った港町の倉庫前でカードゲームで賭け事を目撃したのが発端だ。その賭け事は一人の男が非常に強いとされていたが、フローライトの耳にはその男がイカサマをしている声が届いていた。

 そしてイカサマ男は自分が負かせた相手を侮辱していたのでフローライトはその場で乱入し、相手のイカサマを指摘した上で大勝したのだが……その時助けた相手が、現在の情報屋のボスの弟分だったのだ。

 礼がしたいと言った弟分に案内され向かった先の喫茶店でフローライトは初めて情報屋のボスに出会った。事情を聴いた彼はフローライトに「それほどの洞察力を持つ人とは共に働きたい」と話しかけたのだが、その時心の中で『情報屋として』と付け加えたことから、フローライトは彼を情報屋だと知り、周囲に人気がないことを確認してから「私は情報屋にはなれませんが、顧客にはなりたいと思います」と言った。

 ボスとしては令嬢であることは予想したうえでの勧誘だったが、見破られるとは思っていなかったため驚き、そして大笑いし、気に入ったのでいつでも訪ねてくれて構わないと言い……ボスが根城を王都に移した今も変わらぬ関係で今に至る。


 もっとも、フローライトが王都で彼を訪ねるのは初めてのことだ。

 そのようなことなど知らないだろうフロント係に案内された部屋で待っていると、そう時間が経たないうちに相手はやってきた。


「よう、久しぶりだなお嬢サマ」

「ええ、お久しぶりです。カイもお元気でしたか?」


 現れたのは、フローライトより一回り年上の男性だ。

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