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異世界えぶりでい ―王国兵士の成り上がり―  作者: バージョンF
一章 どうも新米隊長のヨハンです
15/88

3話 フォルナ村実地研修 少女の涙




 第一陣が突入しておよそ三時間が経過した。


 俺たちは突入に備えて少し仮眠を取っている。


 が、しかし。


 徐々に近づいてくる実戦の恐怖に、緊張感が高まり中々寝れずにいた。おかげで脇の下がぐっちょぐちょ。


 周りを見ると移動疲れからかラウルとグラッドさん、ネイさんは寝袋の中で爆睡中。図太いなぁ。


 ケイシーさんは頻繁に寝返りを打っているところ見ると、同じように寝れないとみえる。


 ルナさんは……、いない。寝袋が空だ。外の空気でも吸いに行ったのだろう。


 ふぅ……、どうせ寝れないのだ。俺も気分転換に外の空気でも吸ってこようかな。


 そしてそそくさと童貞はテントの外へ。


 辺りを見渡すと、特撮撮影地のように広く平坦だった土地が、白いテントでぎっしりと埋め尽くされていた。


「おお、こりゃ凄い。どこかのキャンプ施設にグランピングでもしに来たみたいだな」


 テントの入り口から漏れる光が、茜色に染まる空と相まって少し幻想的に見えた。


 しばらくとぼとぼと周辺を歩き回ると、意外と寝れない連中が多いみたいで、外で談笑していたりする。しかも同性同士ではなく、合コンのように男女混合。童貞には眩しすぎる光景だ。リア充たちよ、滅べ!!


 憎しみをまき散らしながら歩いていると、何やら鉱山の入り口が騒がしい。誰か怪我して運ばれて来たのだろうか?


 野次馬根性が働き、覗きに行ってみると。



「お願いだから鉱山の中に入れてよ!! 父ちゃんが、父ちゃんがまだ中にいるの!!」



 鉱山の門番をしている衛兵に突っかかる一人の少女がいた。まだ十歳にも満たないロリっ子だ。


 その手には錆びた金槌が握りしめられ、鉱山への突入を必死に訴えかけていた。


「馬鹿なことを言うんじゃない! お嬢ちゃんが行って何が出来るっていうんだ? 大人しく家に帰って待っているんだ!」


「嫌っ! 家に帰ってもわたししかいないもん! わたしには父ちゃんしかいないから……。だから父ちゃんを探しに行かせてよ!!」


 そう大声で叫ぶと大粒の涙を流す少女。


 んー、これは堪らんな。


 精神的にゴリゴリ削られるヤツだ。


 しかも、どう考えても彼女の父親が生存している確率は低い。鉱山地図に何カ所か避難施設があるにせよ、さすがに十日は持たないだろう。


 ただ、そんなことを誰がこんな幼気な少女に伝えられるというのか。もしそれが出来る奴がいるのであればベスト・オブ・ザ・ゲス野郎の賞を慎んでお渡ししよう。


 わーんわーんと、ただひたすらに泣き叫ぶ少女。


 門番をしている厳つい衛兵たちも、これにはすんごい困ってるようだ。掛ける言葉もないみたい。


 というかそこは慰めてやりなさいよぉ! ロリッ子が泣いているでしょうが!!


 居ても立っても居られなくなった童貞が、少女に近づこうとしたその時。


 俺よりも先にある人物が少女に駆け寄った。


「ねぇ、どうして泣いているのかな? 良かったらお姉さんに教えてくれない?」


 少女に優しく話しかけるのは、我が隊ミーハー女子三傑の一人、ルナ氏だった。


「父ちゃんが、ひっく、鉱山から、ひっく、帰ってこなくて……」


 嗚咽混じりに話す少女をそっと抱きしめるルナ氏。


「うん、そっかそっか。それは寂しかったね。でももう大丈夫だよ? お姉さんがお父さんを探してくるからね」


 語りかける姿は聖母マリアのようだった。


「ひっく……本当に? 本当に探してきてくれる?」


「うん、安心して。ちゃんと探してくるから。ねぇ、お姉さんにお父さんとあなたのお名前教えてくれないかな?」


「ひっく……わたしはターニャで、父ちゃんはロドリゲス」


 父ちゃん名前厳ついな!?


