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異世界えぶりでい ―王国兵士の成り上がり―  作者: バージョンF
六章 どうもジャスバールの英雄ヨハンです
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7話 アンデッドデスマーチ




 ――ところ変わって七階層。


 ナルーア牢獄の医務室にて。


「ルフレノ、そこの布と包帯を取って! あと、消毒液も足りないから新しいのをお願い!」


「ほい、フィリス! でも包帯のストックも少なくなってきたから出来るだけ節約しながら使ってね」


「そんなこと言わないの! みんな酷い怪我してるんだから!」


 そう語り、私はベッドの上で横たわる冒険者の止血を始めた。体中の至るところをモンスターに嚙み千切られて、酷いところだと骨まで見える。


「もう大丈夫ですよ、安心してくださいね! 今から応急処置しますから、少し我慢してください」


 応急処置といっても、患部を消毒して止血することくらいしか私には出来ない。


 この三日間ずっと魔力を酷使してきたせいで、肝心な回復魔法がもう使えないのだ。


 それは私だけではなく、ナルーア牢獄に在勤している刑務医官の先生たちも同じ。


 既にみんなが限界を迎えている。


 しかし塀の外では、万を超えるアンデッドたちがナルーア牢獄を取り囲んでおり、一時的に戦闘許可の下りた囚人たちと、私たちと同じように避難してきた冒険者たちが今もなお戦っている。


 というのも八階層のアンデッドが大量増殖して魔物の暴走(スタンピード)を起こしたのだ。


 しかも先の地震でダンジョン構造が変化したせいで、八階層に続く下り階段がナルーア牢獄の近くに移動してしまい、運悪くこの魔物の暴走(スタンピード)に巻き込まれてしまった。


 そのせいで死骸人(ゾンビ)骨骸屯(スケルトン)、それに妖骸士(ワイト)などといった、多種多様なアンデッドが雲霞(うんか)のごとくナルーア牢獄まで押し寄せてきたのだ。


 日中ならまだしも、みんなが寝静まった深夜に起きた出来事だったので、モンスターの対応が遅れてしまったことも痛い。


 このアンデッドたちのせいで、私たちはもう助けを呼びに地上を目指すことすら出来ない。


 ナルーア牢獄に籠城して助けがくるのを待つしかないのだが、アンデッドたちは数の多さを利用して人垣を作り、この堅固で高い塀を乗り越えてくるのだ。


 今はまだなんとか対処出来ているが、おそらくそれも時間の問題だと思う。


 このまま助けがこなければ、私もきっと……。


 悪い考えばかりが脳裏に浮かぶが、それを振り払うようにして必死に処置を続けていく。


 そんな折。

 

