7話 紅薔薇の輪舞曲 その1
「ねぇ、そこの貴方? 私と勝負しなさい!」
いきなり訓練場へと乱入してきた赤髪の美少女。
美少女からのデートのお誘いなら大歓迎ではあるが、さすがにバトルのお誘いはいただけない。
しかも相手はお偉いさんの孫である。万が一にも怪我などさせたらリアルに俺の首が飛ぶだろう。
いの一番に浮かんだ思いはただ一つ。
マジどうやって断ろう、である。
しかし人というのは、完全に想定外のことに直面すると、逆に何も浮かんでこないものだ。
焦りに焦る。
これがベッドの上であれば……、なんていうセクシャルな妄想へと現実逃避しかけるが、返事をしない俺に苛立ちを募らせた彼女の一言であっという間に引き戻された。
「聞いているの? 返事をしなさい!」
目尻を上げて怒った顔まで可愛いとは。
赤髪ツンデレ恐るべし。
その顔面クオリティプライスレス。
とはいえこのまま何も答えないのは非常にまずい。
既に先方はご立腹なのだ。
まさかのマイナスからのスタート。
どうすれば回避できる? 一体どうすれば……。
何も浮かばないまま一人テンパっていると、意外な人物が俺に助け舟を出してくれた。
第九隊の隊長であるスピドラだ。
「あ、あの、ローズリリイ様? 少しよろしいでしょうか?」
「何?」
ムッとした表情でそう一言返す赤髪ツンデレ。
いくら脳筋とは言え、やはり絶対的な権力には弱い様子。これにはスピドラもたじたじである。
「か、彼なんですが、実は衛兵隊の兵士ではなくてですね、まだ新人の警備兵なんですよ」
「それで?」
うわぁ、対応が超塩ぉ。
頼む、スピドラさん! 俺にはもうあんたしかいないんだ! 頑張ってくれ!!
「えー……そのですね、彼は新人ということもあり、万が一にもローズリリイ様にお怪我をさせてしまっても大変申し訳ないというか、その」
「はっきりしないわね! 貴方は私が新人如きに後れを取って怪我でもすると思って?」
「い、いえ、そんなことは……」
「じゃあ、何も問題ないわね」
「はい、問題ありません……」
おうふ、スピドラさん、あんた瞬殺じゃないか。もうちょっと頑張ってくれよぉ。
すると赤髪ツンデレの瞳が完全に俺をロックオン。
はぁ……、これ以上は無理だな。
黙っていても彼女の導火線の火が強くなるだけだ。
ええい、ままよ。
「失礼しました。突然のことで我を失っておりました。ところでさぞ名のある方とお見受けいたしますが、失礼ですがお名前をお伺いしても?」
奴が塩対応ならば、俺も腫れ物に触るが如く対応してやろう。心のATフィールド全開である。
「ふーん、意外と口は回るのね。そうね、一応自己紹介はしておくわ。私はアンガスター侯爵家第三子アンガスター・ローズリリイよ」
おうふ、侯爵家っすか。
ガチの大貴族じゃん。
もう地雷どころの話ではない。
剥き出しのプルトニウムを目の前に置かれている気分である。もはや放射線だけでも死ねる。
「ローズリリイ様ですね。私は王国警邏隊、警備隊部門所属のヨハンと申します。お見知りおきを」
「ヨハンね、わかったわ。じゃあ自己紹介はこれで終わりね。さっさと勝負をしましょう」
もうね、ローズリリイの目がギッラギラ。
ほんとなんなのこの子?
どんだけ戦いたいの? 先祖がバーサーカーなの?
これがセックスなら大歓迎なのになぁ!!(血涙)
「ローズリリイ様、少々お待ちください。そもそも何故、私と戦いたいのでしょうか? いきなり試合と言われましても、さすがに侯爵令嬢の貴女様と剣を交えることはお断りせざるを得ません。万が一にも、怪我などさせてしまえば、私の細首などあっという間に飛んでしまいます」
「そんなこと心配いらないわ。私が怪我をするなんてあり得ないから。仮に私が怪我をしたとしても罪には問わないと約束するわ。これでいいわね? じゃ、構えなさい」
俺は、俺は戦う理由が知りたいんだよぉぉ!!
なんで……、なんで俺なの!?
完全にテンパる俺をよそに、ローズリリイは木剣を中段に構えた。
くそぅ、やるしかないのか……。
仕方なし、腹を括ろう。
もうどーにでもなぁーれー。
「いくわよ!!」
刹那、ローズリリイの姿が消えた。
視界の隅に捉えたと思ったら、俺の胴を目掛けて横薙ぎを放ってきていた。
「まじかよっ!?」
なんとかそれを木剣で受け止めるが、今度は真下からの斬り上げ。ギリギリ頭を引いて避けるが、木剣が俺の頬を掠めた。――あっぶねぇ!?
たまらずバックステップで距離を取るが、ローズリリイも離れずついてくる。
この赤髪ツンデレ……、めちゃくちゃ速い!!
