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異世界えぶりでい ―王国兵士の成り上がり―  作者: バージョンF
一章 どうも新米隊長のヨハンです
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5話 フォルナ村実地研修 突破




 鉱山への突入から一時間半ほどが経過した。


 俺たちはというと、最短距離を通り、なんと三階層の中腹まで来ていた。


 辺りにはまだ倒したばかりの真新しいゴブリンの死体が。


 すると次第に死体から黒い靄が上がり始め、あっという間に黒く小さな石ころへと変化していった。



 ――魔石。



 魔瘴石(スポーンストーン)から生まれた魔物は、死するとその身体を魔石へと変化させる。


 そしてその魔石は我々の生活にとって必要な照明や燃料などに使用される素材となるのだ。


 持って帰れば換金できるので引率役のグラッドさんが、倒したゴブリンの魔石を回収してくれていた。


 その数、――なんと八十三個。


 ほぼ一分に一体ゴブリンを倒している計算になる。


 休憩もなく、ただひたすら効率的にゴブリンを倒していくとこんな数字になるらしい。


 俺の気配察知スキルで百パー先制攻撃が取れるわけだから、余程の下手さえ打たなければ怪我もすることもない。


 安全マージンを確保しつつ、相手を駆逐出来るなんて気配察知スキル最高でしょ。


 そのおかげで俺のレベルが三つも上がってしまった。


 レベルが上がったことで、少し腹筋が硬くなったような気がする。さすがに割れてはいなけど。レベルが上がると俺の身体に直接経験値がフィードバックされる仕様なのかな? 少し様子を見てみようと思う。目指せ夢のシックスパック。


 ただ、そんな嬉しいことばかりではなかった。


 残念なことに、ここまで気配察知をしても魔瘴石(スポーンストーン)や、ロドリゲスさんの気配を捉えることが出来なかった。


 このままではターニャちゃんバッドエンド路線が確定してしまいそうだ。


 父親を失い、目から光が消える幼気な少女……。


 成長したらヤンデレ化しそうでそれはそれでアリなのだが、やはりここはロドリゲスさんを見つけ出して、お兄ちゃん大好きパターンで終了させたいところ。


 それにロドリゲスさん生存の可能性としてはまだ残っている。諦めるにはまだ早い。最下層である五階層には、緊急用の避難施設が設置されているのだ。


 唯一、可能性があるとしたらこの五階層のみ。


 是が非でも救出したいところ。


 童貞はロリっ子にお兄ちゃん大好きと言わせたいのです。表情は繕ってますが、内面は下心満々なのです。


 クソ野郎ですみません。


 そんなこんなで三階層も突破間近。そのまま勢いで四階層へ向かおうとするのだが。


「ヨハン君? 四階層へ向かう前にここらで少し休憩にしないか? さすがにペースが早すぎる」


 グラッドさんがそう提案してきた。


 確かに急ぎ過ぎた感は否めない。ここまで凄く調子良かったからなぁ。


 ぱっと見た感じ、メンバーたちは疲れていないようには見えるが、精神的な疲労はあるかもしれない。


 特に魔女っ子(ケイシー)


 肉体的な疲れがないにしろ、魔法使いは魔力が空になると気絶して倒れてしまう恐れがある。


 魔力負荷で脳が焼き切れないように、本能的に気絶という安全リミッターが掛かるのだ。


 稀に気絶に耐えて、魔力行使をし続ける猛者もいるようだが、悉く脳が焼き切れて命を落としている。


 そんな無理をさせていないと思うが、隊長としては魔女っ子の身体が気になるところ。


「じゃあ、この先にちょっとした広場がある。そこで少し休憩をとろうか」


「「はい!」」


 そして一路、休憩ポイントを目指して歩き出した。


 しばらく進むと、見えてきたのは鉱石の掘削現場。


 四階層へ続く通路の近くなので、場所的にもちょうど良い。ゴブリンの気配も近くにはないので休んでも問題ないだろう。


「さて、じゃあここで少し休もうか。各自、休憩をとってくれ」


 そう言ってグラッドさんは壁にもたれかかるようにして腰を下ろす。何故か、何もしていないグラッドさんが一番疲れているという。ストレス疲れだろうか?