「フィリス、あれ見て! 廊下どころか、中庭まで患者さんで溢れてる! こんなのもう私たちだけじゃ無理だよ〜!!」


 ルフレノが涙目になりながらそう叫ぶ。


 視線を窓の外に向けると、視界に入るのは地べたに横たわる血塗れの人たち。


 あのまま放置していたら間違いなく助からない。


「ルフレノ、泣き言は言わないの! 先生? 私、外にいる人たちの手当てにまわります! ルフレノはそのまま先生のサポートお願いね?」


「すまんな、フィリス君。難しい状況だが、みんなをよろしく頼む」


「えっ!? ちょ、ちょっとフィリスー!?」


 ルフレノの声を後に、私は医務室を出て中庭へと駆け出して行く。


 そして息も切れ切れに外に出ると、視線の先には地面に横たわる冒険者の姿が。


「あの、大丈夫ですか!?」


 私が声を掛けると、よほど怖い目にあったのか、彼は怯え切っていた。


「うぁ……、た、たすけて……くれ……、ゾンビが、ゾンビがくる……うぁぁぁぁぁああ!!」


「もう大丈夫ですよ? 大丈夫ですから落ち着いてください! 今、手当てをしますから!」


 そう語り、私は出血している部分の応急処置をおこなっていく。ふと、彼の首元にある冒険者プレートが視界に入った。


 私と同じシルバーだった。


 モンスターと戦い慣れているシルバーですら、ここまで恐怖するのだ。一体、どれほどの数のアンデッドと戦ったのだろうか。


 充分な手当てが出来ず、彼らに対して申し訳ない気持ちで一杯となる。


 それからしばらく倒れている冒険者たちの手当てを続けていると、空から奇妙な鳴き声が聞こえてきた。



「KYUUIIII、KYUUIIIIーー」



 私は咄嗟に意識を頭上に向けると、目に映ったのは身体の半分ほどが腐敗している巨大な怪鳥。


 両翼を雄大に広げて、ダンジョンの中を飛んでいた。


 次いで聞こえてきたのは、ユニークモンスターの襲来を告げる荒々しい声だった。


腐死鳥王(ラッグリンクス)だぁぁあーー!! た、退避ー!! 退避しろぉーー!!」


 戦場である塀の上から、怒号と悲鳴が入り混じった声が響き渡る。


 そして再び私たちの頭上を飛び回る腐死鳥王(ラッグリンクス)


 全長70メートルにも及ぶ巨大な翼が、地面を影で覆い尽くした。


「KYUIー、KYUIーー!!」


 上空で腐死鳥王(ラッグリンクス)が大きく羽ばたく!!


 すると物凄い風圧が地上へと降り注いできた!!


 私は吹き飛ばされないように、近くにあった建物の柱へとしがみつく。


 しかし塀の上で戦っていた冒険者やアンデッドたちは、風に煽られた紙クズのように舞い上がり、次々と地上へと落下していった。


 悲鳴とともに消えていく冒険者の声。


「嘘……、嘘だよね?」


 私は目の前の光景が信じられず、思わずそんな言葉が口から漏れてしまう。


 なぜなら、あの怪鳥がたった二、三度羽ばたいただけで、塀の上の防衛ラインがいとも容易く崩壊してしまったからだ。


 さらに私たちに追い討ちをかけるようして……。



 ――ズウゥゥゥーーーン!!



 またもや階層内で大きな地震が起こったのだ!


「きゃぁぁぁああ!?」


 あまりの恐怖で私は立っていられず、その場にへたり込む。


 そして頭を抱えながら震えること数秒。


 地震は収まったが、今度は正門の方から怒号のような声が上がった。


息吹(ブレス)だ! 腐死鳥王(ラッグリンクス)息吹(ブレス)がくるぞ!! みんな塀から離れろ!! 早く!!」



 ――瞬間。



 私からそう遠くない場所の壁が、轟音とともに粉々に吹き飛んだ!!


 空中へと舞い上がる壁の残骸やアンデッドたち。


 気が付けば、壁にぽっかりと半円状に大きな穴が空いてしまった。


 もうダメだと判断したのだろう、その場から急いで逃げていく冒険者や囚人たち。


 通りすがる冒険者の一人が。


「おい、アンデッドたちが入ってくるぞ!? あんたも早く逃げろっ!!」


 そう声を掛けてくれるが、私はあまりの恐怖に腰を抜かしてしまい、その場から動くことが出来なかった。  


 最終防衛ラインの牢獄を囲む壁が破壊されてしまったせいで、戦っていた者たちも我先に牢獄の奥へと逃げて行く。


 それを見計らったかのように、ワラワラと壁に空いた穴から這い上がってくるアンデッドの軍勢。


(夢なら覚めてよ…………)


 半場放心状態の私。


 逃げたくても、身体に力が入らない。


 助けを呼びたくても、あまりの恐怖にカタカタと口が震えてしまい上手く声が出せない。


 冒険者になって、そういうこと(・・・・・・)は覚悟していたつもりだったけど、いざそれを目の当たりにすると、途端に身体が強張り動けなくなってしまう。


 そんな私の元に、呻き声を上げながら近づいてくる死骸人(ゾンビ)の群れ。

 

「う、あ……」


 眼前に迫る死に、私はどうすることも出来ずぽろぽろと涙を流すことしか出来なかった。

 

 そしてとうとう一体の死骸人(ゾンビ)が、座り込む私の両肩を掴み、大きくカパッと口を開けた。


 恐怖でグッと目を閉じる私。

 

 お母さん、お父さん、…………ヨハン。



「助けてぇぇぇぇええ!!」



  

 ――ズドンッ!!




 死骸人(ゾンビ)に掴まれた両肩から伝わる振動と炸裂音。


 と、同時に大きく鳴動する大気。


(あれ……、痛くない……、噛みつかれて、……ない?)