こっちも攻撃して牽制しないと、あっという間にボッコボコにされる。
さすがに女子の顔を狙うのは気が引けるので、木剣を持っている右手を狙って小手を打ったのだが、俺の剣は見事に空を切った。
次の瞬間、頬に重たい衝撃を受ける。
「――ぶへぇ!」
どうやらローズリリイの裏拳を喰らったようだ。
まじでクッソ痛い、女子のパンチとは思えない威力。
だがこれで彼女の先祖二種が確定した。
バーサーカーおよびジャイアントゴリラだ。
というかさ、俺の剣をくるりと踊るように避けて、さらに裏拳を打ち込むってバトルセンス高すぎひん?
「へぇー、今ので倒れないんだ」
ローズリリイがそう関心しながら追撃と言わんばかりに、木剣で突きを連続で放ってきた。
それをギリギリ、本当に紙一重で躱していく俺氏。
「ちょ、まっ……、この、話を」
まるでサイコパスのような笑みを浮かべるローズリリイ。
ダメだ、もうこいつ目が逝っちゃってる。
もしかして俺を殺す気か!?
「……反応だけは大したものね。じゃあ、これは?」
ローズリリイが繰り出した袈裟斬りを木剣で受け止めると、彼女は手に持っていた木剣を手放し、両手を合わせるようしてに掌底を放ってきた。
「アンガスター流魔闘術、―― 閃華魔功掌!!」
やっべぇ、これは躱せない。
「――ぐえぇ!?」
そして運の悪いことに、それは俺の土手っ腹にクリティカルヒット!
ズドンッという鈍く重い音がすると、着ていたレザーアーマーは弾け飛び、俺も十メートルほど地面を転がるはめに。
いってぇ……、今何された? わけわかんねぇ。気付いたら地面に転がってた。
つーか、また床ペロかよ。勘弁してくれ。
なんとか立ちあがろうとするが。
「――がはっ!?」
腹に激痛が走り吐血する。
どうやら内臓を痛めたらしい。予想外の大ダメージ。
思わず片膝を突く。
……まじかよ、あの女。なんかわからんが必殺技っぽいの使いやがった。初見であのゼロ距離射程の技は反則じゃね? 躱せるはずがないだろ?
ほんとバカなの? ねえ、バカなの?
とりあえず回復しとかないとまずいな。あの女何してくるかわかんねぇし。……ヒール、ヒール、ヒール、ヒール。
腹を押さえながら回復魔法を連打すると、若干痛みが和らいできた。回復魔法があって本当に助かった。ナタリーさん、大好き!
「あら、今の技を受けて立ち上がるなんてタフね? でも無理しない方がいいわよ? もうまともに動けないでしょ? お爺様がお褒めになるから、一体どれほどの者かと思ったけど案外大したことないのね」
あー、くっそ。マジでこの女ムカつくわ。
さすがにカチンときた。
女子に見下されるのは全然アリなんでいいんだが、大した理由もなく戦闘を仕掛けてきたのは許せない。結果、こっちは大ダメージだぞ?
なんとしてもギャフンと言わせてやりたい。
しかしそうは言っても技も能力も相手の方が断然上である。このままでは返り討ちにされて終わりだ。
だったら……。
だったら『パワーアップ』してやろうじゃないか!!
初見殺しには初見殺しを。
向こうが必殺技を使ってくるなら、こっちはチート使ってやんよ!!
ただ一つ懸念があるとすれば、練度を【5】にしただけでバキバキの筋肉痛になったのだ。さすがに安易に倍プッシュとはいかない。
なので、とりあえずオール3づつ身体強化にSPを振り分けることにした。
そして流派スキルのみ倍プッシュ!
練度【10】の護身術がどの程度強いかなんてわからないが、やらないよりはマシだろう。武術には武術を!
その結果。
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・名前:ヨハン
・種族:ヒューマン
・年齢:16
・職業:見習い兵士
・LV:5
・SP:427
〔発現スキル一覧〕
《アクティブ身体強化一覧》
・筋力強化 練度【8】 UP!
・体力強化 練度【9】 UP!
・反応強化 練度【8】 UP!
・才覚強化 練度【8】 UP!
・魔力強化 練度【8】 UP!
・精神強化 練度【8】 UP!
《流派スキル一覧》
☆アルフェリア王国流護身術
・護身剣術 練度【10】★ UP!
・護身体術 練度【10】★ UP!
《魔法系スキル一覧》
・初級回復魔法 練度【5】
《魔法補助系スキル一覧》
・体内魔力操作 練度【5】
・術式制御 練度【5】
《加護一覧》
・ガイア―ドの祝福
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流派スキルを倍プッシュしたら、白い文字列がグレー表示に変わり、★マークまで付いた。
どうやら流派スキルはこれでカンストしたようだ。
どんどん流れ込んでくる護身術の極意。
これ思いのほか使えるかもしれん。自分が達人の域に達したのがよくわかる。
基礎能力も大事だが、その力を上手く活用できるようになる武術っていうのはもっと大事。
今の俺であればハート様程度であれば、微動だにせずに投げ飛ばすことも出来るだろう。
勝てる、これならきっと勝てるよ、ラ◯ァ!
あの女をアヘらすことだって。
「ふふふ……」
ローズリリイがムカつき過ぎて逆に笑ってしまう。
さぁて、準備は整った。どう料理してやろう?
そうだな……、ここはイタリア料理っぽく。
『ローズリリイのアヘ顔ダブルピース添え』
これに決定。
俺の反撃が始まった!
【あとがき】
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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