3話 迷宮都市探索 その3 幼馴染
目の前に突如現れた幼馴染のフィリス。
冒険者になりたいとアウストラを飛び出しておよそ三年。
かつての面影こそあるものの、三年という年月は美少女を美女へと変化させるには充分すぎるほどの時間だった。
「ほんと久しぶりだねー? しかもこんな離れた場所でヨハンと会えるなんて信じらんない! ねぇ、元気してた?」
まるで運命の再会を果たしたかのように満面の笑みで喜ぶフィリス。
一方、俺は喜びよりも戸惑いの気持ちの方が強かった。
なぜならば――。
「あ、……ああ! 元気だよ? フィリスは……元気そうだな。というかなんでこんなところにいんの?」
「こら! ちょっとは心配しなさいよー! なんでって、ここで冒険者をやってるからじゃない! アウストラ出る時に話したでしょう? もしかして忘れちゃったの?」
「いや、……すまん。そうだっけ?」
――黒歴史の思い出が強すぎて、その他諸々の記憶が飛んじゃってるぅー!!
全く記憶にないんだけど? どうしよう?
「まったく……、ヨハンってば全然変わってないんだから! ――って、あら? そちらの人は?」
フィリスの視線が俺の後ろに居たルナ氏へと向けられる。
げ、ヤバい!!
この二人は会わせちゃいけない人、会ってはならない人! 君の名は……じゃなくて、なんて説明すれば……ああ、くそ、テンパって何も浮かんでこない。
――いや、待て。落ち着け、俺よ。
何もやましいことなんてないんだ。ただ俺の黒歴史が突然目の前に現れただけ。そう、それだけだ。ルナ氏と会わせてもぜーんぜん問題はない。どセーフだ。
しかし、この場合なんて説明したら正解なんだ?
昔、童貞が勝手に勘違いした挙句、バグって告白した相手なんですー、……って言えるわけねぇぇぇー!!
一撃必殺で振られた黒歴史だろうがぁ!!
メンタル即死して、シェリーが必死にザオ◯ル連発してた過去を思い出せよ、俺よ!
くそう、それにしても答えが見つからん!
誰か答えを教えてクレメンス!!
童貞が如何にも挙動不審な行動をしていると、空気を読んだルナ氏がつらつらと自分から自己紹介を始めてくれた。
「えっと……、はじめまして! 王都特務隊に所属してますルナです。ヨハン隊長の部下になります」
やけに部下のイントネーションが強い気がしたのだが気のせいだろうか? え、気のせいだよね、ルナ氏?
「ルナさん、はじめまして! ヨハンの幼馴染のフィリスです。よろしくね! というかヨハンが隊長ってどういうことなの?」
まるで信じられないと言ったような目で、こちらを見つめるフィリス。
まあ、昔の俺を知ってればそうなるわな。しかし、説明がだるい。そして説明したところで、きっと信じてはくれないと思うし……うん、端折ろう。
「えっ……と、それは、ちょっと色々ありまして……。とりあえず今はダンジョン調査のチームを組んでるんだ」
「色々? え、色々って何? ねぇ、詳しく教えてほしいな? ――あ、そうだ! 今日の夜空いてる? 久しぶりに一緒にご飯食べに行かない? そしたらゆっくりお話出来るでしょ?」
はい、無理ぃぃぃい!!
なぜ振られた相手と飯に行かねばならんのだ! そんな自らの傷口を抉る真似など俺には出来ん!!
というか振った相手とご飯行きたいなんて、あんた地獄の使者かなんかなんですかね!?
「いや、無理だよ。ここには仕事で来てるからさ。俺だけフリーに動くことなんて出来ないよ」
「そっか、そうだよね……残念。あ、それならさ、ヨハンって隊長なんでしょ? ご飯行かない代わりに、ヨハンのチームメンバーに会わせてよ?」
バカなの? 嫌に決まってんだろうが。なんでそんなに俺のチームが気になんだよ? お前は知りたがりのシリ子さんか? ここは断る一択だな。
「ね、いいでしょ? ヨハンが今どんな人たちと一緒にいるのか見てみたいの! だめかな?」
なぜかグイグイと押してくるフィリス。
こいつってこんなキャラだっけかなぁ?
童貞がどうやって断ろうか模索してると。
「隊長、いいじゃないですか? フィリスさんをみんなに紹介してあげましょうよ? フィリスさんもしばらく隊長と会えてなかったみたいですし、きっと隊長のこと心配してるんですよ? ね、フィリスさん?」
ルナ氏、なんでそんな優しいの?
もしかして優しさにスキルポイント全振りしてる?
