1話 フォルナ村実地研修 出発!
迎えて翌日こと。
まだ朝日も昇らない暗闇の中、俺は東門の馬車ターミナルへと向かっていた。
周囲には同じように歩く同僚たち。朝も早いこともあり、彼らのテンションはビックリするぐらい低い。のそりのそりと歩くその姿は、まるで生ける屍。
みんな研修行きたくないんだな。……って、当たり前か。誰が好んでゴブリン退治などしたいものか。
しかし、同僚たちがそんな絶望に打ちひしがれる中、俺はある淡い期待を胸に抱いていた。
それは――エロフとの出会い。
ファンタジーの定番、ゴブリンやオークといったモンスターには、肉奴隷と化したエロフ様がいつも傍にいるのがテンプレではありませんか。しかも今回はその巣穴探索。エロフの一人や二人いたって不思議じゃない。
昨夜の内にこれに気付いた俺は、もういきなりテンションマックス、フル妄想モード。ゴブリンに好き勝手されてアヘ堕ちしたエロフ様。くっそ滾る。こういうの大好き。
というわけで、まだ見ぬエロフ様を捜索するため、本日はやる気満々な俺氏。是非ともゴブリンに捕まっていてほしいものだ。
そうこうしている内に馬車ターミナルへと到着。
朝の五時ということもあり、ターミナル内には我々警邏隊のみ。馬車の始発便が到着するのはだいたい六時前後となるので、それに被らないように五時出発となった次第である。
そんなロータリーには二頭立ての幌馬車が二十台以上もずらっと並ぶ。御者さんが忙しなく幌馬車に荷物を積み込んでいた。
今回の実地研修は三日間。その間、野宿するわけにもいかないので、テントや食料などの荷物も必要となる。大所帯での移動は思ってる以上に大変なのだ。
とりあえずロータリー周辺をうろついていると。
「おーい、ヨハーン! こっちだ、こっち!」
ラウルに手を振られて呼ばれるという。朝から元気な奴だこと。なぜ美少女じゃないのだろうか? お前の立ち位置からしてヒロイン枠だろうが。
仕方なしにそちらへ向かうと、今回の研修で同じチームとなるメンバーがすでに集まっており、こちらの到着を待っていた。
駆け足でそちらに向かい、面々に朝の挨拶を交わす。
すると。
「おいおい、ヨハン? その装備どうしたんだ? もう衛兵に昇格したのか?」
さっそくラウルに指摘されるという。まあ、周りが皮装備の中、一人だけ鉄装備って浮くよね。
「違う、違う。この前の訓練で俺の鎧が壊されたろ? それの代わりに支給されただけだ。それよりもなんだよ、このチーム編成? 俺が隊長っておかしくないか!?」
「え、そうか? 全然おかしいとは思わないけど?」
きょとんとした顔でそう返す犬耳イケメン。
く、そんな純真な瞳でこちらを見ないでいただきたい。自分のくそったれな心に吐き気がするだろ?
「ちなみにいつチームを決めたんだ?」
「ヨハンが退院した日の夜に、新人の全体ミーティングがあったんだけど、そこでチーム編成があってさ」
あー、ちょうど安静日の時だな。そりゃ知らんわ。
「その時にはすでに隊長は決まってたんだ。後はバラバラ。入りたいチームがあれば早いもの順。あまりにチームバランスが悪ければ、上が勝手に調整して配属って感じかな」
なるほど。意外とアバウトな感じだな。となると、俺を隊長に任命したのは上の連中か。疑ってすまんなラウル君。きみの嫌疑は晴れたよ。
ただ、一つ気になることが。
「それなら俺よりよっぽどラウルの方が隊長に向いてると思うけど、なんでお前が隊長じゃないんだよ?」
実力良し、評価良し、人気良し。三拍子揃ったラウルが隊長から外されるとは思えないんだよな。
「いや、始めは選ばれていたんだけどさ、所長に無理を言って降ろしてもらったんだ。前も言ったけどヨハンと一緒のチームの方が面白そうだろ?」
おい、なんでもありかよ!? 雑だなー、うちの職場。まあ、でも決まってしまったものはしょうがない。
となると、ラウルの背後にいらっしゃるお嬢様方も俺と一緒のチームになりたくて選んでくれたのかな?
そんなことを考えながら、女子三人組を見ると、全員キラキラとした視線をラウルに送っていた。
――だと思ったよ!!(血涙)
あからさまにラウル目当て。ここまでくると逆にすがすがしいわ! このミーハー女子め!!
