4話 マイファミリー
ニーナちゃんに噛みつかれてからしばらく。
吸血に満足したのか、童貞はやっと解放された。
当の本人はというと、口の周りを血だらけにしながら、けふけふっと満足そうにゲップをされていた。
「ヨッくん、ごちそうさまでした! ヨッくんのちとってもおいしかったよ!」
ニーナちゃんがニカッと笑うと、鋭い犬歯が童貞の視界に入る。
太っと……、え、あんなのが刺さったの? ちょっと笑えない太さなんだけど? これからもアレで吸血されると思うと幾許かの不安が募る。
しかし、そんなマイナスデメリットすら吹き飛ばすくらいニーナちゃんって可愛いんだよなぁ……。
まるでいちごのかき氷食べたみたいだね……、ってそんなわけあるかぁぁぁ!! 血液だっつーの!! 俺の血!! しかもめっちゃ吸われたし!!
これは……、ちょっと釘を刺しておかねば。
「お、おおおお粗末様でした。でもね、ニーナちゃん? 今回はいいけど相手の了承を取らずに血を吸ったらダメだからね? あとヨッくん以外の血を飲むのも禁止! わかった?」
「うん、わかったー!」
素直に応じてくれるという。
良かった……、仮に自宅に連れ帰ってみんなを襲い始めたら、さすがに考えなきゃならんもんな。
とりあえず持ってたハンカチでニーナちゃんの口元を拭くと、くすぐったそうに笑うニーナちゃん。
俺も傷跡を治さないとな。
……ヒールヒールヒールヒール。
まじで持ってて良かった回復魔法、ナタリーさん、まじで愛してる。
「お、おい、ニンゲン? これから姫様や私をどうする気だ?」
蝙蝠さんがパタパタとニーナちゃんの周りを飛びながら心配そうに聞いてくる。
「とりあえず自分と一緒に家に来ていただこうかと考えております。……が、しかし。将来的に我々人族と敵対するということであれば、その限りではありません。ですので、お二人には我々と敵対しないと、この場で誓っていただきます」
「はぁ!? そんな約……」
「ニーナ、やくそくするー!! ニーナもっとヨッくんとなかよしになりたい!!」
「――ひ、姫様!?」
ふっ……、ちょろいもんだ。
蝙蝠さんが何か言おうとしてたが、ニーナちゃんに被せられてしまい結局言えずじまい。
もう既に奴の主人であるニーナちゃんは童貞の手の内にある。
主人を制する者は部下をも制す!!
さあ、どうするよ蝙蝠さん?
しかもニーナちゃんなつき度パラメーターは圧倒的に童貞の方が上だぜ?
なぜなら食糧も兼ねてますからね!
あれ……、なんだろう、心の涙が止まらないんだが?
「ぐぬぬぬぬ……、わかった。姫様が誓われるなら私も貴様に属しよう。しかし、姫様の身に何かあった時は……わかってるだろうな!?」
ギロリとこちらを睨みつける蝙蝠さん。
こいつ蝙蝠のくせしてやけに威圧感あるんだよな。
「ええ、もちろんです。何人たりともニーナちゃんに危害を加えることは、この俺が許しません。こちらも誓いましょう」
「……わかった。不本意だが貴様を信じよう」
納得いただけたのか、蝙蝠さんが童貞の肩にピタッと止まる。
さてと、これでいち段落。
とりあえず当初の目的であるダンジョンコアも見つけたし、後は本体を再起動して撤収しますかね。
俺はポーチからダンジョンクリスタルを取り出して、ダンジョンコアに近づけると……。
強制的に開かれるメニューウィンドウ。
ダンジョンコアのデータが羅列して表示された。
その一番上の項目に目をやると――
【所有者:バルバネス・パドス】
――この欄だけグレー表示となっていた。
なるほど、所有者であるダンジョンマスターが死んでしまうと、登録リンクから外れてしまい、クリスタルやコアが活動停止となるみたいだ。
データ上でも所有者不在となるドラクロア城のダンジョンコア。
であるのならば、このままありがたく頂戴しちゃいましょう。
ダンジョンコアの所有者欄を童貞に書き換えてっと……、ほい、完了!
応じて聞こえてくる、ゴウン、ゴウン、ゴウンっと重く響く起動音。
どうやらダンジョンコアが星体エネルギーの吸い上げを始めたようだ。
さーて、あとは瘴気が溜まるのを待つだけだな。
とりあえずクリスタルの瘴気が満タンに近いから半分ほど移しておこう。
そんな作業をしていると、なぜか蝙蝠さんがドン引きしながら話しかけてきた。
「お、おい、ニンゲン!? き、貴様一体なんなのだ!? パドス様しか扱えなかったクリスタルを操るわ、しかも本体であるコアを再起動させるわ、お前本当にニンゲンなのか!?」
モンスターに人外認定されるとはこれ如何に?
