9話 名誉騎士
フィリスを救出してから十日が経った。
あれからホールキン氏が瘴気を回収してくれたおかげで、街中に出現したモンスターも増殖することなく、騎士団や冒険者たちの手によって全て討伐された。
モンスターに破壊された建物なども既に復興が始っており、そこらかしこでトンテンカンテンと木槌の音が小気味良く鳴り響いている。
徐々に街にも活気が戻りつつあるが、肝心のダンジョンが現在も調査中のため、街の経済はまだしばらく停滞することにだろう。
といっても、ダンジョン内の魔物の暴走はホールキン氏が処理をしていたので、封鎖解除の日も近いと思う。
そんな童貞たちはというと、チンパン王子の件もあり未だ帰国出来ずにいた。
あの後、痩せ細ったチンパン王子とねずみのおっさんを王城へと連れていくと、イケオジがアメコミかよと思うくらい顎を外して驚いていた。
まぁ、死んだと思っていた王子たちが生きていたのだ、そりゃ驚くわな。
しかし、それからが大変だった。
仮にも行方不明だった一国の王子を助け出したのだ。そりゃあ鬼のような事情聴取もあるに決まってるよね?
とりあえずみんなと事前に決めておいた言い訳をペラペラと語り始める童貞。
内容としては以下の通りとなる。
まずダンジョンで友人を探索中に転移トラップに引っ掛かってしまい、最下層まで飛ばされてしまった。
そしたら同じくエーテル転移魔法陣で転移したであろう王子たちを発見。
近くにダンジョンコアがあったので見てみると、中央に描かれていた魔法陣から大量の瘴気が噴出していた。
これはまずいと思い、それを削除するとあら不思議。
漏れていた瘴気の流出も止まり、変化した階層も元に戻ったではないか。
童貞たちは、階層変化時に発生した魔力の本流に巻き込まれ、気が付いたら七階層に転移して、あのデカ鳥を倒したという流れとした。
矛盾なくイケオジに説明するために、この言い訳にしたわけだが、よくよく考えると俺一人でなんという手柄を立ててんだよ、おい。
ちなみにチンパン王子とねずみのおっさんは、二人とも王城の地下にある牢屋へと投獄されている。ナルーア牢獄が復旧次第あちらへ移送されるようだ。
しかもどうやら黒瘴鬼に吸収されていた時の記憶が飛んでるらしい。
ただ身体が恐怖を覚えているのか、会いに行った童貞を見るやいなや、牢屋の壁際まで逃げてしまい酷く怯えるという……。
そりゃあさ、黒瘴鬼ごと叩っ斬ったこっちも悪いけど、命の恩人に対してその反応は失礼だと思うよ?
しかし、そのせいか二人は取り調べに素直に応じてくれることになった。
二人から語られることになる、ホールキン氏の殺害や冒険者ギルド上層部との癒着、そしてダンジョンの私物化などの犯罪行為。
それによってチンパン王子は廃嫡の上、無期懲役の実刑判決。ねずみのおっさんも爵位剥奪に無期懲役という厳しい判決が下った。これから終わることのない畑仕事が二人を待っているだろう。
ちなみにチンパンの取り巻き大臣や、冒険者ギルド上層部の連中も刑罰の違いはあれど同じような実刑をくらったと言う……、もはやご愁傷様としか。
それに比べイケオジって、脳みそに漂白剤でも撒かれたんかって思うほどホワイトだよな。
ずっと支えてきた第一王子も次期ジャスバール国王に内定となったし、今回の件で彼の政治基盤がより強固なものになったと思う。
やっぱり悪いことはするもんじゃないよなぁ。
そんなことに想いを馳せて王城の部屋から窓の外を眺めていると、コンコンと部屋の扉を軽くノックされた。
応じて返事をすると、入ってきたのは綺麗なドレスに身を包んだ我が麗しきルナ氏であった。
次いで。
「隊長? もうそろそろ時間です。早くロビーに向かわないと式典に間に合いませんよ?」
そう、そうなのだ……。
なんと今日は、国王ライオネスが謁見の間にて、我々特務隊のために式典を開いてくれる日なのだ。
ほんとなんて迷惑な。
以前のようにイケオジ経由でご褒美くれるだけで良かったのに……。
童貞はその辺りの理解度は誰よりも高いと自負するのに、やはりお国のお偉いさんは形式上だけでもやりたいと見える。
なので童貞も渋々トゥインクルすることになった。
「わかりました。それでは向かいましょうか。ところでルナさん、そのドレスも似合いますね? 以前着ていたドレスも似合ってましたが、今日は格段と綺麗です」
「えっ!? そ、そうですか!?」
本日のルナ氏はがっつり胸元の開いた水色のドレス。髪も巻いて下ろしているので、どこからどう見てもお姫様にしか見えない。
そろそろまじめに脳内メモリー永久保存スキルが欲しい今日この頃。すぐに練度マックスにしちゃう。
「ほんとですか!? ちょっと胸元が開きすぎて恥ずかしかったですけど、隊長にそう言ってもらえて嬉しいです!」
ニッコリと笑うルナ氏。
やばい、なにその照れた顔? 超絶可愛いんだけど? え、童貞をキュン死させる気満々じゃん。
いや、これもう既に少しクラッときてるな。顎先をアッパーが掠めた感じ。きっと直撃しようものなら間違いなく死ぬと思う。……不整脈で。
とりあえず童貞がキュン死する前に一言残しておこうと思う。
ルナ氏? ――ナイスおっぱい!!!!
