表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界えぶりでい ―王国兵士の成り上がり―  作者: バージョンF
一章 どうも新米隊長のヨハンです
19/88

7話 フォルナ村実地研修 ユニークモンスター




 魔瘴石から現れた一体の巨大なモンスター。



 その名は、――首領巨獣鬼(ドン・トロール)



 まるで一軒家のような巨大な体躯が嫌でも視界に入る。その巨体は全身灰色で、鋼のような筋肉に覆われていた。体型はマッチョというよりも鍛え抜かれた相撲取り。


 その巨大な口の下顎からは、長く鋭利な牙が天を穿つように伸びていた。粗野な腰布だけを巻き付け、手には二メートルを超える大鉈が。


 まるでレイドボスよろしくなモンスターが突如として五階層に現れたのだ。


「グ、グラッドさん? ちなみにあいつの討伐難易度ってどれぐらいでしょうか?」


「ああ、そうだな……。十年ほどまえに、一度、首領巨獣鬼(ドン・トロール)が出現したことがあったんだが、その時は対応にあたった王国騎士団一個中隊が全滅したと聞いている」


「ははっ……、そりゃまた酷い。で、どうやって倒したんですか?」


「アシュレイ様だよ。騎士団全滅を聞いてやって来た、当時剣聖だったアシュレイ様が一刀のもとに斬り捨てたってのがもっぱらの噂だ」


「あー、なるほど。まったくもって参考にならない噂ですね」


「だろ? 一度、部屋に戻って作戦を練り直そう。このまま四階通路を目指しても、あのデカブツが追ってきて逃げ切れないだろう。それに皆にも説明が必要だ」


「了解です、グラッドさん」


 俺たちはそそくさとレイドボスに気づかれないよう部屋へと戻って行った。


 さて、どう説明したもんかな。


 部屋に戻るとミーハー女子三傑や、ロドリゲスさんたちはまだダウンしていた。先ほどの地震で腰が抜けてまだ立てないご様子。なんとかラウルだけが、足を震わせながらも立っていた。


 そんな最中、グラッドさんが淡々と現在の状況を皆に説明していく。すると見る見るうちに引き攣っていく皆の顔。


 ですよねー。


 それもこれもこの童貞が、五階層に行きたいと申し上げたのが全ての元凶でございます。

 

 今回の最優秀戦犯は間違いなく俺だ。しかも断トツで。そもそもノミネートされてるの俺しかいないし。ほんと状況判断ミスも甚だしい。


 なので。


「俺が五階層に行くなんて言い出さなければこんなことにはならなかった。隊長としての判断ミスだ。本当に申し訳ない」


 皆には謝罪を。


 安易に考えていた結果がこれなのだ。みんなの命を危険に晒してしまったのは、痛恨の極みともいえるだろう。隊長失格どころの話ではない。


「どうか責任を取らせてもらえないだろうか?」


 懺悔を……、そして――。


「俺が囮になるから、その間にロドリゲスさんたちを連れて外へと脱出してほしい。あのモンスターは絶対にみんなには近づけさせないから」


 ――解決策の提案を。


 どう考えてもこの方法しかないように思える。


 鉱山がダンジョン化してしまった以上、他チームからの救援はありえない。まあ、来たところでどうしようもないのだけれども。


 しかも夜が明けたら、きっと討伐隊は王都まで引き上げてしまうだろう。そしたら騎士団とバトンタッチだ。


 そうなってしまえばしばらく救助はこない。部屋の食料もほぼ尽き欠けているこの状況。この場所に留まるよりも、体力がある内に脱出を目指した方が間違いなく生存率は高い。

 

 タイムリミットは夜明けまで。


 時間はまだたっぷりとある。


「だったら私も一緒に残ります! 隊長に責任があると言うのならそれは私も同じです! いえ、むしろ私のせいで隊長が……」


 いやいや、これっぽちもルナ氏は悪くないんですけど? 


 仮に責任を感じているのであれば、全てが終わった後に、俺の童貞をもらってはくれないだろうか?


 右手にルナ氏、左手にはナタリー氏。


 そんなセクシャルはフォーメーションを組みたい今日この頃。最高じゃんね?


