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第十一話 フローライト・エゼルはすれ違いに気付かない。

 それからフローライトには定期的にエイダンに会う機会が設けられた。

 そして、今日も午後から二人でお茶を飲む約束をしている。


(ご褒美が過剰過ぎて、夢を見ていると言われても不思議ではないわ……)


 エイダンとの面会の回数が増えていくにつれ、不意打ちの衝撃の回数が当初よりは少し減ってきた。ただ、それはときめきが消えたという話ではない。想像もつかないような状況から、毎回尊い姿を拝めるというふうに変化したというだけだ。

 ただ、少しずつではあるが、心の声も前より聴こえることが増えてきた。


『彼女は王都で不便な思いをしてないだろうか』

『無理にこちらに呼び寄せていることは心苦しい』

『何か彼女が興味を持てるものは他にないだろうか』


 このようなことが頻繁に聞こえて来る。


 胸の高鳴りが抑えられないことはいつものこととなり、今まで聞いたことがないほどの大きな音が自分からしている。

 このまま心臓が止まってしまうことだけはないようフローライトは願う。

 何せまだまだエイダンの布教活動は志半ばなのだから。


 だがこんなことを考えていたフローライトなので、その心臓の音の半分はエイダンの声にならなかった心の声であることに気付いていなかった。



※※※



 同刻、エイダンは無表情のまま執務室にて頭を抱えていた。


(まもなく次の面会日だが……やっぱり私の妃に彼女は勿体無いだろ……!)


 フローライトの毎度の反応が可愛過ぎて辛い。

 何を話しても興味深く聞いてもらえるうえ、嬉しそうにされることもとても多い。


 だが、話している自分は、本当に彼女が楽しめる環境を提供できているのか疑問があった。


 仮に自分が愛想良く、かつ女心を理解できるならこのようなことで悩むことなどなかったのだろう。だが実際には『怖い顔』と世間で言われていることを理解している。加えて自分の口下手がそれを助長している。

 だからこそ、やはり自分はフローライトにふさわしくないと思ってしまう。


(彼女にはもっと幸せになれる縁談がいくらでもあるだろう。少なくとも心穏やかに過ごすならば、他にいくらでも話があるはずだ)


 当初から思っていたことのことを、より一層強く思うようになっていた。彼女から辞退を言い出されない限りは婚約者でいようという思いも秘めているものの、会う回数を重ねるごとに『本当にこのままで良いのだろうか』と悩む時間ができている。


(フローライトは可愛いだけではなく、私のことを知ろうとしてくれている。例えそれが候補者からの義務感だとしても、ありがたいことこの上ない)


 もともとフローライトの仕事が自分の仕事と接点があったことにエイダンは幸運の女神に見放されていたわけではないらしいと思い感謝した。

 フローライトが無愛想な自分を厭わず話しかけてくれているのも、そこに原因があったのだろうと思うと真面目に仕事をしていた自分を褒めたくもなる。


(彼女と会っている時はこんな生優しい表現では足りない。どのように表現すればよいか、わからないほどの気持ちが湧き上がる)


 だが、今まさに言葉にしているものも、人前で口にするには大概恥ずかしいものである自覚はある。


(……つまり、逆に表情が乏しくてよかったのか)


 エイダンは人生で初めて、自分の表情が乏しいことに非常に感謝した。

 今まで表情を作ることが下手くそなことで損をしていたが、だらしのない顔になってしまうくらいなら今の状況でよかった、と。


 それと同時に、やはり自分のような相手ではフローライトのような穏やかな令嬢では釣り合わない、辛い思いをさせるのではというような思いも拭えず、夜な夜な悩んでいた。

 しかし“夜な夜な”である限り、その思いがフローライトに届くことはない。

 もっとも、昼に思ったところで気持ちが昂っているフローライトに届くとは限らないのだが。


 このように最初に何を考えていたのかわからなくなるほど思考が行き来していることを認識しながらも、エイダンは仕事に取り掛かろうと一旦気持ちを切り替えることにした。

 自分の仕事にフローライトは強く興味を抱いてくれているようなので、彼女の気を引きたいのであれば仕事を進めるのが一番である。


 そう気合を入れ直した時、執務室のドアがノックされた。

 何事かと思いながらも入室を許可すると、書信が一通届いたとのことだった。


 本来外部からのもの書類はまとめて決まった時間に届けられるはずなのだが、一通だけということにエイダンは疑問を抱いたが、もしかするとフローライトからの手紙なのかもしれないと期待してしまった。

 部屋に一人となるとすぐに白い封筒を裏返した。


 そして期待は裏切られた。


 さらにそこに施されたシーリングを見る限り、どうも悪い予感しかしないと思わざるを得なかった。



※※



 エイダンが手紙の封を切っていた頃、エゼル家には一人の令嬢が訪れていた。

 彼女はフローライトを指名するなり、大きく言い放った。


「私、レニー・スネイルと申します。フローライト様と同じく、婚約者候補ですわ!」


 高らかに宣言する令嬢の声は、ホールによく響いた。

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