3話 吸血鬼の真祖
紫髪の少女、バルバネス・ニーナルシアと出会った童貞。出会って早々、ダンジョンクリスタルのカツアゲに遭うという……。
「さぁ、早くダンジョンクリスタルを置いて行け!」
「おいていけー!」
ビシッとこちらに指を差すニーナルシアちゃん。
少し微笑ましいが、どうしたものか?
「えーと、ニーナルシアちゃんだっけ?」
「みんなはわたしのことをニーナとよぶ! だからおまえもニーナとよんでいい! それよりはやくダンジョンクリスタルをよこすのだー!」
うーん、マイペース……。
困ったな。
「これはお兄さんのダンジョンクリスタルだからニーナちゃんにはあげられないなぁ。それよりもどうしてニーナちゃんがここにいるのか、お兄さんに教えてくれないかな?」
「ええ、くれないの!? ガーン!?」
「姫様、お気を確かに!?」
童貞に断られると思ってなかったのか、なぜかショックを受けるニーナちゃん。
それにしてもこの子ほんと可愛いな。
腰まで伸びた艶のある紫髪に、思わず見惚れてしまうほどの綺麗な紅い瞳。間違いなく将来美人を約束されたであろうニーナちゃんの顔面クオリティは、童貞が今まで見た少女の中でも段違いに整っている。服は簡素な黒のワンピースを着ているが、それがまた良き。
あ、でも決して俺はロリコンでないよ?
断じて。誠に。本当に。
親戚のおじさんが久しぶりに会った姪っ子を見るような感覚に近いだけ。
しかし、このままニーナちゃんと話しても埒があかないな。まだ本人もショック受けて固まってるし。
ならば。
「あのー、そこの蝙蝠さん? 良かったらここにいる事情などお話いただけませんか? ダンジョンクリスタルは渡せませんが、理由によってはお力になれるかもしれません。こう見えてもアルファリアの貴族ですので」
「なっ、アルフェリアだと!?」
「ええ、そうですが……、何かありましたか?」
驚きで目を見開いたかと思えば、キッ……と、こちらを睨む蝙蝠さん。
「何かありましただと!? お前たちの国があんな化け物三人衆を解き放ったせいで我々はこうなったのではないか!!」
ん、どういうことだ? 化け物三人衆? そんな人外いたっけかな? 筋肉単騎しか思い浮かばないのだが?
「えーっと、すみません。まったくもって話が見えてこないのですが? もしよければ順を追って話してもらえますか?」
「惚けるな! アンガスターにルトナーク、そしてカリュウーグ! 貴様ら王国の刺客だろうが! 知らないとは言わせないぞ!! あいつらのせいで姫様はお父上と離ればなれとなることになったのだ!!」
……アンガスターにルトナークにカリュウーグ?
あーー、なるほどなるほど! やっと話が繋がった、そういうことか。
このお二人(?)さん、おそらく何らかの事情で時を超えて、この時代にやって来た説が濃厚である。
ん? ということはつまりニーナちゃんって、まじもんの魔王パドスの娘ってこと? さっきのアレ冗談じゃなかったのか!?
あれ、おかしいな……、こんなはずでは。
気軽に絡んだ少女が巨大ヤクザ組織、組長の一人娘だった、何故かそんなイメージが脳裏浮かぶ。
これって、かなりやらかしてしまったパターンなのではないだろうか?
ハートにクリティカルヒットするので、何を踏んだかは言わないが、急激に血の気が引いていく童貞。
「………………三百年経ちました」
思わずボソリと呟いてしまった。
「は? なんだ? 声が小さくて聞こえん! 貴様、今なんて言ったのだ!?」
蝙蝠さんがイラついてらっしゃる。
これ以上怒らせないよう、それとなくお伝えしなければ……。
「…………魔王パドスがお亡くなりになられて三百年が経ちました」
「だから……何っん……え、今なんて?」
「魔王パドスがお亡くなりになられて既に三百年が経ちました」
童貞の言葉に固まるご両人。
まだ幼いニーナちゃんにとっては残酷な現実となるが、遅かれ早かれわかることである。
であるならば。
隠し通すよりも、このタイミングで伝えた方が得策と判断した童貞。
二人の反応を見た上で、今後の対応を……。
そんな甘いことを考えていた時期がありました。
――突然の決壊。
「ゔ、ゔ、う゛わぁぁぁぁぁぁああんん!! おどうざまがしんじゃったぁぁぁぁ!!」
ニーナちゃんがガチ泣きするという。
「ひ、姫様!! お、お気を確かに!!」
「う゛わぁぁぁぁぁぁあああああん!!」
やばいやばいやばいやばいやばい……。
完全に想定外!!