そろそろ限界突破して仏かなんかに進化されますかね?
「ルナさん、ありがとー! そうなの、ヨハンが迷惑を掛けてないか心配で心配で。さ、そういうことだから行きましょ? ヨハン隊長?」
「うわ、ちょっとおい!」
フィリスに無理やり腕を組まれて歩き出す童貞。
なぜかすぐ後ろで空気がピキッと割れる音がした。なんとも言えない威圧感を感じる……もしや。
おずおずと振り返ってみると、そこには笑顔が氷の微笑と化したルナ氏の姿が。
――ひぃぃぃぃ!?
仏進化をBボタンキャンセルされたぁぁ!?
「フィ……フィリス!? は、離れてくれ! じゃないと俺……俺!」
「え、じゃないと何?」
じゃないとルナ氏とのフレンドリーな関係がデッドエンドを迎えますから、なんて言えねぇぇえーー!!
「どうしたのよ、ヨハン? ん、あー……なるほど! これはこれは大変失礼いたしました!」
ルナ氏の方を振り返ったフィリスが何かを察するという。
頼むからこれ以上、ルナ氏の地雷を踏み抜かないでくれ! これ以上は童貞のメンタルがもたない。
「ルナさん、ごめんさない! ヨハンとそういう関係だとは知らなくて……はい、お返ししますね!」
「え?」
フィリスはそう語ると、なぜか俺を身体ごとルナ氏へと差し出すという暴挙。
はい、地雷踏み抜きましたーー、チュドーン。
「え、あの、え? ええーー!?」
でしょうね! そういう反応になりますよね! これはルナ氏が正しい。だって、僕たちそういう関係じゃありませんからね!!(悔涙)
「あ、あの、フィリスさん! 違います、違います! わ、わわわ、私と隊長はそういう関係じゃないんです!!」
はい、全否定入りましたー、ありがとうございます。もう心の血涙が止まらねえよ。やはりラウル一本ですよねー。
「え、そうなの? ルナさんが気にしてる素振りをしてたからそうなのかと思って」
「そんな、め、滅相もない!(?) 私はただの部下……、そう、何の変哲もないただの部下です!! 部下!!」
げぼらぁ!? イントネーションの強い部下の連呼はやめてくれ、ルナ氏よ?
わかってはいた、わかってはいたんだが、そうハッキリ言われるとメンタルダメージが半端ないんだよぉぉぉ!! くそぉぉぉおお!!
俺の中では【部下=知り合い】くらいの位置づけだからね? もう友達ですらないのは悲しすぎる。
さっきから俺のハートに防御力無視のクリティカルダメージしか入ってない。
もうやめてあげてお。
とっくに童貞のHPはゼロだお。
「そっか……。勘違いしてごめんね、ルナさん。でも、ヨハンって自分の思ってることを中々言わないから、たまには無理してでも聞いてあげてね?」
「え、あ、はっ、はい!」
そんなこんなで瀕死となりながらも皆の前へとフィリスを連れて行く童貞。
フィリスの天真爛漫な性格もあり、すぐにうちのチームメンバーと打ち解け合うこととなった。
女番ラウルかと思うほど、フィリスのコミュ力が凄い。陽キャ属性が羨ましい。
ただツンデレお嬢様からは、童貞に突き刺さるような視線をサプライズプレゼントされるというトラブルも。
くっ……イチゴジュース買い忘れたぜ。
すまん、後でダッシュだな。
「え!? フィリスさんって、あの【朱頂蘭の悪魔】のメンバーなんですか!?」
冒険者ヲタクのラウルが、フィリスの所属しているチーム名を聞いて何故か興奮してらっしゃる。
鼻息が荒くてもイケメンだから許される行為だな。
童貞がやろうものなら、すぐに心のシャッターを下ろされて終わりである。
「なあ、ラウル? そんなに有名なのか?」
「おいおい、ヨハン知らないのかよ? 朱頂蘭の悪魔って言えば、シルバーランク以上の女性冒険者しか入れないクランなんだぞ?」
「え、シルバーランク以上ってことは……じゃあフィリスも?」
童貞の言葉を待ってましたと言わんばかりにフィリスは首元のネックレスをさっと取り出す。
「じゃーん、シルバーでーす! 三ヶ月前にランクアップしましたー!」
なぜか面々からパチパチと拍手が沸き起こる。
まあ、確かに十六歳でシルバーに上がるのは素直に凄いと思う。
アルフェリア王国だとシルバーランクへの昇格試験は年二回あるが、合格枠200人に対して受験人数が毎回3000人を超える特大イベントとなる。
合格率は驚異の0.06%。
シルバーに上がれるか否かで、今後の人生が左右されるという冒険者にとって運命の分かれ道となる試験だ。
きっとジャスバールでも同じようなもんだろう。
「確か朱頂蘭の悪魔って、序列ランキング方式のパーティクランですよね? 72人の枠があって、月一で開催される入れ替え戦を勝ち上がって正規メンバーになれるっていう。なかでも選抜メンバーの上位9人は二つ名が付くほど強いって聞いてます!」
ラウルの冒険者知識がエグい。
彼の趣味が有名冒険者の追っかけとかじゃないか心配になるレベルだ。せっかくのイケメンバフの効果が薄れてきてないか?