「そこまでだ」


 ルナ氏が話を続けようとするが、それをグラッドさんが止める。


「……ヨハン君? やれるのか?」


「グラッド教官!!」


 どうやらグラッドさんも状況を深く理解している様子。リスクを最小限に抑えるのであれば、これが最善手となる。

 

「やるしかないでしょう。それが一番可能性が高いのですから」


「隊長!? なら私も!!」


 なぜかルナ氏が納得してくれない。


 そもそもこれはターニャちゃんヤンデレ化ルートを回避したいがために辿った俺のエゴなのだ。


 罪悪感から解放されたいがために招いた結果とも言える。正直、ルナ氏が責任を負う必要はどこにもない。


 それに……。

 

「ルナさん? お気持ちは嬉しいですが、出来れば皆さんと一緒に逃げてほしいです。ルナさんがここに残ってしまったら、誰がターニャちゃんに伝えてあげるんですか? お父さん戻って来て良かったねって」


「……っ!!」


 そしてそれは黒髪のお兄ちゃんが頑張ったからだよと、切実にアピールしていただきたい。


 ああ、浅ましい。自分の心が浅ましい。

 

 それでもターニャちゃんから渾身の”お兄ちゃん大好き”を頂戴したいのです。

 

「……わかりました。でも約束してください。隊長も生きて戻ってくるって」


 うーん、なんだろう?


 俺の死亡フラグが立っているような気がしてならない。そんなに俺を殺したいのだろうか?


「わかりました。生きて地上でまた会いましょう」


 こくん、とルナ氏が大きく頷く。


 ということで脱出準備が始まった。




 ◆◇◆



 

 まず腰の抜けているミーハー女子三傑と、鉱夫さんたちに回復魔法【ヒール】を掛けた。腰を抜かしてる場合ではない。外にはもっとヤバい奴がいるのだ。


 ちなみに、この【ヒール】という魔法は非常に便利で、呪文詠唱の必要がない即時発動型の魔法となる。

 

 ただ患部が治るまではずっと魔法陣を展開する必要があるので、魔力消費が激しいのが唯一の難点だ。まあ、でもそれも許容圏内。


 面々が粛々と脱出準備をしているとグラッドさんが。


「ヨハン君? 先に話しておくが、首領巨獣鬼(ドン・トロール)には打撃や斬撃は通じにくいぞ? そもそも肌が鋼鉄のように硬いんだ」


 オウ、マジッスカ……。


 確かに物理攻撃無効みたいな体つきをしていたように思える。でかくて硬いは反則だろ。


「ちなみに何か弱点みたいなもんはないんですか?」


「あるとすれば魔法……だろうな。でも残念だが属性まではわからない」


「そうですか」


 むむ……、残念だ。でもどちらにしろ俺は魔法が使えないから意味はないけど。


 そんな会話をしていると、ここでまさかの人物からアドバイスを頂戴することに。


「あ、あの? わ、わたし弱点知ってます!」


 魔女っ子(ケイシー)だ。


 なんとここまで空気と化していた魔女っ子(ケイシー)からのカミングアウト。


「魔法学校に置いてあったモンスター図鑑に、弱点属性が『炎』と記載してあったのを覚えています。わ、わたし、そういった本を読むのが、す、好きで、休み時間とかに読みふけっていたんです」


 意外と魔女っ子(ケイシー)がディープなモンスターヲタクだという。


 この子、意外とヲタサーの姫になれる素質があるのかもしれん。控えめな性格が仇となって、ヲタ部員の魔の手に掛かるとか、すっごい興奮するんだけど?


「なるほど、ありがとうケイシーさん。でも弱点が判明しても有効な攻撃手段が俺にはないんだよな」


 そう、肝心な魔法が使えなければ意味がない。


「……あ、あの、隊長がよろしければ簡単な即時発動型の魔法陣でよければ、教えることが出来ますが?」


 なぬ? 今のセリフは聞き捨てならない。


「え? そんなに簡単に魔法って覚えることが出来るの?」


「いえ、本来なら各属性の魔法陣や術式制御を覚える必要があるんですけれど、先ほど隊長が簡単に回復魔法の魔法陣を形成されていたので、もしかしたら即時発動型の【火炎(フレイム)】くらいなら短時間でもお伝えできるかなと思いまして。それでもあ、あのモンスターには付け焼刃にしかなりませんが……」


 いやいや十分だ。覚えてしまえば後はチート強化でなんとかなる。これは是が非でも教えていただきたい。


「ケイシーさん、それでも構いません! 俺に魔法を教えてもらえませんか?」


「は、はい!」


 魔女っ子(ケイシー)が、指に魔力を纏い、【火炎(フレイム)】の魔法陣を空中に描いていく。それを同じように真似て空中に描いていくと……。


 ーーあ、なんかティンっときた。


 ステータスウィンドウをいそいそと開く。



 ・初級火魔法   練度【1】  NEW!

 


 まじかよ、覚えとるやんけ。


 簡単に属性魔法を取得するという。


 まさかのインスタント。


 術式制御練度【10】のおかげだろうか? 今の俺は魔力の扱いは相当に上手いはず。意外と即時発動型の魔法であれば簡単に覚えられたりして?