極大の地雷を踏み抜いてしまった!!
過去かつてないほどテンパってるんだけど!?
「お、おい、ニンゲン! お、お前が姫様を泣かしたんだからな! なんとかしろ!」
「いや、なんとかって……」
え、どうしよう!? ルナ氏なら……、ルナ氏ならどうする? 考えろ、考えるんだ、俺よ!!
「う゛わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!」
なお殊更と大きくなるニーナちゃんの泣き声。
二人のタイムテーブルはわからないが、それでも肉親が死んでいるとわかったのだ。
そりゃ悲しいさ。
なぜ話してしまったのか、数秒前の自分を殴ってやりたい。
どうすればいい?
どうすれば泣き止んでくれる?
このままだと童貞の良心がメルトダウンしてしまう!!
焦りに焦る俺だったが、ふとニーナちゃんが泣いてる姿を見て、なぜか思い出す幼き頃の自分。
かつての自分がニーナちゃんと被って見えるのだ。
状況や境遇は違えど、悲しいことがあると俺もあんな風にギャン泣きしてたっけ? 大泣きする度にフィリスに頭撫でてもらってたな。
そんなことを考えてたら自然と身体が動いていた。
片膝をついて、大きく両手を広げる童貞。
次いで。
「ニーナちゃん、おいで?」
そんな童貞の声に反応するかのように、こちらへと小走りに近付いてきて、そのまま俺の胸の中へと飛び込んでくるニーナちゃん。
「う゛わぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!」
「悲しいかったよね、ごめんね。ほんとごめん。もう大丈夫だから。お兄ちゃんがニーナちゃんを守ってあげるから心配しないで」
泣いてるニーナちゃんをよいしょと、抱き上げるとそのまま優しく背中を摩る。
子供の頃、俺が欲しかったもの……。
それは、"ぬくもり"。
きっと誰かに触れて安心したかったんだろうな。
それからしばらく、俺はニーナちゃんを抱っこしながら泣き止むのを待つことにした。
◆◇◆
時間にして、三十分ほどだろうか。
まだ若干の嗚咽が残っているが、ニーナちゃんとコミュニケーションを取れるほどまで落ち着かせた童貞。
正直、褒めてもらいたい気分だ。
子供を成していない、独身、しかも息子さん新品未開封の俺がここまで頑張ったのだ。
リアム君は我関せずで、あのギャン泣きの嵐で寝るという離れ技をかましてくれるし。
ほんと世のお父さん、お母さんの苦労が一気に身に染みた。まじであんたら神だわ。
「ねぇねぇ、おにいちゃんって、なまえなんていうの?」
泣き腫らした顔でこちらに問い掛けてくるニーナちゃん。
「ヨハンだよ。いい名前でしょ?」
ニコッと笑い、そう返す。
「えーー、へんだよー! ヨハンはへんー、えへへ」
おうふ、名前をディスられたぜ……、まぁ、これも愛嬌、愛嬌。なぜかニーナちゃんも楽しく笑ってるし結果オーライ。
「でもそれがお兄ちゃんの名前だから変えられないよー。じゃあ、ニーナちゃんが呼びやすいあだ名付けてくれる?」
「うん!!」
正直、子供の考えるあだ名だ。禁止ワード以外の言葉なら笑って許す覚悟はある。
さあ、なんとでも罵るが良い! 童貞はそれを笑いに変えてやろうじゃないか!
「うーんとね、じゃあね…………、ヨッくん!」
「お、おぉ……、うん?」
えぇー……、何この子!? 意外とまとも!? めっちゃええ子やん!?
うんちやちんちんとか、そんなこと考えて俺が馬鹿みたいじゃないか!!