「ラウルさん、詳しいんですね? 私はまだ入ったばかりの練習生なので序列戦すら参加できない新米ですけどね」
なるほど、序列戦か。
せっかくシルバーに上がっても、さらに入れ替え戦なるものがあるのか。さすが冒険者、弱肉強食の世界。
「それでもフィリスさんがシルバーに合格したのはほんと凄いことだと思います! 私ならずっとアイアンかブロンズだと思うので」
優しさの化身ルナ氏がフィリスをヨイショする。
ならばここは童貞がルナ氏をヨイショせねばなるまい。
「ルナさん、そんなことないと思いますよ? ルナさんならきっとフィリスばりにシルバーに昇格するの早かったと思いますけど? 現にもう複数の武技を使えるじゃないですか? ま、でもそう言って冒険者になるって言われても困りますけどね」
「なりませんよー! 隊長の力になるって言ったじゃないですか!?」
「いや、最後のは冗談なのでそんなムキにならなくても……」
「…………っ!?」
うーむ、無言で赤面するルナ氏も可愛い。こういう挙動が童貞にはたまんないんだよなー。
そんな童貞たちのやり取りを見ていたフィリスが。
「あはは、やっぱり二人は仲良いね? じゃあ、そろそろ行かなきゃ……、ヨハン、会えて嬉しかったよ? 皆さんも付き合ってくれてありがとうございます」
用事はすんだと言わんばかりに踵を返すフィリス。
大きく手を振りながら、そのまま颯爽に走り去ってしまった。
結局、あいつ何をしに来たんだろう?
謎すぎる……。
さてと、ローズリリイからの無言の圧力もあるし、童貞はイチゴジュースの買い出しに赴くとしますかね。
◆◇◆
パシリと化した童貞はオーダー分のジュースを用意。
もちろん俺はルナ氏と同じレモンフレーバー。
当初の予定通り、ルナ氏との食道間接キッスを果たすことに成功した童貞。
もはや悔いはない。
邪悪な笑みを浮かべながら、ゴクゴク飲み切ってやった。
不思議と俺の食道とルナ氏の食道が繋がった気がした。
食の神よ、ありがとう。
そして一時の休息を挟んだ後、準備が完了したイケオジが我々と合流した。
「ヨハン殿、お待たせして申し訳ない。それではさっそくダンジョンへと入りましょうか?」
茶皮のロングコートの下にスケイルアーマーを着込んだイケオジブリスタン。
イケてるオヤジからちょい悪オヤジに進化しやがった。
く、進化路線が選べて羨ましい!!
童貞は三十歳で魔法使いになる選択肢しかないのに。
しかし、そんなちょい悪ブリスタンの顔パスのおかげで、特に待たずしてダンジョンに入場を果たした我々一同。
初めてのフィールドダンジョンということもあり、テンションも爆上がりである。
「これが我が国自慢の一階層【ラウーゲの森】です」
ちょい悪ブリスタンがそう語ると、視界に入ったのは巨大な樹木が鬱蒼と茂る深々とした森。
天井を見上げれば燦々と輝く陽光が降り注いでいた。
とてもダンジョンの中とは思えない。
「さあ、ではここからが大変ですよ? フィールド階層はとても広大なので、しっかり私についてきてくださいね?」
こうして日が暮れるまでちょい悪ブリスタンのダンジョン紹介が続くのだった。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでいただき誠にありがとうございます。
ということでフィリスがストーリーに降臨なさいました。
次週より本格的にストーリーが動きます。
今後のヨハンの活躍にご期待ください。
来週もよろしくどうぞ!
そしてこの数日間、誤字報告、感想、いいね、ブクマ、評価をいただきました読者の皆様、本当にありがとうございます。誤字報告お恥ずかしい限りですが非常に助かります。
皆さんに読んでもらて作者も心がほっこりしております。
次の更新は9月2日(土)となります。