 ちょっと言いたくなるロドリゲス!! 父ちゃんの名前ロドリゲス!!


「ターニャちゃんね。じゃあお姉さんがロドリゲスさんを探してくるから家で待っててくれるかな?」


 目を擦りながら大きく頷く少女。


 ちょっとグッときた。


 なぜかはじめてのおつかいの感動シーンがBGMとともに脳裏に浮ぶ。


「ねぇ、ターニャちゃん? あそこに黒髪のお兄さんが立ってるでしょ? あのお兄さんも一緒にお父さん探すからね。お姉さんのチームの隊長さんなんだよ?」


 そう言って俺の方を指差すルナ氏。


 そうそうお兄さんもって……、ええぇぇーー!?


 巻き込まれたし!? 思わずマ◯オさん声になっちまったじゃねーか!!


 ちょっとちょっとぉ、ルナ氏、まじですか!?


 するとタッタッタッとこちらに駆け寄ってくるロリっ子。


 泣き腫らした目をグッと擦りこちらを見る。



「……父ちゃんを探してくれますか?」



 これはもうね、ヤバいっすわ。


 断れる奴がいたら、ベスト・オブ・ザ・クソ野郎の賞を慎んでお渡ししよう。


 だから……。



「任せとけ! ターニャちゃんの父ちゃんは必ず俺たちが連れて帰ってくるから」



 言っちゃったよ、カッコつけちゃったよ、この童貞如きが!!


 もう雰囲気に流されたというか、なんというか。


 待っているのは少女の絶望だというのに、俺は、俺はぁぁ!! あぁぁーーー、つれぇぇぇ!!


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 お礼を言わないでターニャちゃん! 罪悪感という即死魔法が炸裂するからぁぁ!!


「じゃあ、ターニャちゃん? お姉さんたち(・・)と一緒におうちに帰ろっか? おうちまで案内してくれる?」


「うん!!」


 そう言ってルナ氏の手を握り、元気に歩き出すターニャちゃん。ルナ氏が引っ張られて行く様は、なんとも微笑ましいものだった。


「ほら、隊長も早くついて来てください」


「へいへい」


 そして俺たち一行はターニャちゃん宅へと向かった。





 ◆◇◆





 意外とターニャちゃん宅は遠かった。


 ターニャちゃんも泣き疲れてしまったのか、家につくとすぐに寝てしまった。ターニャちゃんの寝顔尊い。


 さて、なんとか無事に家まで送り届けたが、鉱山に戻る頃にはすぐに出発となるかもしれんな。これは誤算だった。


 それにグラッドさんも俺たちが急にいなくなって、テンパってるかもしれないし。早く戻らねば。


「隊長、あの、ありがとうございました」


 森の中をずんどこ進む中、ふいにルナ氏からそんなことを言われた。


「ん? 別にこんなことくらいでお礼を言わなくてもいいよ。ただの散歩だ、散歩」


 そう、女の子と二人っきりで歩ける夢の散歩デート……。


 なーんて気分をたっぷり妄想の中で満喫させていただいております。むしろお礼を言うのはこちらの方でございます。妄想の中ではルナ氏とお手を繋いでおりますゆえ。


「いえ、そうではなくて、ターニャちゃんに約束してくれたじゃないですか? お父さんを連れて帰るって」


 あー、そっち? それ、かなり罪悪感あって辛いんだよね。思い出させてほしくはなかった。すでになんて言い訳しようか絶賛考え中である。でも……。


「ほんと見つかるといいな」


 本心からそう思った。ただ祈るばかりである。


 するとルナ氏が少し思い詰めた顔になると。


「……実は私もターニャちゃんと同じように鉱山で父を亡くしていているんです」


 くっそヘビィな話をぶち込んでくるという……。おいおい、ルナ氏よ? いきなりどした?