子供はうんちやちんちんが好きという、俺の偏見を見事に吹き飛ばしてくれた。
え、やだ、なんかちょっと泣きそうなんだけど?
「ヨッくん、いやだった?」
しょぼーんとした感じで聞いてくるニーナちゃん。それすら可愛く思えて童貞の庇護欲が限界突破しそうなんだが?
「全っっ然、嫌じゃないよ!! むしろ素敵なあだ名を付けてくれてありがとう! ヨッくんはとっても嬉しいよ!」
「ほんと! やったー! じゃあ、これからヨッくんね!」
ニーナちゃんのご機嫌が戻ったところで、これからどうしようかと真剣に悩む童貞。
今更ながら、取り返しのつかない部分まで踏み込んでしまったと絶賛後悔中だという。
仮にアウストラに戻って、どこかの施設に預けたとしても、ニーナちゃんの素性がバレて一気に大問題に発展する未来しか見えない。
助けた少女が断頭台に上がるという悲しきバッドエンドなんて見たくはない。
リスクは高いがやはりここは童貞宅で保護せざるを得ないか……。
一人黙々と考えていると、"キュルルルー"と可愛い音がニーナちゃんのお腹から聞こえてくる。
「あれ、ニーナちゃんおなか空いたのかな?」
「うん……、ニーナおなかすいたー」
両手でお腹を抑えるニーナちゃん。
くっ……、尊い!! 尊すぎて逆に辛い!!
「サンドイッチあるけど食べる?」
「たべるー!! ニーナ、サンドイッチだいすきー!!」
満面の笑みを浮かべるニーナちゃん。
童貞の差し出したサンドイッチを受け取ると、真ん中で半分に割り……。
「はい、メティスもいっしょにたべよ?」
なんと蝙蝠さんに差し出すではないか!
これには我々も。
「ひ、姫様ー!?」「ニーナちゃん!?」
ニーナちゃんの優しさに涙するという。
ぐぅぅぅーー、魔王の娘なのに、なんて良い娘なんだぁぁ!!
もうね、これはもうね、ニーナちゃんが成人するまで、童貞が心血を注いで育てる所存。
仮に腹黒イケメンが何か言おうものなら、家族総出で海外逃亡することまで視野に入れている。しかも幸いなことに、資金はたんまりとあるのだ。
なんとかなる、そんな言葉が童貞の脳裏に浮かんだ時だった。
サンドイッチを食べ終わり、"けふっ"と可愛くゲップをするニーナちゃん。
すると。
「ねぇ、ヨッくん? ニーナ、のみものものみたいなー」
おっと、ニーナちゃんのあまりの可愛さにドリンクを出すの忘れてた。失敗、失敗。
「ニーナちゃん、気が付かなくてごめん。喉乾いたよね? お茶があるから……」
――カプッ。
「……そうそう、カプッと……、って……、え? あれ? ちょ……ちょっとニーナちゃん!?」
なぜか童貞の首元に噛みつき、ちゅーちゅーと何かを吸っているニーナちゃん。
あれ、なんだろう、いきなり濃厚な地雷臭が漂ってきたんだけど?
これはもしや……。
「おい、ニンゲン! 光栄に思うんだな! 姫様は我々、吸血鬼一族の頂点に立つ、唯一の吸血鬼の真祖であらせられる! そんな尊き御方に吸血されるのだ! ありがたく思え!!」
蝙蝠さんがそんなことを語ってくれるが、さすがに"ははー"とはならんて!!
だって、現在進行形で血を吸われてますからね!!
というか、ちょっとニーナちゃんさっきから吸い過ぎじゃないの!?
致死量! 人間には致死量ってのがあるからぁぁぁ!!
ぐぅぅうーー、やっぱりニーナちゃんって、正真正銘、魔王の娘やんけぇぇぇ!!
地雷踏み抜いたぁぁぁぁあ!!
そんな童貞の心の慟哭が響くのだった。
【あとがき】
今日も異世界えぶりでいを読んでいただきましてありがとうございます。
はい、もう、ツッコミどころ満載ですけど、とりあえず連れて帰ろうかと。
童貞シングルファーザー編強制スタートです。
明日も更新です。
よろしくどうぞ!
ヨハン「拾っちゃった♡」




