プロローグ
その日、迷宮都市国家ジャスバールに、建国してから初めてとなる非常事態宣言が発令された。
ダンジョンから漏れ出した都市全体を覆うほどの瘴気。
まるで雷雲のように重たく低く街を包み込んだ。
次第に暗い雲は人々の足元まで下がっていくと、瞬く間にあるものを形成していく。
そう、魔瘴石である。
突如、市街地に出現した大量の魔瘴石と凶悪なモンスターたち。
人々は恐怖し逃げ惑うが、逃げ遅れた者から次々と斃れていった。
かつてない規模で起こってしまった過去最悪とも言えるダンジョンハザード。
国王であるジャスバール・アルマ・ライオネスも、その対応に頭を悩ませていた。
――そんな執務室での出来事。
「よもや我が国でこのような痛ましい事故が起きてしまうとはな……。それでブリスタンよ、ダンジョン封鎖の件は滞りなく進んでおるのだな?」
「はい、勿論です、陛下。冒険者ギルドの方も今回の件に関しては、非常に協力的ですぐさまダンジョンの封鎖を決めてくださいました」
「そうか……、このような時だ。皆で協力して乗り切らなければな。それにしてもこれからどう収集をつけたものか。まったくもって先が見えんな」
そう語り終えると深い溜息を吐く国王ライオネス。
自身が国王に即位して三十年もの月日が経つが、未だかつてこのような出来事に直面したことがなかった。
それだけ今の今までジャスバールが平和だったとも言える。
「陛下、まずは地上の混乱を収めないことには先には進めないでしょう。国民の安全を確保するのが第一優先かと」
「……その通りだな。守るべきは民の命。一刻も早く現れたモンスターを討伐せねばならぬ」
「はい、すでに各騎士団の団長が隊を率いてモンスター討伐にあたっております。しかし、なにぶん数が多いので終息するまでかなり時間を要すかと」
「冒険者ギルドのクランは出ておらぬのか?」
「もちろん出ております。高ランク冒険者にも対応していただいているのですが、街に流出した瘴気が多く、討伐範囲も広いため対応が困難を極めております」
「そうか……、難しい状況だが、早急に対応にあたってほしい。頼んだぞ、ブリスタン」
「はっ!」
「それはそうと、今回の功労者である英雄殿はまだ目覚めぬか?」
そう語ると張り詰めた空気が一変し、急に表情を緩める国王ライオネス。それを感じ取ったブリスタンも表情和やかに語り始めた。
「ええ、医療班の治療は終わりましたが、疲労と魔力枯渇で今しばらくの療養が必要とのことです。明日明後日には目覚められることでしょう」
「そうか、それにしてもあの若さで、まさかユニークの中でも王種である爆炎の灼狼王を討伐する者が現れようとは。本来であれば勲章ものの功績ではあるのだが、国がこのような状態ではそれも出来ぬ。せめてアルファリア王に面目が立つよう、褒美を取らせねばな」
「はい、それがよろしいかと。灼狼王の討伐履歴は、かつてS級冒険者クランであった一件のみ。討伐難度を考えますとそれ相応の褒賞を与えるべきかと存じます」
「あいわかった。ではブリスタンよ、褒賞は我が国の誠意の証として金の手形としよう。余の名代としてお主の方から英雄殿に渡してやってくれぬか?」
「承知致しました。謹んでお受け致します」
「頼んだぞ。余はこれから諸外国の対応にあたる。万が一、我が国の後ろ盾が崩れれば帝国が攻め込んでくるのは必至。なんとしても諸外国の協力を取り付けなければならぬ」
「心中お察し致しますが、陛下もくれぐれもご無理だけはなさらぬようお願い申し上げます。国内の混乱は私の方で必ずや収めますので」
そう語り終えると、頭を下げて退室して行くブリスタン。
ブリスタンを見送った国王ライオネスは、再び深い溜息を吐くと、諸外国宛の書状作りに没頭するのだった。
◆◇◆
同日、瘴気流出事故発生直後のジャスバールのダンジョン内にての出来事。
「フィリス! こっちの通路はもうダメだわ! モンスターがうじゃうじゃいて通れない! 元の道を戻るしかなさそう!」
「ルフレノ、偵察ありがとう。やっぱりこのままここに留まるよりも、まだモンスターの少ない下層に移った方が良さそうだね」
六階層のサナリー坑道を探索していたフィリスとルフレノの冒険者コンビ。
ダンジョン内で突如発生した大きな地震に異変を感じて、すぐさま脱出を試みるが、いくら探しても上階に繋がる階段が見つからなかった。
それどころか持っている地図とはまったく異なる階層経路。先ほどの地震で、ダンジョンの内部構造が大きく変わってしまったことに気が付くのに、大して時間は掛からなかった。
「フィリスがさっき見つけた下り階段もそうだけど、一体ダンジョンで何が起きてるっていうのよ! なんで階層のど真ん中に下り階段があるわけ!? もう何がなんだかわかんない!!」
「ルフレノ、落ち着いて? まずは一緒にどうやったら脱出が出来るかを考えよう? ダンジョン構造が変化した今、下手に動くのは危険だと思うの。通路には手強そうなモンスターもたくさんいるからね。だからまずはどこかに私たちが避難出来そうな拠点を見つけよっか?」
ほぼ半泣き状態のルフレノを慰めるフィリス。
口には出さなかったが、自分たちがダンジョン遭難者になってしまったことをいち早く理解していた。
「……うん、そうだね。20階層より下にしかいないモンスターも一杯いたし。他のみんなは大丈夫かなぁ?」
「きっと大丈夫だよ! それにここよりもっと下層に、うちのリーダーや、他のゴールドランクの冒険者もたくさん探索に行ってるよね? きっとみんなもダンジョンの異変を感じて戻ってくると思うの! そしたら合流して一緒に脱出しよう?」
「うん……、そうだね! そうだよね! リーダーたちと一緒なら下層のモンスターでも突破出来るよね!」
こうして七階層のナルーア牢獄へと降りて行く二人だったが、七階層がさらに混沌と化していることをまだ二人は知らない。
エーテル転移魔法陣より流れ込んだ大量の魔力が、星体エネルギーを吸い上げるダンジョンコアの流動制御装置を破壊したため、無尽蔵に発生しているダンジョン内の瘴気。
そんな下層より上がってくる濃度の濃い瘴気により、上層にも現れる凶悪なモンスターの数々。
ジャスバールのダンジョンは、かつてないほどの規模で、魔物の暴動を起こすこととなった。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪
とりあえず六章のプロローグだけ置いておきます。
一話のアップは9日(土)からの予定です。
またトイレのお供にでも読んでいただければと思うので、応援のほどよろしくお願い致します。