◆◇◆
そして面々の待つロビーへと到着。
既に全員正装にトゥインクルしており童貞の到着を待っていた。
すると。
「おーそーい! あんた何やってたのよ! もうすぐ式典始まるわよ!」
本日も早々にガ◯バスターポーズでツンをかましてくれるローズリリイ。
前回同様に真っ赤なドレスに身を包み、髪はケバブで巻いたんですかと聞きたくなるようなカール具合。
しかし、逆にこれが普段よりも大人っぽくて童貞的にはどストライクだという。
きっとお嬢様の専属メイド隊の仕業だろう。良い仕事しやがるぜ。
「すみません、リリイさん。少し考え事してたら遅くなってしまいました。ところで今日はとても大人っぽいですね? 見違えました」
「そ、そう? あまり良い色のドレスが見当たらなかったから、これにしたけどヨハンがそう思うのなら良しとするわ!」
ふと、幻聴で”赤って200色あんねん”そんな声が聞こえたような気がした。
うん、きっと気のせい、気のせい。
「皆様、お揃いのようですね。それでは今から謁見の間へと案内させていただきます」
そばに居た上級使用人がそう語ると。ペコリと頭を下げて先へと進む。
あーあー、始まっちゃうよ。もうすでに緊張で吐きそうだ。なんたってこんなことに……。
何度も言うが、お偉いさんや大勢の人前に立つのすっごく苦手なのよ。むしろ目立ちたくないんです。
そして両開きの扉の前に到着すると、そのままの流れで部屋の中へと招き入れられた。
すると。
――バチバチバチバチバチ!!!!
童貞の姿が見えたのか、両サイドに並び立つ式典出席者の皆様方より、万雷の拍手を頂戴する運びとなった。
つーか、何これ? めっちゃ人多いな!? そんなにジロジロと童貞を見ないでいただきたい!
おそらく部屋の中には、ジャスバールのお偉いさんが二百人程度はいるかと思われる。
しかも玉座へと伸びる中央の赤絨毯を挟んで、椅子が用意されているのにも関わらずスタンディングオベーションで童貞たちを待ち構えているという……。
え、これを進めと?
しかし、さすがにこれ以上拍手をしているお偉いさん方を待たせるわけにはいかない。
く、これはもう行くしかない……、行くしかないんだ、羞恥心を捨てろよ、俺!!
早足で進んでしれっと王様の前で跪けば、あとは床と睨めっこするだけだ。
大丈夫、そう大丈夫だ、それならば大して緊張することもない。
意を決して一歩踏み出すと、今度は待ってましたと言わんばかりにトランペットのファンファーレが鳴り響き、それに続いてオーケストラによる盛大な演奏が始まった。
ああ、もう殺せよ、誰か童貞を殺してくれ!!
入場曲付きとか勘弁してほしい!!