 で、あるならば。


「ケイシーさん、どうやら火魔法を習得できたようです」


「え、も、もうですか!? まだ魔法陣を教えたばかりですよ!?」


 驚愕する魔女っ子(ケイシー)


 驚いた顔もとってもプリティ。いつかそのモフモフのウサミミを触らせていただきたい。


「ええ、ですのでよければ土魔法の即時発動型の魔法を教えていただけませんか?」  


「そ、それは構いませんが、土魔法ですと【岩礫(クレイ)】となります。あのモンスターにはあまり効果は期待できませんが良かったでしょうか?」


「はい、ケイシーさんさえよければぜひ!!」


「わ、わかりました!」


 先ほどと同じように魔女っ子(ケイシー)の描く魔法陣を真似て空中に描いていくと……。


 これもピコーンと閃く。



 ・初級土魔法   練度【1】  NEW!

 


 結果、魔法が一番チートで習得が楽だということが判明した。そして俺の進むべき道もこれで決定。


 ファンタジーはやっぱり魔法だわ。物理とかまじないわ。もはや物理特化だと入院するイメージしかない。なんだよ、全身骨折って。バカか。


「ケイシーさん、ありがとうございます。無事に土魔法習得出来たみたいです」


「えぇーー!?」


 まるで信じられないといった様子の魔女っ子。目を見開いたウサミミ女子もめっちゃ可愛い。リアルバニーちゃん。いつかあなたの膜を破らせてほしい。


 それにしても本来であればこんなに簡単に習得するって、まずありえないんだろうな。


 まじでチート万歳。


 少し希望が見えてきた。


「あの、隊長? もしよければ私の風魔法も教えますが?」


 魔女っ子とのやり取りを見ていたルナ氏から嬉しいお言葉を頂戴してしまった。これは謹んでお受けしよう。


「ほんとですか、ルナさん?」


「はい! 隊長の力になれるのであれば、ぜひ協力させてください!」


 そんなルナ氏の協力により、初級風魔法もゲッツ!


 後はスキルポイントを割り振り、練度をマックスにするだけ。ついでにこの際だから身体強化もマックスにしておこう。全てカンストだ、カンスト!



 そしてこうなる。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


・名前:ヨハン

・種族:ヒューマン

・年齢:16

・職業:見習い兵士

・LV:10

・SP:375


〔発現スキル一覧〕

《アクティブ身体強化一覧》

・筋力強化     練度【10】★  UP!

・体力強化     練度【10】★  UP!

・反応強化     練度【10】★  UP!

・才覚強化     練度【10】★  UP!

・魔力強化     練度【10】★  UP!

・精神強化     練度【10】★  UP!


《流派スキル一覧》

☆アルフェリア王国流護身術

・護身剣術     練度【10】★ 

・護身体術     練度【10】★ 


《感覚系スキル一覧》

・気配察知     練度【10】★


《魔法系スキル一覧》

・初級火魔法    練度【10】★  NEW UP!

・初級風魔法    練度【10】★  NEW UP!

・初級土魔法    練度【10】★  NEW UP!

・初級回復魔法   練度【10】★


《魔法補助系スキル一覧》

・体内魔力操作   練度【10】★

・術式制御     練度【10】★


《加護一覧》

・ガイアードの祝福


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 



 まるで捻った蛇口から吹き出す水の如く、魔法の知識が大量に流れ込んでくる。



 ――魔法使いヨハン、爆、誕!!



 決して童貞を守りきったからではない。


 正真正銘の魔法使いだ。


 いや、回復を魔法も使えるからどちらかと言えば賢者、いや大魔導士だろうか。


 もう一度言うが、決して童貞を守りきったからではない。


 とりあえずやれるだけの準備は整えた。


 レイドボスを倒せなくても足止めくらいは出来るはず。


 これでダメなら、あのレイドボスを一撃で葬ったというじーさんは人外確定である。



 練度オール【10】、果たして通用するか否か。



 俺の命がけの戦いが始まった。





【あとがき】

本日も読んでくださり誠にありがとうございます。

明日はボス戦。

一章も残すところ二話となりました。

もう少しお付き合いください。


最後に、ここ数日評価いただきました

読者の皆様、本当にありがとうございます。

暇つぶしがてら読んでもらえれば幸いです。

よろしくどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ピンチにスキルを振り始めるスタンスは、テレビのやらせと一緒で番組的な匂い・・・要するにメタっぽいからやめたほうがいいと思う。 探索でいつ死ぬかわからないのに自分を常に万全の状態にしてお…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