 恐怖で閉じた目をゆっくり開くと、目の前にいた死骸人(ゾンビ)は、はるか前方まで吹き飛んでおり、それどころか周囲のアンデッドたちもなぜか轟々と燃え盛る炎に包まれていた。

 

 私が呆気にとられていると、上空からスタッと舞い降りてきた一人の男性。


 慌ててこちらへと駆け寄ってきた。


 次いで。


「フィリスっ!? 大丈夫か、怪我は?」


 掛けられた言葉に男性の顔をよく見ると、……ヨハンだった。


 なんで、どうして、色んなことが頭の中を駆け巡るが、なによりもヨハンに会えたことで目の奥が一気に熱くなる。


「とりあえず、ヒールを掛けるから……って、おい!?」


 ヨハンが何か話してたが、あまりの嬉しさに私はヨハンに抱きついてしまった。


 そして。


「うわあぁぁぁぁぁあん!!」


 そのまま大泣きすると、ヨハンは何も言わず優しく頭を撫でてくれた。


 


  ◆◇◆




 ――ヨハンが七階層へ向かう少し前の出来事。



「ほい、これで終了じゃ! 破壊された流動弁も修復完了。これで瘴気の流出は止まるが、ダンジョン内の瘴気をどこまで回収出来るか……、そっちの方が問題じゃのう」


 リアム君にダンジョンマスターの権限を移し、自身はサブマスターとして流動弁の修理を行ったホールキン氏。


 残留思念でもクリスタルと権限さえあれば、ダンジョンクリスタルを使えるのね。なんかホールキン氏の立ち位置が、人工知能とかAIに近いような気がする。


 HEY、ホールキン? スマホの作り方教えて?


「ホールキンさん、ちなみにダンジョン内に瘴気がありすぎると何か問題なんですか?」


「瘴気の飽和が起きると、さっきヨハン殿が倒した黒瘴鬼(ミアジックオーガ)や、意図せずユニークの王種が生まれることがある。奴らは()が強くてのう。わしのような弱いダンジョンマスターじゃと、モンスターの支配が解けてしまうことがあるんじゃ」


「ということは、支配下にあるモンスターが暴走すると?」


「うむ、あとは階層の設定が勝手に変化したり、酷いと階層ごと崩壊することもある。じゃからヨハン殿も瘴気の扱いには気を付けるじゃぞ?」


 なるほど。


 やはりダンジョン造りは奥が深い。


 良き相談相手が見つかってほんと良かった。


「しかし、ほとんどの階層で魔物の暴走(スタンピード)が起きておるな。これを終息させるのは骨が折れるて」


「モンスターを瘴気に戻すことは出来ないんですか?」


「もちろんそれも出来るが、いかんせん数が多くてのう。現場に行ってクリスタルで吸い込めれば良いんじゃが、さすがにこの状態じゃとそれも出来ぬ。じゃから一体一体処理していくしかあるまいて」


 うわぁ、それはまじ大変。


 言うなれば、バグだらけのプログラムを一人でデバッグしていくイメージか。


 間違いなく三徹デスマーチやん。


 ご愁傷様としか。


「まあ、それはさておき。ヨハン殿? ダンジョンコアの下にわしの荷物がある。悪いがそれをここまで持ってきてくれぬか?」


「承知しました」


 ダンジョンコアの近くへと向かうと、古びたリュックがコアに立てかけるようにして置いてあった。


 これか?


 とりあえずリュックをそのままホールキン氏の元へと持っていく童貞。


 すると。


「すまぬが、真ん中のポケットに入っておる指輪を取り出してくれんかの?」


「指輪ですか?」


 言われた通りリュックを漁ると、黒く怪しげな指輪が出てきた。パッと見、呪われてそうな一品。


「これは……何でしょう?」


「ほっほっほ、それはわしが持っておった唯一のBランクアイテム【魔力の器(グロムザール)】じゃ」


 魔力の器(グロムザール)


 まさか呪いのアイテムじゃないよね?


 装備したら一生独身とかなら童貞泣くよ?


「ヨハン殿は覚えておるスキルの割に魔力量がまだまだ少ない。魔力は体力と同じように、鍛えれば鍛えるほど増えてゆくが時間が掛かるのが難点じゃ。しかし、その指輪には魔力をストックしておける権能がある。日々の魔力を少しづつ溜めておけば魔力切れにもなりにくいじゃろうて」


 な、なんですとー!?