「ええ、歴とした人間ですよ。ただクリスタルを操る能力があるだけです」
「き、貴様の目的はなんなのだ!?」
「目的は至って単純です。雇用主からこの地に迷宮都市の建設を委任されたので、それに準じているだけですよ。特に誰かを害したりする気など毛頭ありません」
「そ、そうか、ではパドス様のように亜人たちをまとめるつもりなのだな? であるならば特にこちらとしては口を挟むつもりはない。むしろ姫様のために励めよニンゲン」
おや? 何か蝙蝠さんが勘違いしているようだ。でもまぁ、それを指摘したところでこちらにメリットはない。また騒がれても面倒だし。とりあえずこのままスルーしておこう。
というわけで、必殺問題先送り。
未来の俺よ、よろしくー。
さあ、撤収しますか。
「おーい、リアムくーん? 起きろー? 終わったから帰るよー?」
「むにゃむにゃ、師匠ー、僕はまだ眠いですー」
そんなグダグダのリアム君をなんとか起こし、我々は転移石でアルフェリアの邸宅へと戻るのだった。
というか今更ながら、ニーナちゃんのことをみんなになんて説明しよう?
とりあえずニーナちゃんと蝙蝠さんに禁止ワードだけ話しておくか。
魔王の娘と苗字のバルバネスは絶対NG。
まぁ、バレたとしてもうちの家族であれば、きっと受け入れてくれると思うけど……、たぶん。
とりあえず部屋に戻るとしますか。
そして童貞はニーナちゃんたちを連れて自分の部屋へと転移した。
◆◇◆
………………
…………
……
「なっ!? バカな本当に転移しただと!?」
「ふおぉぉぉぉ、ヨッくんすごーい!」
蝙蝠さんは驚きで固まっているが、ニーナちゃんは目を輝かせながら感動してくれた。
童貞嬉しい。
「ここはもうドラクロア城から遠く離れたアルフェリア王国の首都アウストラとなります。ですので、なるべく目立つ行動は控えてくださいね?」
「そ、そうだな。人族の街であれば私はただの蝙蝠として姫様のおそばに仕えよう」
「メティスしゃべっちゃダメだよー」
「が、頑張ります……」
そんなやり取りが終わると、むにゃむにゃしてるリアム君が――。
「師匠、僕はとても眠いので部屋に戻ってもいいですかー?」
どうやら早起きの反動で急激な睡魔に襲われているリアム君。
彼のおかげでドラクロア城まで大幅なショートカットが出来た。起きたら彼の大好物であるステーキパーティを開催してあげよう。
「リアム君、今日は本当に助かったよ! 部屋でゆっくり休んでて」
「むにゃむにゃ……、僕も楽しかったですぅ。では師匠、おやすみなさい」
そう語ると、のっそのっそ自室に戻るリアム君。
さて、とりあえずニーナちゃんと童貞ファミリーの顔合わせをしないとな。
リビングに行けば誰かしらいるだろう。
三階にある自室を出て、スタスタと一階のリビングへと向かう童貞。
そしてニーナちゃんを抱っこしたままリビングに入ると、案の定ソファーで寛いでいたシェリー、母、父から盛大なツッコミを頂戴した。
「お、おおおお兄様!? ……じゃなくてお兄ちゃん!! その子、誰!? どっから拾ってきたの!? それとも……まさか誘拐!? ちょ……、見損なったわ!!」
「ヨ、ヨハン? お母さんが一緒について行ってあげるから自首しましょう! ね? 今ならまだ間に合うから! こういうのは早い方が裁判官の心象が良いのよ!?」
「ヨハン……、父さんの、父さんの首一つでなんとかお前だけの命は守ってやるから……、しかし、なんて馬鹿なことをしたんだ……」
おいこら、ニーナちゃんを見たマイファミリーから一斉に犯罪者扱いされたのだが? そんなに俺って信用されてないのだろうか?
「違うから! そういうのじゃないから! というか、みんなして犯罪者扱いすんなよ!! 保護したの、ほーご! わかる? みんなに相談もなく決めて悪いけど、この子もこれから一緒に住むことにしたからさ……って、あれ!?」
童貞の言葉に、静まり返るマイファミリー。
想定以上にドン引きされてらっしゃる……、やはり勢いだけでは無理があったな。
うちの家族なら乗り切れると思ったが、どうやら童貞の考えが甘すぎたようだ。
でもどうしよう?
