2話 フォルナ村実地研修 スキル取得
ちょっと早いですが本日分です。
馬車に揺られて鉱山までドナドナされている我ら十八小隊。
出発よりそろそろ三時間ほどが経つ。
グラッドさんより感覚系スキルのコツを教わったが、まだ誰一人スキルを発現出来ている者はいなかった。
かくいう俺も。
「だから、もっとこう遠くをボンヤリ見つめる感じで、そう、いやなんか違うな、もっと脱力するんだ。いや、力抜きすぎ! というかヨハン君なんか死んだ魚のような目をしてないか?」
解せぬ、グラッドさんの指示通りにやっているだけなのに、まさかディスられるとは。
そもそもこの人、教え方が上手ではない。
ピキピキピィーンとした感覚とか、ゾクリとした感覚なんて言われても、センスのない俺からしたら何のことやらさっぱりわからない。
というか感じねぇよ。教える方も感覚派すぎる。
「ふう、やっぱりこのスキルは教えるのが難しいな。もう一度やるぞ? 今から殺気を出すから全員目を閉じろ。何か感じた者が居たら挙手してくれ。いくぞ?」
言われた通りに目を閉じて気配を探るが、やはり全くもって何も感じない。本当に殺気を出しているのだろうか? むしろ何もしてないんじゃないの?
そんな時だった。
「あ! 感じました! 教官の方からヒシヒシとした威圧感を感じます。あ、今ドーンとしました、ドーンと」
ラウルが目を閉じながらよく分からないことを言い出した。表現方法は独特だが、どうやら気配察知のスキルが発現したらしい。
これだから天才って奴は。
「やるな、ラウル君。では、そのまま意識を俺の方だけではなくて外に向けることはできるか?」
「はい、やってみます。あ、出来ました。なんか鳥のような生物を一瞬感じたような気がします」
「ほお、さすが呑み込みが早い。どうやら本当に気配察知を取得したようだな。だが、慢心はするな? これはまだ第一段階に過ぎない。達人は察知できる範囲が百メートルを優に超す。日々の鍛錬を怠らないように」
「はい!!」
く、これが天才と凡才の差か。というかラウルの奴、もはやニュータイプなんじゃないのか? その内、攻撃される前に回避行動をとりそうなんだが?
チートなしのくせに末恐ろしい奴である。
俺もラウルのようなセンスがあればなぁ。
って、あるじゃん!?
センスがなければセンスを磨けばいいだけだ! そうだよ、俺にはぶっ壊れの裏ワザがあるじゃないか!
アクティブ身体強化の一つ、――【才覚強化】。
これは手先の器用さや、知識や技術の取得速度の上昇などにバフが掛かるのだ。
つまり練度を上げれば上げるほどスキルの取得も容易くなるというもの。
早く気づけよ俺!!
ただ才覚強化を使用すると、反動でごっそり集中力を削られ、酷いと意識が途切れることがあるようだ。俺が三日間も意識不明に陥ったのは、割とこのスキルのせいだと思う。あまり多様するのは危険である。
まあ、でも練度が低ければ大丈夫っしょ。
といわけで……。
才覚強化、練度5、発動!!
「あの、グラッドさん? もう一度だけやってもらえますか?」
「ん? いいぞ、ほら目を閉じろ。いくぞ?」
するといきなりピキピキピキィーンときた。
先ほどまでとは全く違う感覚。
言うなればあれだ、眉間の辺りに稲妻が走るやつ。
これは間違いない。
何か確信めいたものを感じたので、ステータスウィンドウを確認すると。
・気配察知 練度【1】 NEW!
ほら見たことか! スキル取得してるし!
