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異世界えぶりでい ―王国兵士の成り上がり―  作者: バージョンF
序章 どうも新人警備兵のヨハンです
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6話 赤髪の美少女アンガスター・ローズリリイ




「いくぞ、ヨハン君!」


 そう言って木剣を上段に構えるグラッドさん。


 見た目強そうなので、仕方なく身体強化を発動。


「はぁ!!」


 励声一番、グラッドさんから鋭い袈裟斬りが飛んでくる。


 それを半身捻ってひらりと躱す。


 が、しかし、斬り上げ、斬り下げ、横薙ぎと次々に攻撃を繰り出すグラッドさん。


 手加減なしの連続攻撃だ。


 それを俺は体捌きだけでひょいひょい避けていく。


 ほんとにもう無駄にやる気を出さないでいただきたい。


 俺はボチボチやるだけでいいんだよ、ボチボチと。


 それに今発動してる身体強化バフの負担ってもの凄いんだよね。昨日、短時間使っただけでも全身バキバキの筋肉痛だもの。


 回復魔法を使って事なきを得たが、トレーニング不足の俺からしたら両刃の剣。


 うん、これは早く終わらすに限るな。


 付き合ってらんない。


 筋肉痛は勘弁なのです。


「おりゃぁぁぁぁぁ!!」


 するとグラッドさんから振り下ろしの面が放たれる。



 ――仕掛けるのならここ!



 俺は振り下ろされる木剣の腹をスパンッと払い、そのまま返し面をバチコォーンと叩き込んだ!


 威力十分、グラッドさんの目がぐるんっと白目を剥き、そのまま地面へと崩れ落ちていった。


 おし、勝った。


 ついでに床ペロ仲間ゲットだぜ!


 それにしてもまさか一撃で沈むとは。


 もうちょっと手加減をした方が良かったかな?


 でも今更か、こと既に遅し。

 

 グラッドさんもまさか自分がアヘ顔を晒すことになるなんて夢にも思わなかっただろうな。


 ただ、ここで一つ言わせてもらいたい。


 男のアヘ顔ほど意味のないものはないのだ。


 個人的にはひらがなにルビを打つくらい意味がないと思っている。


 仮にこれが美少女であれば、俺の欲情メーターは軽くレッドゾーンを超え、ズボンの中で既に限界突破を果たしていたことだろう。


 アヘ顔とは女性を艶やかに彩る至高の表情なのだ。


 断じて男がして良い表情ではないということを心より皆様にお伝えしたい。


 さて、話が逸れてしまったが、とりあえず俺の訓練はこれで終了ってことでいいのかな? グラッドさん気絶しちゃったし。


 辺りをキョロキョロと見渡していると、ラウルを指導していた隊長のスピドラと目があってしまった。


「ほお、グラッドを倒すか。これは予想外だったな。おい、ガラン! 次はお前が相手をしてやれ!」


 なぜか厳ついスキンヘッドのオヤジに声掛けていた。


「了解しました、隊長殿!」


 は? まさかの勝ち抜き戦?


 え、嘘やろ? 聞いてないし。


 俺の前へとやって来たのは、身の丈2メートルを超える大男。しかもなぜか上半身裸という。


 あだ名はきっとハート様。


「おい、小僧。貴様なかなかやるようだな。でも俺はグラッドのようにはいかんぞ? みよ我のこのパワー!! 第九隊副隊長、頑鉄のガラン、いざ参る!」


 ()る気満々のハート様が突っ込んでくる。


 えぇぇぇ、まじかよぉぉぉ。


 しかも自分で二つ名を名乗っちゃってるし。


 その顔で厨二病ですか?