しかし同期とはいえ、まったく絡んだことのない相手だ。いくらラウル目当てといえどもお互いの名前だけも覚えておかなくては。
ということで簡単に自己紹介を交わす。
一人目。茶髪ボブカット、熊の獣人であるネイさん。スポーツ大好き長身女子。片手剣と槌矛を使い分ける前衛アタッカー。バックラー持ちで盾役も可能とのこと。ちなみに巨乳。推定Fカップ。
二人目。金髪ポニーテール、人族のルナさん。ミーハー女子のリーダー的存在。短弓と片手剣の扱いが得意な中衛アタッカー。初級風魔法も多少扱えるとのこと。ちょっと控えめなCカップ女子。
三人目。白髪ロングヘアー、兎の獣人であるザ・ロリータ代表ケイシーさん。火と土の初級魔法が使える後衛アタッカー。護身用で片手剣を装備しているが、ほぼ未使用とのこと。絶壁Aカップ。
女子の自己紹介が終わるとラウルがイケメンスマイルを混ぜながら自己紹介を始めた。三人とも漫画のように目がハートマークである。
「どうも、今回副隊長を務めるラウルです。武器は片手剣と円盾を使います。みんなの盾役として頑張りますのでよろしくお願いします!」
この瞬間、ミーハー女子から『キャー』という歓声と盛大な拍手が上がったのは言うまでもない。
やれやれ、マジ卍。あれ、死語か?
するとおもむろにラウルがこちらを見る。どうやら俺も自己紹介をしろということだろう。
あー、くっそやりにくい。
「えー、今回隊長に任命されましたヨハンです。武器は長剣、近接戦闘が得意なのと多少回復魔法を使えますので怪我したら教えてください。初めての指揮で不慣れなところがあるかもしれませんが、よろしくお願いします」
するとまばらな拍手をいただいた。
完全に興味なしという。むしろなんであんたがそんな装備もらってんの感が強い。
ぐぉぉぉ、これが顔面クオリティの差かぁ!!
つらたん!!
まだ出発時刻まで少し時間があったため、自然とその場で談笑が始まった。と言ってもミーハー女子たちがラウルに質問攻めをするだけの地獄の時間となっただけだが。
「すまんすまん、遅くなったね」
しはらくして現れたのは、以前訓練場でアヘ落ちしたグラッドさん。
今回の実地研修では衛兵隊より一名が引率役、いわば教官のような立場で配属される。しかも今回、我が隊に配属されるのは第九隊副隊長補佐であるグラッド氏。
正直かなり気まずいが、先日の訓練はローズリリイのこともあり、訓練内容はオフレコとなっている。あの場に居合わせない限り知る者はいないと思うが、グラッドさんに目の敵にされてないか心配なところである。
面々と一緒にグラッドさんへ朝の挨拶を交わす。
「まさか俺がヨハン君の隊に配属されるとは思わなかったよ。ま、でもかなり楽できそうで助かるがな。これから三日間よろしく頼む」
おお、意外と後腐れのない性格のようだ。ありがたやー、ありがたやー。
「グラッドさん、こちらこそよろしくお願いします。初めてのことばかりでご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうかご容赦を」
「まあ、そう固くなるな。リーダーが緊張していては皆も固くなってしまうぞ? さて、出発時刻も迫っていることだし、続きは馬車の中でも話そうか?」
グラッドさんの号令を受けて、我ら一同、フォルナ村へと出発することに。
どうやら準備の整った部隊から出発しているようで、我々もかなり先行して出発することが出来た。
馬車の中は電車のような横座りのシートとなっており、片側に女子三人組が並んで座り、その反対側に我ら男どもが着席。まるで場末の居酒屋でやるコンパのような雰囲気である。だが女性陣の狙いはラウルただ一人。
まじでくそったれ。
こんなコンパに呼ばれたら、間違いなく幹事の顔面に熱々の唐揚げを叩きつけて帰るわ。
「さて、諸君。すでにミーティングで研修の流れをある程度聞いていると思うが、今一度確認のため説明をおこなう」
そんな場の空気を壊そうと、グラッドさんが説明を始めた。さすがのミーハー女子たちもグラッドさんへと視線を向ける。
「今回の研修においての最終目的はゴブリンの殲滅と魔障石の破壊だ。しかし、そうは言っても場所が鉱山の坑道内となる。普通にやっていては非常に手間が掛るだろう。そこで諸君らには今回の研修で『気配感知』といった感覚系スキルの取得を目指してほしい」
なるほど、ただの場数を踏ませるだけの研修ではないってことね。ちゃんと俺たちのレベルアップも考えているのか。
「ただこの気配感知スキルの取得難易度は、A~Fの六段階中のCランクと中々に難しい。まずセンスがなければ出来ないだろう」
いいね、俺の場合はスキルの発現さえしてしまえば、後はなんとでもなる。俺にとって難しいのは最初だけなのだ。
「フォルナ村までは半日ほど掛る。それまで諸君らには、この感覚系スキルの練習をしてもらいたい。といっても俺もあまり得意ではないんだけどな。なんにしろまずはコツを教えるぞ」
そんなグラッドさんの言葉に、馬車の中が歓声で湧く。
特にラウルのテンションが最高にやばい。狂喜乱舞である。取得できなかったらどうするんだろ?
ということで、急遽、スキルの修行が始まった。
【あとがき】
明日の更新は21時くらいを予定しております。