ほんとさっきまでの苦労は一体なんだったのだろうか? これが天才と凡人との差というのならまじで嫌になるなぁ。
「あ、グラッドさん。俺もなんか取得出来たっぽいです。幌の上に止まってる鳥がわかります」
そういってグラッドさんが視線を天井に向けると。
「うむ、確かに天井に鳥がいるな。やるじゃないかヨハン君。ラウル君に感化でもされたか?」
「まあ、そんなとこですね。コツを掴めばすぐでした」
この台詞がいけなかった。
今の今までラウルに夢中だったミーハー女子たちが、俺の言葉に反応してしまったのだ。
「あの、すみません隊長殿? どのようにしてコツを掴んだのでしょうか? アタシ頭悪いから教官の説明が理解できなくて。良かったら教えてほしいなー、なんて」
と、ポリポリと頭を掻きながらそう話すネイさん。
するとそれに順ずるように。
「隊長、私もお願いします! もっとコツを詳しく教えていただけないでしょうか?」
「あの、えと、その、わ、わたしも教えてほしいです!」
ルナさんとケイシーさんも乗っかってくるという。
これは困った。テキトー言いすぎた。
しかし初めて浴びる女子の注目。悪いものではない。童貞とすればここで彼女たちの評価を上げておきたいもの。
「えーっとですね、まず意識をグラッドのさんの方に向けますと、突然ピキピキピキィーンとした稲妻が眉間辺りに走ります」
ここまで話したところで彼女たちの目が白い物に変わったことは言うまでもない。
ああ、ごめんよ、お嬢さんたち。
膜ブレイクの方法ならいくらでも教えてあげれるんだけど、こういった感覚的なことは語彙力不足も相まって童貞には無理でした。もっとセクシャルなことなら得意なんですよ、ほんとに。保健体育とか。
しっかし、人に物を教えるって難しいんだなぁ。意外とグラッドさんってすごいのかも。色々と学ぶべきところは多そうだ。
こんな具合で我ら一同、馬車に揺られて過ごしていった。
◆◇◆
時刻は多分お昼になったくらい。
我々は目的地であるフォルナ村へと到着した。
のどかな田園風景が広がる小さな山村。目的の鉱山は村の中を流れる川を、上流にのぼった場所にあるらしい。まだしばらくは馬車の中である。
これはグラッドさんから聞いた話となるが、ここフォルナ村は国が管轄する開拓村だと言う。
国から派遣された調査官が、地質調査を行ったところ、鉱石などの資源が豊富な地域ということが判明した。しかもミスリルなどの希少鉱石の埋没も確認されたため、あっという間に国を上げての一大事業となったようだ。
開発村が出来てまだ一年。
巨額の税金を投じらたためか、村の人口はたった一年で千人を超えるという。シム〇ティならそろそろ村から町へとステップアップする頃合い。そんな矢先にこのゴブリン騒動だ。なんとしてでも解決したいところである。
しかしゴブリン相手に騎士団を派遣するには少し仰々しい。だったら新人教育を兼ねて警邏隊に任せてはどうかってのが、実地研修となった大体の流れである。
そうこうしていると、森が大きく切り開かれた岩肌剝き出しの採掘現場のような場所へと到着した。
どうやらここが問題の鉱山のようだ。鉱山前の広場は特撮撮影地のようにだだっ広い平坦な場所。本来であれば運搬用の馬車などが多く待機していたのだろうな。
「よし、着いたな。では、まずは我々の休憩場所兼、作戦会議室となるテントの設営から始めようか」
グラッドさん指示のもと、我々はモンゴルのゲルのような白いテントを鉱山入口付近に設営し始めた。時間にしておよそ三十分ほど。組み立ててみると想像よりも立派なものが出来上がった。
周囲を見ると、同じような白いテントがちらほらと設営されていた。
どうやらテントを設営する場所は早いもの勝ちらしく、早く到着した者ほど良い場所を選べるらしい。だからグラッドさんはすぐに出発したのか。
そしてテント内に入ると、そこはおよそ十畳間ほどの広さの土間。その中心に簡易テーブルと六人分の椅子を並べられ、ちょっとした会議室のような配置となっていた。
「では、椅子に掛けてくれ。作戦内容を説明しよう」
グラッドさんを上座に全員が馬車の中のような並びになり着席。テーブルの上には鉱山内の地図と思われる大きな羊皮紙が広げられた。
「この鉱山にゴブリンが出現したのは十日前。鉱山で働いていた鉱夫がいきなりゴブリンに襲撃されたのがことの発端だ。幸い命に別状がなかったものの、続々とゴブリンが現れたために緊急事態を発令。すぐに鉱山を閉鎖し、状況は現在に至るわけだが……」