「きぇぇぇえええい!!」


 そんなことを考えているとハート様の右手から手刀、いや恐ろしほどの速さの馬場チョップが放たれた。


 俺がひょいっと避けると、そのままチョップは勢いよく地面へと激突する。


 ざまあ、と思いきや、ズドンッという音とともに地面から大量の土埃が舞った。


 ゴホッ、ゴホゴホ……、煙たいわ!! というか馬鹿力にもほどがあるぞ!! これだから脳筋は困る。


 土埃が晴れると、ハート様がこちらを見てニヤリと不敵な笑みを溢した。


 あらら、右手ノーダメージですかい。


 大地こそ割れてはいないが、ほんとふざけた威力である。


 どうやら彼の戦闘スタイルは徒手空拳のもよう。


「がははは、いいぞ、いいぞ小僧! 俺を楽しませてくれよ? いくぞぉおらぁ!!」


 く、バトル漫画でもあるまいし、こっちは戦闘を楽しむ余裕なんてないんだよ!!


 筋肉痛が、筋肉痛が怖いんだよぉぉ!!


「おりゃ、おりゃ、おりゃあああ」


 チョップ、回し蹴り、タックルと、図体がデカいにも関わらず俊敏な奴である。


 さすがにあんな威力の攻撃を喰らったら筋肉痛どころの話ではない。下手をすれば骨が何本か折れそうだ。


「ちょこまか、ちょこまかと、えぇぇい!!」


 どこかでみたような竜巻のようなダブルラリアット。掴まったらパイルドライバーでもされそうだ。


 たまらず離れようと思い距離を取ると、まるでターボが掛かったようなタックルて突っ込んでくるハート様。


「はっはぁー!! 俺から逃げられると思うなよ、小僧?」


 こりゃあ厄介、サイドステップでタックルを避ける、が。


「かかったな! そこだぁぁぁぁ!!」


 まさかのタックル緊急停止、そして回避で宙に浮く俺。


 あれ、これまずいかも?


 ハート様は野太い右腕を振りかぶると、そのまま俺の顔面目掛けて右ストレートを繰り出した! 外道か!?


 俺は両手でそれを受け止めようとするが、いかんせんダンプカーが軽自動車に突っ込んでくるようなもの。


 勢いは殺しきれない。


 ……が、ここで僥倖が。


 辛うじて左足のつま先が地面に触れたので、刹那、そのままバックステップで威力を殺す。


 コンマ数秒の超反応。


 最新プロセッサーも真っ青なレートで身体が反応してくれるもんだから、こんな超絶技巧も出来ちゃうわけですよ。


 まじで”反応強化”愛してる。


 ついでに全ての勢いを殺してやろうと、くるりんとハート様の右手を支点として宙返りをしたのだが。



 ――バキィィィ!!



 結果、それがガ〇ル様万歳。サマーソルトキックとなり、ハート様の顎を粉砕した。


 予想外のクリティカルヒットである。


 たまらずハート様は白目を剥いてそのままダウン。


 テンカウントはいらないようだ。


 汚ねぇアヘ顔晒してらぁ。


 ほんと無駄。


「おいおい、新人! まさかガランまでやっちまうとはなぁ。いいだろう、このままじゃ第九隊の名折れだ。俺が直々に相手を……」


 俺がハート様を倒してしまったがため、隊長のスピドラが名乗りを上げようとしたのだが、そこに予想だにしない人物が乱入してきた。


「なっ!? ロ、ローズリリイ様!?」


 何故か赤髪美少女が隊長のスピドラを押し退けて俺の前へとやってきたのだ。


 しかも右手には木剣が握られている。


 デートのお誘いとしては物騒だな。


 あー、でもなんでだろう。


 恐ろしく嫌な予感しかしない。


 美少女からはフローラルで良い香りしかしないと思っていたのだが、眼前の彼女に至ってはもはや地雷臭しか漂ってこなかった。

 

「ねぇ、そこの貴方? 私と勝負しなさい!」


 やっぱりねっ!!


 思った通りだよ、ちくしょうが!!


 でもほんのちょっと、ほんのちょっとだけ期待しちゃったじゃない!!


 こんなに可愛いのに中身がバトルジャンキーだなんて。


 あーあー!


 あーーあーー!!