「それにしても凄いものだな、ヨハン君の気配察知スキルは。チームの連携も見事なものだし、このまま衛兵部隊の隊長に昇格しても不思議じゃないぞ?」


「……確かに。隊長の気配察知は凄いとしか。まるでフロア全体を把握しているのかのように、ピンポイントでゴブリンを倒しに行くのでビックリしました」


 グラッド氏とルナ氏からお褒めの言葉を頂戴してしまった。ちょっとやり過ぎた感が否めない。


 でも昔から仕事をするなら効率的にかつ、早く終わらせたい主義なのだ。そこに手抜きはない。無駄な残業は嫌なんですよ。


「それに隊長殿って剣の腕も凄いよね! 隊長殿はすでに流派スキルの武技(アーツ)は習得されているのでしょうか?」


 と、自慢の熊耳をピコピコしながら聞いてくるネイ氏。


 ちなみ武技とは流派スキルを習得することで使用出来る必殺技のようなもの。先日、ローズリリイが使ったそれである。


「いや、俺が覚えている流派スキルって、実は護身術だけなんだ。だから武技はまだ習得していないよ」


 警邏隊で教えてもらえる護身剣術や体術に武技はない。あくまでも基礎となる動きを学ぶものだから。


「へぇ、凄く勿体ないね! 隊長殿なら剣術道場に通えば武技なんてあっという間に習得できそうなのに」


 まあ、それも一度は考えた。でも道場に通ってしまえば、ほぼ毎日強制的に稽古に参加しなければいけなくなる。稽古をサボろうものなら、兄弟子たちによる強制連行もあるくらいだ。それはちょっと俺のスタンスには合わない。


「まあ、色々あるんだよ。色々と」


 そう俺は別に最強を目指しているわけではないのだ。求めるところは無難な生活。これに限る。


「ふーん……、ねえ隊長殿? あたしさ王都にあるトリエスタ道場にルナと通ってるんだけど、隊長殿やラウルさんが良かったら一緒に通わない? 先生も優しくて教え方も上手だからやってて楽しいよ?」


 ネイ氏の目がやたらとキラキラしている。まあ、目的は俺じゃなくてラウルだろうなー。すんげー、わかりやすい。


 そんなネイ氏にロックオンされているラウルが。


「へぇ、トリエスタ道場って確かアンガスター流を教えてる道場じゃなかったっけ? ツテがないと入門すら難しいって聞いてるけど?」


 おっと、まじか。じゃあなおさら無理だな。あの赤髪ツンデレの息の掛かった道場は俺が逆にお断りである。君子危うきに近寄らず。


「多分大丈夫だよ! 道場の師範代があたしの叔父さんだから。一人や二人増えたところできっと問題ないよ」


 そう言って親指を立てるネイ氏。是が非でもラウルを確保したいんだろうなぁ。肉食系女子恐るべし。


「え、なら俺はお願いしたいんだけどネイさん頼めるかな? なあ、ヨハンも一緒に道場に通おうぜ!」


 ほら来た、俺を巻き込むなや天然イケメン。ミーハー女子三傑の狙いはお前なんだよ。そろそろラウルには気付いていただきたい、選び放題ということを。夢の4Pいけるんだぞ?


 でもまあ、今回に限っては正当な断り文句があるからなんとかなるが。俺には通えない理由があるからな。


「いや、俺は無理だ。ほら、俺って()の件もあるだろ? だから申し訳ないけど今回はやめておくよ」


「確かにそれはあるな、……くくくく」


 察したグラッドさんが堪らず笑う。


「あー……そっか、そうだよなぁ。まっ、それなら仕方ないか。じゃあ、ネイさん俺だけでお願い出来るかな?」


「まっかせといてー! 絶対入門させるから!」


 あまりの嬉しさにネイ氏のテンションが限界突破するという。良かったね。目的のラウルが確保出来て。


「あの……、なんで隊長は無理なんですか?」


 ラウル確保でこれにて終了と思いきや、ここでルナ氏が童貞に気を使うという想定外の優しさが発動。


 嬉しいやら悲しいやら。


「なあ、お前たち誰にも言うなよ? 実はヨハン君、この前の訓練でアンガスター家のお嬢様を倒しちゃったんだよ」


 オフレコなはずなのにグラッドさんが簡単にゲロった。なんて口の軽い男!! 