 メイジビルドを目指す童貞にとって、まさに夢のような指輪じゃないかですか!


「え、ホールキンさん? これ貰っても良いんですか?」


「もちろんじゃ。逆にもらってもらわねば困る。それとヨハン殿、ダンジョンクリスタルを出してくれぬか?」


「わかりました」


 ごそごそとポーチから取り出すマイクリスタル。


「リアムや? 持っているクリスタルをヨハン殿のクリスタルに合わせておくれ」


「はい、じい様!」


 そうリアム君が返事をすると、童貞が持つクリスタルとガッチンコ。


 些か不可解……、ホールキン氏は何をする気だ?


「では、いくぞ? ――オールコピー(・・・・・・)


 応じて輝くクリスタル。


 そして待つこと数秒。


 次第にその光も消えていった。


「ホールキンさん、これは?」


「ほっほっほ! なーに、わしらが今まで開発、設計したデータをヨハン殿のクリスタルに写しただけじゃ。無論、アイテムやモンスター、さらには建物の設計データまであるぞい。メニューを開いてごらんなさい」


 ま、まじですか!?


 慌ててダンジョンメニューを開くと、以前よりも圧倒的に選べる項目が増えていた。


 アイテム作成、モンスター召喚、建造物作成……etc。


 ありとあらゆるラインナップが勢ぞろい。


 通常、瘴気で作れるダンジョンメニューの項目は、童貞の基礎知識に応じて増えていく。


 モンスターを倒したり、物を作ったりと自身の経験に基づいて作れる物が増えていくわけだが、ホールキン氏はそれを全て端折ってくれたのだ。


「これは……凄い! ホールキンさん、本当にありがとうございます!!」


「なーに、気にすることはない。せっかくじゃから試しに転移石でも作ってごらんなさい」


「わかりました!」


 懐かしきタブレット画面。


 アイテム作成欄にある【転移石】の項目をタップして、作成するをタップ。


 すると、童貞の手元に集まっていく光の粒子。


 次第にかたちを形成していき、ものの数秒でリアム君と同じペンダント型の転移石が出来上がった。


「うぉ、出来た!?」


「ほっほっほ、我々(・・)の努力の結晶じゃ。この騒動がいち段落したら、ゆっくり確認するとよい」


 もちろんですとも!


 言われなくともやりますがな!


 しかしグッジョブだぜ、おじいちゃん!!


「さてと、ではそろそろダンジョンの階層を元に戻すとするかのう」


「え、そんなに簡単に出来るんですか?」


「勿論じゃ。ベースデータがあるからのう。それを呼び出して…………と!」


 ゴゴゴゴゴ…………っと、ダンジョン内で振動する鈍い音。


「うむ、これでよし! 元に戻ったぞ?」


 おうふ、まさかのインスタント。


 ボタン一つで元通りかい。


「んん? ありゃま。八階層がアンデッドで物凄いことになっておるのう。溢れて七階層まで雪崩れ込んでおるわ。これはまずいな、……モニター!」


 ホールキンさんがそう語ると、童貞たちの目の前に現れる50インチの大画面。そこからさらに八分割となり、リアルタイムでダンジョンの映像を写していた。


「あー……、これは確かに酷いですね。このアンデッド全部消すんですか?」


「気の遠くなる作業じゃて。ま、良い暇つぶしになるがのう、ほっほっほ!」


「暇つぶしって……、ん? ホールキンさん、今の画面もう一度見せてもらえますか!?」


「今のは……、これじゃな?」


 次いでホールキンさんがズームでその画面を表示してくれる。


 すると画面に映し出されたのは、なんと我々の捜索対象者であるフィリスの姿ではないか!


 なんという偶然!!


 しかし、ラッキーとも思ったのも束の間。


 フィリスの眼前にはウォーキング◯ッドよろしくなゾンビの軍勢が迫っていた。


 おいおいおいおい!!


 あいつなんで逃げないんだよ!?


 えっ、もしかして動けないのか!?


 こらあかん!?


 思わず。



「――転移!!!!」



 こうして俺は七階層へと舞い降りた。



【あとがき】

本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪

次の更新は20日(水)となります。

よろしくどうぞ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 章タイトル もうそろそろかな? [一言] こりゃ惚れますわ このタイミングは惚れますわ そして訪れるシュッラーバ!! …で思い出した。 置き去りになった皆さん、無事ですかね?
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