ちゃんと魔王の娘って説明しないとダメなのだろうか? いや、それはそれでダメだろうな。だってホームステイする留学生が魔王の娘とか。どうやって説得しろというのか。
童貞が若干テンパってると、ニーナちゃんが――。
「ニーナです! 五さいです! これからよろしくおねがいします」
――大きな声で元気よく挨拶してくれるという。
やだ、なんて出来た子なのかしら。
もしかしてこの短時間で童貞に似てきたのかな?
これにはドン引きしていたマイファミリーも。
「か、可愛ぃぃぃいい!! えー、ニーナちゃんって言うの!? 私はシェリーよ! 今日からニーナちゃんのお姉ちゃんになるからね? 仲良くしようね? じゃあ、さっそくまずは一度”お姉ちゃん”って呼んでみよっか? ぷりーずこーるみー”お姉ちゃん”?」
「ちょっとシェリー、待ちなさい? 母さんの紹介が先よ! ニーナちゃんって言うのね! 私はヨハンの母のアマンダよ。今日からニーナちゃんのママでもあるからまずは一回”ママ”って言ってみましょうか? じゃあ、一緒に? さんはい、”ママ”?」
途端にギャーギャーと騒ぎ出す母と妹。
というか、ステレオで喋らないでほしい。
そして無理やり呼ばせんなよ。
しかし、まさか一気に二人の心をここまで掴むとは……、ニーナちゃん恐るべし。
「ヨハン、本当に大丈夫なのか?」
チョロい母と妹とは違い、父さんが真剣な目つきで聞いてきた。
父の威厳とでも言うのだろうか。久しぶりに感じる重いプレッシャー。さすがは父。
「問題ない……と思う。今はそれしか言えないけど、何かあれば責任を持って俺が対処するから信じてほしい。それにニーナちゃんってもう身寄りがないから、出来ればうちで家族のように接してあげたいんだ」
さすがに厳しい父とはいえ、犬猫のように元いた場所に戻してきなさいとは言わないはず……、え、言わないよね?
「わかった……、ヨハンが決めたことなら父さんも協力しよう。だが、何かあれば必ず相談するんだぞ? 厳しいことを言うこともあるかもしれないが、基本的にみんなヨハンの味方だからな?」
「……父さん」
くぅ……、父の背中は偉大なり。
なんだろう、実力では確実に俺の方が強いはずなのに、まったく父さんを越えれる気がしないんだが?
ファーストジョブが庭師で、セカンドジョブを必殺仕事人かなんかに設定しててもおかしくない威圧感である。
むしろ家族に隠れて暗殺稼業とかしてますかね? 黙々と枝切りハサミで、人の首を刈るみたいな?
「ニーナちゃん、それじゃあ今からお姉ちゃんと一緒に遊ぼっか? ほら、お姉ちゃんが抱っこしたげるからこっちおいでー」
「シェリー、そうはさせないわ! 母さんが先よ! ほらニーナちゃん、ママが抱っこしますよー? こっちおいでー」
既にニーナちゃんにメロメロな母と妹。
二人の母性本能ゲージが限界突破してらっしゃる。
そしてお互い押し合うようにして、童貞が抱っこしているニーナちゃんを奪おうとするが……。
「嫌! ニーナ、ヨッくんといっしょがいい!」
むぎゅっと童貞に抱きついてくるニーナちゃん。
くぅ……、思わず一生ニーナちゃんの肉奴隷でいいかもと思ってしまうほどの可愛さ。
ニーナちゃんに拒否られた二人は、ピシッとヒビが入ったかのように固まるという。
「二人とも、その辺にしておきなさい。ニーナちゃんが戸惑ってるのがわからないのか? それにうちへ来たばかりなんだ。まずは新しい環境に慣れてもらうのが一番だろうに」
おお、さすがは父さん。釘を刺すのが上手い。
「ありがとう父さん。じゃあ、俺はニーナちゃんを連れて特務隊メンバーにも紹介してくるよ」
そうしてリビングを後にして、特務隊用に設けた執務室へと向かう童貞。
二人の恨めしそうな視線が背中に刺さりまくった。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださいましてありがとうございます。
もう少しだけニーナちゃんのくだりが続きますm(__)m
お付き合いください。
ドラクロアの本格的再建は数話後となります。
明日も更新です。
よろしくどうぞ!