「え、アンガスター家のお嬢様って、ローズリリイ様を倒しちゃったんですか!?」


 ほら、見ろ。みんな驚いちゃったじゃん。これで女子三傑のヘイトを集めることになったらグラッドさんは〆るわ、まじで。全裸でロメロスペシャルの刑に処す。


「たまたまだよ。深くは聞かないでほしい。それにダメージはむしろ俺の方が大きかったし」


「でもローズリリイ様に勝ったのは本当のことなんですね? 隊長がただ者ではないと思ってたんですけど、ここまで凄い人とは思いませんでした」


 ありがとうルナ氏。でもね、そのせいで赤髪ツンデレのヘイトをくっそ稼いでしまったんですよ。多分、そのうち復讐されますわ。


「ほんとほんと。でもさ隊長殿、まじで気をつけた方がいいよ? ローズリリイ様って言えば各地の道場にファンがたくさんいるからね! 特に親衛隊を名乗る武闘派のファンに、これが知られたら大変なことになっちゃうから。多分暴動だよ、暴動!」


 ネイ氏、知ってるか?


 それをフラグって言うんだぜ?


「……心の底から気を付けるよ」


 三十分ほど休憩を取り、俺たち一行は四階層へ向かうことに。


 その道中でグラッドさんが。


「ヨハン君? 引き返す時間を考えると残りは後二時間ほどと思ってくれ。仮に五階層へ行ったとしても時間が来たら俺の指示で切り上げてもらう。いいね?」


「わかりました、グラッドさん。それまで無理のない範囲で進んでいきます。ここまできて事故るのは嫌ですし」


「うむ、冷静でいいことだ。では後は任せるぞ」


 残り二時間か。微妙なところだな。出来ればこの一発目のアタックで終わらしてしまいたいところだけど、無理をしてみんなの命を危険に晒すわけにもいかない。でもなー、正直2回目はだるい。


 隊長ってまじで決断力が大事だと思う。右か左か、行くか行かないか。その判断によってみんなの運命が左右すると思うと胃がキューってなる。


 そう考えるとやっぱ俺には隊長は向いてないね。リスクよりも効率を考えてしまう。もし判断ミスったら全力で謝ろう。


 そして警戒しながら四階層へ続く坑道を歩いていると、ルナ氏が俺の傍へとやって来て小声で話掛けてきた。


「あの、隊長? もしかしてですけど、ターニャちゃんのために一回目の探索でロドリゲスさんを探し出そうとしてますか?」


 肩と肩が触れ合うかどうかのギリギリの距離。女子特有の良い香りがふんわりと漂う。ああ、ほんと堪らないね。


 ようこそ、俺のパーソナルスペースへ。


 ルナ氏の素晴らしいフェロモンに思わず脳内で紳士的にお出迎えの言葉を掛けてしまった。


「んー、出来ればそうしたいけど、無理そうなら早い段階で諦めるつもりだ。でもこの調子なら五階層へは行けると思うから、気配察知でロドリゲスさんの安否確認だけでも出来ると思う。もし気配が確認出来たら真っ先に救助しよう」


「はい! 本当にありがとうございます」


 ルナ氏がとても嬉しそうだ。


 ラウル狙いじゃなければ、フラグが立ったものを。


 しかしその笑顔プライスレス。



 というわけで俺たちは四階層へと降り立った。




 



【あとがき】

本日も読んでくださり誠にありがとうございます。

実地研修編もすでに後半。

残り四話ほどとなります。

皆さんに楽しんでもらえていれば幸いです。

もう少しお付き合いください。

最後に、昨日評価いただきました読者の皆様、本当にありがとうございます。

暇つぶしがてら読んでもらえれば幸いです。

よろしくどうぞ。

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