今更ながら思うに、こんな大きな鉱山をすぐ封鎖出来るものなのだろうか? まあ、結果封鎖してあるから出来たんだろうけど、なんか引っ掛かるんだよなぁ。
「まず突入部隊は二つに分けられ、第一陣が先行して突入し、入れ替わりで第二陣、そしてまた第一陣と繰り返し突入していく。我々、十八小隊は第二陣での突入だ。先行じゃないだけまだマシだと思ってくれ」
確かに。到着して早々、突入はちょっとやだな。
「一回の突入時間の目安は五時間。その間に出来る限り多くのゴブリンを討伐し、その元凶と思われる魔瘴石の破壊が今回のミッションとなる。鉱山内は迷路のように入り組んでおり、気配察知が使えないと警戒がシビアとなる。そうなれば時間もかなりロスすることになるだろう」
内部地図があっても敵の位置がわからないんじゃ、そりゃ進むのも遅くなるわな。
「最優先事項は魔瘴石の発見と破壊だ。これさえ処理してしまえば、ゴブリンも増えることはない。さあ、腕の見せ所だぞヨハン隊長?」
にやっとこちらを見るグラッドさん。発破を掛けようとしているのが丸わかりである。下手くそか。
「まだまだ未熟ですので、出来る範囲で頑張らさせていただきます。それと一つ疑問に思ったのですが……」
ついつい好奇心がゆえに口走ってしまう悪い癖。自分でも一言多いとは自覚している。
「封鎖に至る初動がとても早いように思いますが、鉱山内には取り残された人はいなかったのでしょうか?」
すると途端にグラッドさんの顔つきが厳しいものに変わった。
ああ……、しまった。余計なことを聞いてしまった感が強い。やっぱり地雷だったか。
「報告はないが、……恐らくいるだろうな」
「えっ!? では避難者がいるにも関わらず鉱山を封鎖したのですか!?」
グラッドさんの言葉に反応したのはなんとルナ氏。しかも少し怒りを含んだ声に思える。
「仕方ないんだよ。こういった鉱山では万が一に備えて厳しいルールが設けられている。特にこう言ったモンスターの出現による二次被害を抑えるためには致し方ないことなんだ」
「だからと言って助けられる人を見捨てるなんて!!」
「ならどうしろって言うんだ? 入り口を封鎖せず鉱山からゴブリンが出てくるのをただ見てろと言うのか?」
「そうは言ってません! でもっ!!」
んー、なんだか割り切れてないご様子。ルナ氏の気持ちはわからんでもない。ただそれをグラッドさんに当たるのはお門違いなんだよなー。それを決めたのはこの村の人たちなんだし。
「ルナさん落ち着いてください。気持ちはわかります。しかし我々の今やるべきことは一刻も早いゴブリンの殲滅です。ここで言い争うことではありません。それにグラッドさんを責めたところで何の解決にもなりませんよ?」
すると、はっと我に帰るルナ氏。
「グラッド教官、も、申し訳ありません!! 私ったら、あの、つい興奮しちゃって……、本当に申し訳ございませんでした」
そう言って頭を下げると、急に借りてきた猫のように大人しくなるルナ氏可愛い。
この子、見た目が国民的アイドルグループにいるセンター並みに可愛いんだよね。しかも握手会なんてさせたら童貞をこと如くキュン死させるほどの猛者である。
ぱっちりしたお目目に、可愛くぷりんっとした唇。化粧いらずの顔とはまさにこのこと。
でも残念なことに、ルナ氏のお目当てはラウルでなのある。なぜ俺にアビリティ【イケメン】がないのか。本当に悔やまれる。
「いや、ルナ君の意見はもっともだ。だからこそ我々は任務を忠実にこなしていかなくてはならない。しかし時に感情はチームワークを乱す要因ともなる。それを理解した上で任務に取り組んでもらえることを切に思う」
「はい!」
おお、良かった。
どうやらルナ氏にも納得してもらえたようだ。グラッドさんも上手くまとめたな。助かったぜ。
するとグラッドさんが俺の方を見てなぜかぱちりとウインク。
くっそ気持ち悪いな、おい。
意図があるにしろ男からのウインクは殺意が湧いてしまう。
というかもしかしてグラッドさん、あんたそっちの気があるんじゃ……、いや、よそう。体型も細マッチョでやけにリアルに思えてしまうから。
そんな邪念を振り払い、打ち合わせは進む。
そしてその二時間後、広場に鐘の音が鳴り響く。
どうやら第一陣が鉱山へと突入したようだ。
【あとがき】
読んでくださりありがとうございます。
明日も引き続きお楽しみいただければと。
どうぞよろしく。