白目になりながらも、なんとか赤絨毯を歩いて国王の前で跪く我々一同。
演奏がピタリと止むと、国王が語り出した。
「ヨハン男爵、面をあげてくれぬか? 我が国の恩人にそう頭を下げられては我らも困る」
応じて頭を上げる童貞。
秒で床との睨めっこも終わるという。
「は、はい!」
思わず声が上ずってしまった。
「ふはははは、ヨハン男爵? そう緊張なされるな。何もとって食おうというわけではない。我らは此度の礼を貴殿にしたいだけだ。そうだな、ブリスタン?」
すると国王の傍に立っていたイケオジが。
「は! 此度のヨハン男爵の働き、まさに英雄の所業と呼べるものございます。灼狼王の討伐に始まり、ギリアム様の救出及び瘴気流出の停止、さらにはナルーア牢獄に現れた腐死鳥王の討伐と、これだけの功績を残した者が過去に居たでしょうか?」
イケオジの話に、周囲もどよめき立つ。
むしろ聞いてた本人もビックリである。思いっきり他人事のように感じるのはなぜだろう?
「その通りだ、ブリスタン。我が息子ギリアムの過ちから始まり、多くの混乱を招くことになってしまった今回の事態。一国の主人としてまずは皆に謝罪したい。申し訳なかった」
突然の国王の謝罪に会場は静まり返る。
王様が謝るとか前代未聞なのでは?
「過去にない未曾有な災害を引き起こしたこと、余も非常に重く受け止めておる。よって当事者たちには既に厳しい処罰を与えた」
なるほど、国王が絡んでたからチンパン王子たちの判決が早かったのか、納得。
「しかし、国がそんな苦境に立つ中、ヨハン男爵は他国の使者にも関わらず、見事この騒動を終息に導いてくれた」
なぜか再び会場内がどよめき立つ。
なんか話の中心がこんな冴えない男でほんと申し訳ない。ラウルのような顔面偏差値が童貞にもあれば……。
「よって、ヨハン男爵には我が国の感謝の意として宝物、そして名誉騎士の称号【ロードヴァンガード】の位を授けることにする」
国王の言葉におおーっと歓声が湧いた!
「なんと……、他国の人間にそのような栄誉ある称号を与えるなど……」
「しかし、彼奴の功績を考えれば、うむむ……」
「うちの騎士団の連中は何をしておったのだ!」
「ロードヴァンガードの称号など獄魔獣王を倒した勇者アレシア以来の偉業だぞ!?」
一部のお偉さんたちが喚いていたが、そのロードなんちゃらがよくわからん。童貞としては何ソレ状態。
「ヨハン男爵? ロードヴァンガードの称号を持つ者は、我が国において侯爵と同等の発言権を得ることになる。それが他国の貴族であってもだ」
まじかよ……、急に眩暈が。
侯爵と同等って……、そんな物騒なロードなんちゃらの称号よりも、俺は童貞を卒業出来るバージンロードを用意して欲しかった。
童貞がピクピクと表情を引き攣らせていると、後ろからツンデレお嬢様にグイグイっと袖を引っ張られた。
……どうやら返事をしろとのこと。
「あ、ありがたく拝命させていただきます」
「うむ、余はアルフェリア王国と今後も良き隣人として付き合っていきたいと考えておる。特にヨハン男爵が受け持つドラクロア領は、未開拓の領地。我が国からも支援をさせてもらう予定だ。その代わり、また有事があった際は頼らせてもらうぞ、ヨハン男爵?」
「しょ、承知しました!」
そう語ると悪い笑みを浮かべる国王ライオネス。
ああ……、なんか最後の言質を取りたいがために、変な称号を与えられた気がしてならない。
もしかして、これはアレだろうか?
……してやられた?
こうしていつものように白い灰となりながらも、なんとか式典を乗り切った童貞。
なんだかんだあったが、これで心置きなくアルフェリアへと帰国が出来る。
でも今回の件を腹黒イケメンになんて報告すれば……。
そんな不安が頭を過ぎる童貞だった。
ちなみにもらった宝物は金貨三千枚という巨額なものだった。そろそろ金銭感覚がバグりそうだ。
イケオジから受け取った金板が余計に使い難くなるという……。
とりあえず国に帰ったら少し休暇をもらってキャバクラに行こう。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございます!
次回はエピローグですが、少々書き直しもあり、更新はしばしお待ちくださいm(_ _)mスンマセン
実はフルで書き直してます笑
次の七章は領地開拓編の予定をしております。
作者の気が変わらなければ。
またゆっくりお付き合いいただけたら幸いです。
よろしくどうぞ!