 俺の心の慟哭は止むことはなかった。


 


 ◆◇◆




「あら、勝ちましたね。意外と強いのかしら? ねぇ、お爺様? あのひょろっこい男性も衛兵なのでしょうか?」


 そう口にするのはアンガスター侯爵家の長女アンガスター・ローズリリイ十六歳。


 ただ、長女といっても彼女は三人兄弟(・・)の一番下、上二人は兄である。


 男兄弟、しかも祖父が国認定の剣術指南役ということもあり、必然的に彼女も幼き頃から剣の道へと走ることとなったのは言うまでもない。


 剣の名家に生まれ、さらにその才能まで持ち合わせていたローズリリイは、メキメキと実力を付けていき、同年代では敵がいなくなるほどの成長を果たした。


 そんな彼女の瞳に映るのは、グラッドを打ち負かしたばかりの新人警備兵ヨハン。自身と同年代の少年である。


 見るからに凡庸そうなヨハンが自分より格上の相手を倒す、目の前で起きた事実であっても、ローズリリイにとっては大変理解し難い光景であった。


 なぜならヨハンにはまるで強そうな雰囲気がないのだ。


 周囲の人間と比べて、気合いもなければ覇気もない。もう一つ言えばやる気すらない。


 にも関わらずあの強さだ。


 彼女の頭の中に大量の疑問符が浮かぶのも仕方がないとも言えよう。


 そんな可愛い孫娘の問いに祖父であるアシュレイは。


「うーむ、どうじゃろうなあ? 儂も警邏隊には疎くてのぉ。しかし、あの(わっぱ)の動きはリリイとよく似ておるな。磨けば光る原石じゃ。惜しむらくはそうじゃのぉ、護身術程度の武術しか学んでおらんことよの。勿体ない、実に勿体ない。ふぉふぉふぉ」


 伸びた白髭をさすりながら愉しそうに笑うアシュレイ。そんなアシュレイとは対照的に、どことなくムッとするローズリリイ。


「あら、お爺様のお眼鏡に適うなんて珍しい。……リリイはちょっと嫉妬してしまいます」


「ふぉふぉふぉ、そう言うてやるでない。しかしあの童、どんな方法を使ったのかは分からぬが、随分と無茶な戦い方をしておる。力と身体のバランスが全くおうておらぬわ」


「バランス……、ですか?」


「うむ。あの童、満遍なく身体強化を使えるくせに、基礎となる自身の身体を全く鍛えておらぬ。一体どういうわけであろうかの? さっぱり分からぬわ! ふぉふぉふぉ」


 これまた愉快と高らかに笑うアシュレイ。


 それもそのはず、鍛錬に鍛錬を積んだ先に目覚めるのが身体強化スキルだからだ。


 例えば。


 全身の筋肉を鍛えれば【筋力強化】を。


 自身のスタミナが増えれば【体力強化】を。


 反射神経、頭の回転が早くなれば【反応強化】を。


 器用さや知識、センスが磨かれれば【才覚強化】を。


 魔力の操作、最大魔力量が増えれば【魔力強化】を。


 挫けない心、心が鍛えられれば【精神強化】を。


 と、言った感じでやはり物事には覚える順序というものがある。それをヨハンはスキルポイントシステムといったチートで全てを吹き飛ばしてしまったのだ。


「ではお爺様? 彼の強さの要因は天性の身体強化にあると言うのですか?」


「うむ、間違いないじゃろう。才能だけで戦っておるわ。恐らく儂の見立てじゃと童の強化幅はリリイに近いかもしれぬな。と言ってもリリイの方が上じゃがの、ふぉふぉふぉ」


 アシュレイの判断はあながち間違ってはいなかった。年の功ということもあり、その分析力は目を見張るものがある。


 ただ一つ、予想外だったのは。


「あの……お爺様? 一つお願いがございます」


「ん? リリイ、どうしたのじゃ?」



 それは自身の孫が極度のバトル中毒者(ジャンキー)だったということ。



「――リリイはあの者と手合わせしとうございます」



 赤髪の美少女が妖艶な笑みを浮かべた。





【あとがき】

本日も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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[良い点] チートもらったからといって両親を捨てて好き勝手に生きるなんてことをしないのは良い感じ。 [気になる点] 心の中でナチュラルに出会う人全部バカにしてるのは、過去に何かあったのかな? これまで…
[一言] テキトーに負けとけばよかったのに(・_・;
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