「ルナさんもですか」


「はい……。やはり当時も同じように鉱山を封鎖されていて、小さい私にはどうすることも出来なかったんです」


「今も昔もやり方は変わらないものなんですね」


「ええ。だからグラッド教官からその話を聞いた時、ついついカッときてしまって。あの時、隊長がフォローに入ってくれなかったら、きっと教官とは気まずいままでした」


 なるほど、だからルナ氏はグラッドさんに突っ掛かったのか。結構、俺ってナイスフォローだったのでは?


「そうでしたか。上手くお二人の間に入れて良かったです」

 

「私もわかっているんです……。ターニャちゃんのお父さんの生存が難しいことくらいは」


 ですよねー。ワンチャン、避難場所で持ちこたえれるかもしれないけど、問題は食料と水だ。避難した鉱夫さんがロドリゲスさん一人とも思えないし。十日はさすがにきついだろうな。


「でも……、それでも私がターニャちゃんの立場なら小さな希望にでもすがりたいと思ったんです。それが後に恨まれるようになったとしても」


「ルナさん……」


「だから隊長がターニャちゃんに連れて帰るって言った時、私もかなり気持ちが楽になったんですよ?」


 絶賛それも後悔中という……。


 しかしそんなことは言えない。言った瞬間、ルナ氏の好感度が地の底へと落ちるだろう。


「それにまだ可能性が閉ざされたわけでもないですし。頑張ってロドリゲスさんを見つけ出しましょう! 私はまだ生きてると信じてますから!」


 にこっと笑うルナ氏。


 ラウル目当ての女子でなかったら童貞のハートをズキュンと打ち抜く笑顔だったのになぁ。


 片想い中の女子ほど興味のない生物はいない。


「そうですね、では微力ながら手伝わさせていただきます」


「ありがとうございます、隊長!」


 そんなこんなで一路、鉱山を目指した。


 ルナ氏の機嫌が終始良かったのは言うまでもない。




 ◆◇◆




 無事に我が隊のテントへと戻ると、案の定グラッドさんがテンパっていた。


 どうやら逃げ出したと思われていたらしい。失敬な。


 とりあえず事情を説明し、事なきを終えたが危ないところだった。


「はぁ……、まったく。事情はわかったが、我々の目的を忘れてはだめだぞ? 優先すべきはゴブリンの討伐と魔瘴石の破壊だからな?」


 わかっております。


 モチのロンでございますよ。


 足元をすくわれないよう細心の注意を払いますって。


 しかしこのまま突入するのもやはり心もとない。


 ロドリゲスさん捜索という追加クエストを頂戴してしまったのだ。出来る限りの最善を尽くしたいと思う。


 というわけでパワーアップタイム。


 今朝覚えた”気配察知”と”回復魔法”および魔法補助スキルを上げておくことにした。


 結果。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


・名前:ヨハン

・種族:ヒューマン

・年齢:16

・職業:見習い兵士

・LV:5

・SP:403


〔発現スキル一覧〕

《アクティブ身体強化一覧》

・筋力強化     練度【8】

・体力強化     練度【9】

・反応強化     練度【8】

・才覚強化     練度【8】

・魔力強化     練度【8】

・精神強化     練度【8】


《流派スキル一覧》

☆アルフェリア王国流護身術

・護身剣術     練度【10】★ 

・護身体術     練度【10】★ 


《感覚系スキル一覧》

・気配察知     練度【10】★  UP!


《魔法系スキル一覧》

・初級回復魔法   練度【10】★  UP!


《魔法補助系スキル一覧》

・体内魔力操作   練度【10】★  UP!

・術式制御     練度【10】★  UP!


《加護一覧》

・ガイアードの祝福


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




 身体強化以外はカンストするという。


 ただ残念なことに初級回復魔法をカンストしても、中級にはランクアップ出来なかった。おそらく何か取得条件があるのだろう。無念。


 しかしこれで突入準備は整った。


 後はやれることをやるだけだ。

 

 すると時機を見計らったように第一陣の帰還の知らせの鐘が鳴り響く。


 時間だ。



 さーて、いっちょ頑張りますか!!


 


【あとがき】

本日も読んでくださりありがとうございます。

ルナ氏のイメージは学級委員長みたいなキャラにしたいのですが、果たして上手く表現できるかどうか。

また明日も更新です。

どうぞよろしく。

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